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第30話運命の日、冒険者達

 ――冒険者ギルド――

 

 「ギルバートさん、王都からお手紙ですよ」

 冒険者ギルドの迷宮都市支部長室で、手紙を受け取る。

 

「あぁ、ありがとう」

 持ってきてくれた職員が退室後、手紙を開ける。

 

「はぁ〜」

 手紙の内容にため息を吐く。

 

 王都の懇意にしている貴族や勇教会、神教会の要職。


 様々な所へコンタクトを取り始めて、もう数週間経つ。


 アルファの正体に気付いてから、何とか冒険者ギルドで囲い込みたかったが為に迂遠な表現だったのは認める……認めるが……


「なんで誰もオレの話を本気にしねぇーんだよぉー」

 こちらはかなり急ぎで手紙を出しているのに、どいつもこいつも儀礼的な期間を空けて更に通常便で返信してきやがる。


 オレにも理解できないが、身分の高い者達の間では(いくさ)以外で慌てて手紙に返信することは下品とされており、只でさえ遅い返信を更に遅らせるマナーがある。


「見栄ばっかりのアホ共が……」

 しかしそれも終わりだろう、この間やっと処理が終わったショートフェイスベアの毛皮と骨格標本がもうすぐ王都のオークションに出品される。

 

 更にアルファが仕留めた火地竜の魔法鱗も魔力が抜けないようにする処理が終わった。


 流石に呑気にしてる上層部も実物を見れば、考えを改めるだろう。


 ゴゴゴ――


「うわっ」

 突然揺れ始め、立っていることが難しくなる。


 揺れが収まり、ホッとする。


 叫び声や動き回る音が聞こえる、地震でパニックになっているのか?


 ドンドンドンッと扉が乱暴にノックされる。


「入れ!どうした!?」

 何か、とてつもないイヤな予感がする。


 職員が扉を当て転がるように飛び込んでくる。


「ギルバートさん!魔物が!大量の迷宮の魔物がここへ襲いかかっていてます!」


 魔物!?一体何が起こっているんだ――


◆◆◆◆


 ――『白髪の女神団』パーティハウス――


  

「クリスさん!そこら中から魔物が来てます!早く逃げないと!」

 『白髪の女神団』で1番新入りの子――ジョッシュ――が慌てて報告してくる。


 先程の地震の後、中心部から少し南にあるパーティの家で状況を確認しているが――


「ダメよ、何が起こっているのか分からないしサリーが冒険者ギルドへ行ってるわ、助けに行かないと」

 今日は運悪く、事務手続きの為に冒険者ギルドへ行くメンバーとパーティハウスに残る者とで別れてしまっている。


 子供もいるのに迂闊(うかつ)に動けば逆に危ない。


 外では人々の悲鳴と魔物の鳴き声が響いている。


 ここは……


「ジョッシュ!私の子供を連れて南門から逃げて!」

 新入りのジョッシュに子供を任せて、私は他の冒険者と住民の避難誘導をすることにする。


「子供を連れてって……クリスさんはどうするスか!?」


「1番大きくて目立つ私が逃げたら、今応戦してる冒険者達も総崩れになるわ」

 驚いた様子でこちらを見る彼へ返答する。


 武器を手に取り、パーティハウスから飛び出す。


 周りでは人々が逃げ惑っていた。


「戦える冒険者は武器を取りなさい!使い魔を飛ばせる人はどこから魔物が来ているのか教えて!」

 叫びながら剣を振るい、人々を襲う魔物を薙ぎ払う。


「巨躯のクリスだ!」「白髪の女神団か!助かった!」「中心部から来ていることだけはわかってる!逃げるなら南門へ!」


 避難誘導をしたり、魔物へ応戦している冒険者達から状況を聞いて考える。


 ――中心部から魔物が来るなら南門へ大勢逃げて来る筈――


「魔物へ応戦しながら中心部を目指しましょう!」

 冒険者達と協力して、中心部を目指す。


 サリー、無事でいて。

 

◆◆◆◆ 


 ――冒険者ギルド――

 

「サリーさん!支部長が来ました!」

 地震の後、冒険者ギルドにいたパーティ『白髪の女神の団』のメンバーは他の者と共に冒険者ギルドを防衛していた。


 今日は迷宮ではなく、パーティに関する各種資格の更新作業の為、冒険者ギルドへ数人で来ていた。


 クリスは子どもと共に家にいる。


「サリーさん!どのような状況ですか!」

 ギルバートが、寄せ集めの冒険者達の指揮を執っている私の元へ来る。


「わかりません、凄まじい魔物の数です、辛うじて立て籠もっていますが……」

 状況は芳しくない、地震からほんの数分なのに次々と魔物が現れる。


 現在、使い魔を飛ばせる者には片っ端から飛ばしてもらっているが手練れの者がいない為、情報は限定的だ。


 しかし――


「どうやら迷宮に穴が開いて、そこから魔物が湧き出しているようです」

 このままではジリ貧なことだけは確かだった。


◆◆◆◆


 ――冒険者ギルド近くの宿、の厩舎内――

 

 ……地が揺れたかと思えば、か弱い2本足の人間共が走り回っている。


 我輩はアシヌス、高貴なる(ヒヅメ)を持つ生物、その中でも更に気高いロバである。


 蹄と言ってもヤギや牛のような醜く2つに割れた偽物ではない、最も頑強な1つの本物の蹄を持つ者。


 地が揺れてから時間が経っているが、人間共が魔物に襲われ続けている。


 下僕たる人間共が我輩達の為に作ったこの巣へは入って来ない。


 どうやら人間共しか目に入っていないらしい。


 我輩の周りにいる、馬達がどうすればいいのか分からず、巣の中でキョロキョロしている。


 この駄馬共(だばども)め、普段は人間は友達だの、主人だなどと抜かしている癖にいざ人間共が襲われればどうすれば分からないとは……


 しかし我輩の下僕共は何をしているのだろうか?


 確かオス……アルファは高い壁の所で別れたので分かるが、メスのマリーは同じ建物の人間向けの巣にいるはずなので、すぐ様我輩の元へ駆け付けると思ったが……


 奴等人間共は2本の足しか無い上に蹄も持っていない為、素早く駆ける事は出来ない。


 このような魔物が多数いる場所であれば、か弱い奴等は我輩へ助力を求めに来る筈。


 と、なればこの巣の近くにはいないのだろうか?


 オスのアルファは大丈夫だとして、メスのマリーはこのような事態を自力で脱する事など出来ないだろう。


 ……仕方あるまい、下僕を護るのも高貴たる者の宿命。


 奴等が行きそうな他の巣は目星が付いている、迎えに行ってやろう。


 口の縄が繋がれている杭を力の限り引っ張る。


 この巣には水も草もあったので留まっていただけで、この程度の枷などすぐに外せる……外せ……はず……


 ブヒヒーン!!ズボッ!!


 思わず気合の(いなな)きが出てしまったが、予定通り枷は外れた。


 我輩の行動に興奮した馬達も暴れ始め、次々と自由になる。


 この風見鶏共め――馬だが――自分では何も決められん癖に一丁前に怒りおって。


 やはり我輩のような高貴な者が導いてやらねばならぬ、こんな奴等でも割れていない本物の蹄を持つ者、見捨ててもおけぬ。


 ブヒヒーン!


 我輩が号令を掛け、走り始めると他の馬達が続いて走り出した。


 行先はアルファとマリーが"冒険者ギルド"と呼んでいる人間共の巣だ。


◆◆◆◆


 ――冒険者ギルド――

 

「サリーさん!矢がもう無くなる!」「魔術師達ももう魔力が少ない!」


 クソッ……着実に追い詰められている。


 打って出なければいけないが、魔物が多すぎて突破は難しい。


 クリスと子供は無事なのだろうか、他のパーティメンバーは戦っているのだろうか。


 最早諦観に近い心境となっていると――


 パカラッパカラッドドド!と激しく蹄が石畳を叩く音が聞こえてくる。


「なんだ!?新手の魔物か!?まだ使い魔が外にいる者はいるか!?」

 すぐ様使い魔がまだ使える者に偵察を頼む。


 そして帰ってきた言葉に驚く。


「馬!?馬の群れが魔物を押し退けて走ってきます!」

 馬ぁ!?


 なんでそんな事が起きているのか分からず、混乱する。


「でも……すごい!魔物達が馬を避けています!もうすぐ正面玄関に来ます!」

 馬を避けている?


 そういえば、魔物達は異常なまでに人間を狙っている。


 魔物と言えど野生生物、籠城している我々を執拗に襲うようなことは普通はない。


 だが……これはチャンスだ!


「乗馬の心得がある者は全員準備しろ!馬の群れを止めて騎兵隊を作るぞ!最後のチャンスだ!」

 腹を決めて準備していると――


「北門へ来い!北西の穴は塞がった!ここから出られるぞ!」

 先程から激しい爆発音や、何かが炸裂する音の響いていた北門の方から魔法で増幅されたであろう声が聞こえる。


 冒険者ギルドの窓から北門を見れば、壁上部から凄まじいオレンジ色の火の魔法が次々と飛んでいた。


 この巡り合わせ!文字通りチャンスだ!


「北門へ向かうぞ!全員気張れ!」

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