第五十一話雨が止んだ後の晴天って、それはそれで気圧で頭砕けるんだよね。
いつものようにガラガラと街道をアシヌスが先頭の馬車が征く。
今日も御者係はルミである。
「1日で天気よくなってよかったなぁ、ジメジメしてたら買いこんだ食料がカビちまう所だったぜ」
実際、何日も雨で停止しなくてよかった。
あのまま何日もトランプしてたら、多分俺の腕は肩パンによってパンパンに膨れ上がって動けなかっただろう。
「そうですわねぇ……宿場町まではまだ何日か掛かりますわ、このまま晴れていてくれればいいんですけれど……」
しばらく進むと緩やかな丘陵地帯に差し掛かり、所々岩が露出している地形になってきた。
とはいえ、それほど標高が上がったわけでは無く藪等があるわけでも無い。
そんな丘の中、1つの頂点部分に差し掛かろうかという登り坂の途中に、3人の男女と車軸の折れた荷車が道の真ん中を塞いでいた。
「ルミ、停めてくれ」
まだ遠目にしか見えない場所で即座に馬車を停止させる。
うーん……地形を確認すれば稜線の向こうは見えず、稜線までの距離は精々200~300メートルほど。
更に道から外れた場所には大き目の岩がいくつか隆起しており、こちらから岩の裏側は見えない。
これはなぁ……
「何か困っているようですわよ?見た所、荷車の車軸が折れてしまったようですけれど」
ルミも彼らのことが見えたようで、話かけてくる。
「ちょっと話を聞いてくるよ」
怪しすぎるので、俺が先行して話を聞くことにする。
御者台に置いていたAK-47を持ち、シングルポイントスリングを斜めに掛ける。
銃口を下へ向けたロー・キャリー・ポジションでAK-47を構えて、小走りで近付いていく。
馬車から立ち往生している彼らまでは大体150メートルから200メートルほど。
近付けば車軸の折れた荷車は、どうやら人力で牽く物のようだ。
立ち往生中の3人組は既にこちらを見ており、並んでいる。
男2人、女1人。
彼らから10メートルほど離れた場所から声を掛ける。
「どうされましたかー!」
10メートルと言えば小中学校の教室の教壇から最後尾くらいの距離があるので、多少声を張らなければならない。
俺の声を聞いて、3人がこちらへ来ようとする。
しかし――
「そこで止まれ!近付くんじゃない!」
俺は銃口を彼らに向けて制止する。
銃口を向けられた彼らは困惑した様子を見せて、その場で止まる。
「き……昨日の雨で泥濘に車輪を取られて、車軸が折れてしまったんです!」
3人の中から代表らしき男がこちらへ大声で返答する。
残りの2人は何故かそのまま、荷車の後ろの死角へ行こうとする。
「オイ!そっちの2人!動くんじゃねぇ!」
叫ぶと同時に隆起した岩の陰から、弓矢を持った奴がこちらを狙っていたのが見えた。
即座に安全装置を外し、ソイツへ弾丸を叩きこむ。
その瞬間男女の3人組が、隠していた武器を取り出してこちらへ向かってきた。
すぐに至近距離で3発放って無力化する。
岩の陰から更に2人、稜線の向こうから3人が飛び出してきた。
1人は弓を持っている。
彼らとの距離は最短でも50メートルは離れている、どんなに俊足でも5秒は掛かる。
即座に最後尾の弓兵へ弾丸を放った後、手前の2人を撃ち、更に前の仲間が撃たれたにも拘らず尚、向かってくる2人にも弾丸を放った。
この世界では、鉄砲、魔法、弓矢……様々な飛び道具があるが、その対処法は『ビビらず走れ』である。
どの武器も連射ができないので、セオリーとして間違っていないのだ。
問題はアサルトライフにそれをすると、第一次世界大戦最序盤の機銃陣地へ突撃する歩兵への無慈悲な攻撃の光景の焼き直しとなることだ。
「イヤアア――ッ!」
レミの喊声が後ろから聞こえ、そちらを見ると、馬車の左右から3人ずつ敵が迫っていた。
片方はレミが一瞬で蹴散らし、もう片方へはルミがマスケット銃を構えている。
弓兵が1人少し離れた所から矢を放とうとしているが、何故かルミは弓兵へ発砲せず、矢が放たれてしまう。
矢はルミの座る御者台の位置からギリギリ逸れて馬車へ突き刺ささった。
「ルミ!何をしている!」
その状況に気付いたレミが大声を出す。
ほぼ同時に俺はルミへ向かっていた賊と弓兵の3人へ発砲して倒した。
「警戒を解くな!俺が確認する!」
馬車の2人へ指示を出しながら、残弾が半分以下になったマガジンを交換する。
銃口を上げたまま岩陰をクリアリングして稜線へ向かい、注意深く確認する。
稜線の頂上から見渡した感じ、伏兵はいないようだ。
「う……うぅ」
近くに倒れていた弓兵が苦痛に呻きながら弓矢を構えようとする。
どうやら胸部へ当たった弾丸はコイツの片肺を貫通したようで、酸欠ながら何とか動けるようだ。
ソイツに近づき、頭に1発撃ち込んで完全に絶命させる。
馬車へ向かってOKサインを出しながら走って戻る。
馬車の傍らではルミが立ち尽くしており、その視線の先には苦しそうに喘ぐ賊がいた。
どうやらこちらは下腹部に当たり、運悪く肝臓から逸れたらしい。
失血死まで間も無い状態だったが頭へ1発撃ち込む。
その光景にルミがビクリと肩を震わせた。
映画では銃弾が当たれば即死するが、実際には主要な内臓の破壊による多臓器不全か失血死が多く、数分間は苦しむ。
これが狩猟であれば、正しく数十秒以内に絶命させる即死でなければ、死ぬまでの間にこちらも道連れにされるが――直立二足歩行の生物は自身の弱点を堂々と晒して歩いているので大体胴体に当たれば、即戦闘不能となる。
まぁそれに当て嵌らない奴らもいるんだが……
閑話休題。
「大丈夫か?アルファ」
その声に振り向くとレミがこちらへ歩いて来ていた。
ロミも馬車から出てきて周囲を警戒している。
頷きを返して倒れた賊の死体へ向かい、検める。
装備は片手剣に革と鉄製の軽鎧、盾は無し。
他も全員が似たような装備だ。
3人1組で全員合わせて15人、どのグループにも弓兵が1人、そして全員がこの世界の飛び道具への最適解を迷いなく行っていた。
『ビビらず走れ』口で言うのは簡単、だが文字通り死ぬまで続けられるのは相当な訓練と実戦経験が必要だ。
レミが近くにいるのを確認して話しかける。
「間違いなく傭兵か兵士だ、冒険者はこんな戦力を分散させる戦術は取らない、相当な手練れだぞコイツ等」
気付いて停車していなければ危なかった、馬車のまま奴等の荷車に近付いていたら背後からも囲まれてしまっていた。
この辺を塒にしてる傭兵団か?
コイツ等は全員戦うための装備しか持っていないし、車軸の折れた荷車にも何も積んでいない。
生活する為の物品を運ぶ別働隊がいるか、近くにアジトがあるかのどちらかだ。
どちらにせよ、早めに立ち去った方が良い。
「レミ、馬車に戻ってロミに報告しよう」
その言葉にレミは無言で隣を歩き始める。
馬車へ戻るとロミと青い顔をしたルミが待っていた。
先程レミにしたのと同じ説明をして、すぐに移動した方がいいと提案する。
コイツ等が戻らないことを不審に思った賊の仲間が来たら面倒なことになる。
「確かに手練れだな……だが移動する前に遺体を弔ってやろう、哀れという気持ちもあるがこちらの戦力へ繋がる痕跡は残したくない」
俺のすぐ移動しようという提案は却下されたが、ロミの言葉に納得する。
確かに銃創やレミに蹴散らされて上半身と下半身が泣き別れしている死体を見れば、鉄砲を使う奴と凄腕の剣士がいることは直ぐに判るだろう。
コイツ等レベルの手練れの仲間だ、もし対策されて報復にでも来られれば命の保証は無い。
死体を道から外れた場所に集めて、奴等の車軸の折れた荷車と一緒にロミの魔法で燃やす。
――車軸が折れて動かせない荷車は、レミが片手で持ち上げて持ってきた――
ルミを見る、ちゃんと死体を運んだりはしたが、その顔色は優れなかった。




