第五十話雨雨降れ降れ母さんが気圧で頭が砕け散る。
「鉄砲の名門ねぇ……」
日本で考えると根来衆とか国友みたいな感じなのだろうか?
しかしそんな所の最新型ということは、この世界基準でも最先端の鉄砲ということか。
そう考えて少し興味が湧いて来る。
「燧石式だけど薬室の閉鎖機構はどんな仕組みで出来てるんだ?」
ルミが俺の質問に少し考える素振りを見せる。
何気なく聞いたが、軍事機密の類なのかもしれない。
「閉鎖方式について聞いて来る……ということは余程詳しいようですわね、では貴方の鉄砲と交換して見せあいませんこと?」
ルミから鉄砲の交換を提案されるが、交換か……
実際、こっちの銃を渡した場合のメリットとデメリットを考える。
魔法の鉄砲ということにしているので、魔法に鉄砲にも精通しているであろうルミが見れば一瞬で俺の嘘がバレるだろう。
更に彼女に見られることにより、金属カートリッジや雷管という技術の発想がこの世界に齎されることになる。
この世界には魔法がある、工業技術としての再現はできなくても魔法で似た方式を再現される可能性がある。
うーん……
代わりに得られる情報は、恐らく前装式で燧石式であるというところまで分かっている鉄砲の情報だけ……
そこまで彼女に教えてやる義理も無いしな……
「すまん俺の質問が軽率だった、自分の得物は大事な機密事項、冒険者の初歩的なマナーを忘れてたよ」
冒険者にとって自分の武器は大事な商売道具であり、ノウハウである。
誰であっても深く探らないことは常識だった。
「そう……ですわね」
ルミが少し残念そうな声で呟いた。
◇◇◇◇
礼拝堂に泊まらせていただいた翌日の朝。
外は生憎の雨で、豪雨と呼ぶには弱いが小雨というには強すぎる空模様だった。
レミは何も気にしていないように濡れながら日課の棒を振り回していた。
「とりあえず今日は待機だな、昨日の時点で修道女から雨が酷ければ滞在していいという許可は貰っている」
朝食時、ロミが待機することを決定する。
確かにこの雨の中を進行するのは大変そうだ。
礼拝堂内でもザーザーと雨音が大きく聞こえる。
「エルフの里山から領主の手の者がくるんじゃないのか?」
1日進んだとはいえ、まだ比較的エルフの里山に近い場所の筈である。
領主に見つかるのを嫌がって出発したが、ここで止まっていて大丈夫なのだろうか?
「それについては気にしなくていい、我々の目的地を知る者はいないし、知っていたとしても『スミー・ブロクス・ヘスレ』は大きな街だからな、向かうにも複数のルートがあるからこの場所まではわからない筈だ」
なるほど、まぁお尋ね者な訳ではないしそんなに熱心に探されることも無いか。
――しかし、そうなると暇だ。
朝食後しばらくは雨音を聞いていた、足の古傷が気圧のせいで疼く、別にそれほど痛いわけでは無いのだがジクジクとあの日の記憶が想起される。
マリー……
その記憶を振り払うように頭を振り、横を見ればルミが二度寝を決め込んでおり、ロミはお姫様と並んで椅子に座っていた。
「何か暇潰しになるような物って無いか?」
ロミに向けて恐ろしく抽象的な質問をする。
マジでやることが無い、雨を眺めることしかできないのでどうしても余計なことを考えてしまう。
「うーん……旅に必要無い物は極力持っていないからな、娯楽用品は無いなぁ」
ちょっと考えた後に出てきた回答は、殆ど予想通りであった。
この世界の娯楽ってどうなってるんだろ?カードゲームとかボードゲームとかあるのだろうか。
地球では最古のボードゲームが5,000年とか6,000年前には開発されて、広く遊ばれていたそうなので、この世界でも無いってことは無いんだろうが……
本当にやることが無いので、A3Wの購入画面を開く。
何か暇潰しになるような物が無いかと見ていると、1つの武器に目が留まった。
トランプ――トランプ自体は説明不要だろう、何故武器として登録されているかというとハロウィンのイベントで実装され、トランプを投げて相手に当てることができるジョーク武器の1つだ。
当然当てられた方もダメージは無し、何故かトランプを投げるモーションだけではなくマジシャン顔負けの気合が入ったカードトリックのモーションが複数ある。
購入してインベントリから取り出す。
箱に入った状態の未開封のシールが貼られた状態で出て来る。
「なぁ、カードを使ったゲームってやったことあるか?」
トランプを手に持って、少し離れた場所にいたロミとお姫様の所へ行く。
「カード?軍陣札とかか?」
ロミが聞いたことの無い単語を話す、恐らくこちらの世界のカードゲームの名前だろう。
その言葉に首を縦に振り、手に持ったトランプの箱を開封する。
「俺の……親戚の故郷のカードゲームなんだけど、トランプって言うんだ」
俺の故郷――そう言いかけて、訂正した。
故郷ってどこになるんだろうか、この場合。
そんなどうでもいいことを、一瞬考えたがすぐに切り替えて、トランプについての説明する。
説明中、多人数で出来るならと、ロミがルミの寝ている長椅子を蹴っ飛ばして叩き起こす。
ロミとルミはこのように結構荒っぽく起こしてくることが多い、意外にも一番優しく肩に触れるくらいで起こしてくれるのはレミだったりする。
トランプの数字・図柄・ジョーカー、一通り説明して、分かり易そうなゲームから始める。
「ババ抜きって言うゲームで、同じ数字が揃ったら手札を捨てて、最後までジョーカーを持ってたやつが負けだ」
とりあえず感覚を掴んでもらうために、比較的運で決まるババ抜きにする。
トランプを念入りにシャッフルする、その時に無駄に右手に持ったトランプを左手に飛ばしてキャッチする――ドリブルとか言うらしい――テクニックを披露すると、3人から「おー!」と歓声が上がる……まぁA3Wのモーションなので俺の実力ではないのだが。
そしてババ抜きを何回かやった後、お姫様の提案でレミがいる馬とアシヌスを停めている屋根の所でやろうと言うことになり、移動した。
レミへルール説明をして更に数回ババ抜きをするが、レミ以外の全員こういうテーブルゲームをプレイしたことがあるらしく、すぐに慣れてババ抜きでの勝率は大体運に任せるような形となった。
「よぉーし!そろそろ罰ゲーム決めるか!」
やはり敗者に罰ゲームは必要である。
俺が提案するとロミが苦い顔をする。
「おい、お嬢様もいらっしゃるのにそんなことできるわけないだろう」
「楽しそうじゃない、私もしたいわ、罰ゲーム」
ロミの言葉にすぐお姫様が意欲的なことを見せる。
ロミはしばらく渋ったが、罰ゲームをお姫様が決めるのなら……と言うことで決着した。
「じゃあ罰ゲームを発表します、最下位の人は全員から肩パンにしましょう」
楽しそうに罰ゲームを決めるお姫様……その可憐な笑顔と鈴のような美しい声に似合わず、中学男子が考えそうな罰ゲームが発表された。
その罰ゲームに一気に場の空気が変わる。
なんとしてもお姫様を最下位にするわけにはいかないという、使命感が信号機に湧いたらしく、アイコンタクトを取っている。
「あ!もしズルをして私を最下位にしないようにしたら、怒りますからね!」
お姫様が3人組の様子を見て釘を刺す。
まぁ彼女らの気持ちも分かる、というか明らかに俺達より5歳以上は年下の女の子に肩パンは……否、俺の場合彼女の方が年上なのか……?
そんなことを考えていたが、お姫様が普通にくっそ強くて1度も最下位にならなかった。
結局肩パンを受けたのは俺とレミだけで、回数は同率だったが、レミへの肩パンは殴った方の拳が痛いし、逆にレミの無茶苦茶手加減したであろう肩パンで俺はぶっ飛んだりした。
というか明らかに信号機は何がイカサマをして俺を最下位にしようとしていた。クソが。
肩が痛てぇ……
翌日は朝から昨日の雨が嘘のような晴天となった。
レミと一緒に日課のトレーニングをこなした後、朝食を採る。
「いい天気になったな、朝食の後修道女に挨拶したら発とう」
ロミの決定に全員が頷く。
その後、すぐに支度をして旅を再開した。




