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第四十八話魚魚魚~、オラ!魚じゃ!喰らえ!

 俺とレミが宿へ戻ると、お姫様とルミが出迎えてくれた。


「おかえりなさいまし、ご主人と奥様から話は聞いてますわ、大変だったようですわね」

 宿に入ってレミは丸太に、俺は椅子に腰掛けて一息吐く。


 どうやらオルグの件についてはもう聞いているらしく、(ねぎら)ってくれる。


「おかえりなさい!今日はありがとうございました。命を助けられちまったねぇ」

 女将(おかみ)さんが出てきて、お礼と共にお茶を出してくれる。


 早速一口いただくと、事情聴取で質問攻めにされてカラカラだった喉を爽やかなミント系のお茶が潤してくれる。


「アタシは大したことをしていない、貴女達を助けに行くと決めたのもアルファだしな」

 レミが一言女将さんへ話し、お茶を(あお)る。


 大したことしてないって……


「そんなん言ったら、俺の方が大したことしてねぇよ……むしろレミがいなけりゃ死体が1つ増えただけだったし……」

 追いかけたのは俺の提案でも、結局のところレミが1人向かっていれば十分だったのだ。


 ちょっと自身を喪失している。

 

 しかし1分間に600発の速度で放たれる7.62x51mm(フルサイズ)徹甲弾の連射でも少し欠けさせることしかできなかった黒い樹を文字通り鎧袖一触(がいしゅういっしょく)だったのだ、とんでもない剣の腕である。


「何言ってんだい!2人がいなかったら私なんてここにいなかったんだから!本当にありがとうねぇ」

 女将さんが俺達へ言い含めるように再度お礼の言葉をくれる。


 まぁ女将さんが無事でよかった。


 そんなことを考えているとご主人が奥の部屋からやってきた。


「……あの赤い髪のお嬢ちゃんは、夜に帰ってくるのか?」

 ぶっきらぼうな話し方が逆に安心する。


 ロミに関しては……今日帰ってくるのだろうか?


「ちょっとわからない……新聞記者に捕まって連れて行かれたからなぁ」

 ネリーに連れて行かれた時を思い出し、あのロミが振り回されていたので()()()()()()はしないだろうが……取材ってもどのくらいかかるのだろうか。


 ご主人は少し考える素振りを見せて。


「そうか」

 それだけ言って奥へ引っ込んでいく。


「コラ!アンタ!私を助けてくれた人達なんだからもうちょっとちゃんとした態度をしなさいよ!」

 その背中へ女将さんが叱りつける様に言葉を飛ばしたが、ご主人はそのまま行ってしまった。


 まぁ態度が変わらないというのはある意味美徳だ、ご主人はあんな感じだがオルグを倒した後に女将さんを心配して迎えに来ていたを見ているので、何だかんだ分かり易い――ツンデレという表現が1番近いか?――


「ごめんなさいねぇ、昔から不器用な人で、子供達が独り立ちしてから余計に酷くなっちゃって」

 女将さんが申し訳なさそうに頭を下げる。


 しばらく雑談をした後、女将さんも奥に引っ込んだ。

 

 その後、ルミとお姫様に今日の出来事を説明していると――


「ただいま、すまんな遅くなってしまった」

 日が完全に沈む少し前にロミが帰ってきた。


 少し疲れた様子で俺達のいるテーブルの椅子に座る。


 その様子を見て、ご主人がお茶を持って奥からやってきた。


「晩飯は用意してある、すぐ食うか?」


「お願いするよ、待たせてしまったようだね」

 

 食事をし、色々話しながら夜は更けていった。


◇◇◇◇


「キエエエ――ッ!」

 朝の日が昇り始める薄暗い中、今日も今日とてレミの喊声が響く中目覚める。


 欠伸をしながら訓練用の装備を身に着け、部屋を出て外へ向かう。


 空気は澄んでいるが、春とは言えまだ日の昇らない時間は冷やりとしている。


 外では相変わらずレミが自分の身長よりデカい棒を振り回している。


 俺は俺でトレーニングのウォームアップを始める。


 ラジオ体操第一~、脳内であの音楽が流れる中身体を解していく。


 それが終われば次はガムテープやダクトテープで様々な色になったペットボトルをインベントリから取り出し、柵の上や落ちていたいい感じの枝に刺して立てたり、地面に直接置いたりと並べていく。


 茶色のガムテープは戦士くん、灰色のダクトテープは槍兵くん、赤いカラーテープは魔法使いくん、その他色々……


 それぞれ間隔を開け、距離もバラバラに置く。

 

 そしてそのペットボトル達に背を向けて歩き、23メートル――25ヤード――程離れる。

 

 背を向けながら、拳銃――グロック20ではなくベレッタM9へ変更した――をホルスターから抜けるように準備する。


 ベレッタM9――米軍が制式採用していたイタリアの銃器メーカー名門のベレッタ社が開発した9mm パラベラム弾を使用する拳銃、92FSを米軍向けに改良したモデル。

 その特徴と言えば何と言ってもその銃身(バレル)が露出したスライドだろう。

 これはデザイン的な面もあるが、上部スライドが大きく開いていることによってスライド重量を低減して確実に排莢が行えるようにするのと共に、スライド内へ入ってしまったゴミが取りやすいという利点がある。

 1980年代に作られた銃としては先進的な両手対応の(アンビ)セーフティを持っているなど米軍の制式拳銃の地位を実に30年以上守り抜いたベストセラーである。


 一気に振り向きながらホルスターの拳銃を抜いて、セーフティを外して狙いを定める。


 実際に発砲はしない、振り向いた際に各ペットボトルの役職と距離から高価値目標をすぐに考えて、その順番に銃口を向ける。


 全部のボトルを狙った後、またセーフティを掛けてホルスターに戻し、ペットボトルに背を向ける。


 これを何度か繰り返す、開始はゆっくりと、徐々にスピードを上げていく。


 何故拳銃をグロック20からM9に変えたかというと、10mm Autoは確かに強力な弾丸ではあるのだが……そもそも拳銃弾を防げる相手にはどうせライフルが無いと効かないという悲しい現実がある。


 ゴブリンの巣に入った時のようなことが無い限り、過大な反動のせいでモザンビークドリル――敵の胴体の中心部へ2発、頭部へ1発を撃つ――をやり辛いのだ。


 10mmを1発当てるより、9mmを2発当てた方が確実に重傷になる。


 身体が温まってきたところで、A3Wの武装を全て外して木製のカップへ水を入れて狙いながら走るトレーニングをする。


「朝食ができたよ~、剣士様方(けんしさまがた)も戻ってきな~」

 しばらくそうしていると、女将さんの朝食ができたことを教えてくれる声で宿へ戻る。


 宿の中では、既にお姫様とロミが席に座っており、俺とレミが丁度戻ってきたタイミングで眠そうなルミが2階から降りて来る。


 

 

「今日必要な物を可能な限り買い集めて、明日の朝にここを発つ、お世話になった」

 朝食を食べ終わり、お茶を出してもらった時にロミが『森と平原の境』亭のご主人と女将さんへ話す。


 昨日の夜に相談して決めたことだ、やっぱり魔族退治は目立ち過ぎる。


 その為、昨日の伝書鳩で魔族討伐を知った領主からの使いが来る前にさっさと逃げることとなったのだ。


「あら、そうなのかい?昨日助けてもらったばかりなのに……」

 女将さんが残念そうに呟く。


 思えば、色々サービスをしてもらった、お茶然り、レミの寝床然り……いい宿だった。


「……今日の夜と明日の朝飯は食うよな?」

 

「あぁ、明日の朝食をいただいたら出ようと思う」


 ご主人の言葉にロミが応えると、ご主人は――

「そうか」

 それだけ言って、また奥に引っ込んでしまった。


◇◇◇◇


「とりあえず、最低限必要な物は揃えられたな」

 明日の朝に発つことを伝えた夕方、宿へ戻ってきて一息吐く。


 1日色々回って無事に物資を補充できた。


 途中でネリー・スーに見つかり、明日の朝に発つことがバレてしまったが馬を持たない彼女では追い掛けて来ることはできないだろう。


「ここでの最後の夕食だなぁ」

 今日のメニューはなんだろなっと……?


 パンが(かご)で出てきた後に出てきたのは、スープだった。


 魚らしき大き目の塊が全員のにスープ皿へ盛られている。


「おいご主人、これは海魚じゃないのか?もしかして干物でもないのか?」

 皿を見たロミが驚いてご主人へ質問する。


 冷蔵庫など無いので、海魚は内陸部では高級品に分類される。


「……タラの燻製(くんせい)だ、長期保存用の完全に乾かしたヤツじゃなくて、半分ナマの上物が朝市であったからな」

 ご主人はぶっきらぼうに応える。


 その声に女将さんが呆れた顔をしてテーブルの傍に来た。


「この人ったら!今日の朝、アンタ達が明日発つって聞いて、慌てて朝市に行って魚買って、いつもはライ麦しか使わないのに小麦粉を買って、パン窯のある家に来週の順番を飛ばしていいからって今日焼く分のパンにウチのも入れてもらって……素直に言葉で言いな!」

 見れば、確かにパンはフカフカで焼いてから時間が経っていないように見える。


 所謂()()のパンとは何日かに1度、パン窯を持った家で(まと)めて焼いてもらう保存の為の硬めの物だ。


 しかもこのパンは完全にライ麦や大麦で出来ている黒パンでは無く、小麦も混ぜてあり、ライ麦特有の茶色が薄く、柔らかそうだ。


「……妻を助けてくれてありがとう、全部俺が今作れる一番豪勢で……一番美味い料理だ、食ってくれ」

 ご主人の感謝の言葉に、感動する、こういうの弱いんだよ……


 この夜に食べた料理は、気持ちでも調理の技量でも、これまでこの世界で食べてきたどんな料理より美味だった。

寡黙で不器用な人がデレるの、大好きです。

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