第四十七話パパな、パパラッチで食っていこうと思ってるんだ。
「フェイ新聞社……?」
少女の言葉に思わず呟く。
この世界、新聞社あるの?というか新聞という文化があるのか……
しかし江戸時代には瓦版があったし、そんなに不思議でもないのか?
「はい!フェイ新聞社は、今日の晩御飯から王族の秘密までどんなことでも民衆に伝える新聞紙の発行会社です!その栄えある新聞記者!それが私!ネリー・スー!」
右手を突き出し、ババーン!と効果音でも出そうなくらい堂々とした名乗り声が空へ消えて行った。
少女を見ると、エメラルドのような透き通った緑の髪と目が印象的だった。
「し……新聞記者……」
彼女の言葉に、自警団の面々がざわつく。
特にふくよかな男性のエルフは明らかに顔色が悪くなっている。
「自警団団長のヒコックさんですね!もしかしてぇ~?魔族が出たなんて知れ渡ったら、今年の只でさえお客さんの少ない観光業が壊滅しちゃうから何とか誤魔化そう!……なんて考えちゃったりしてます~?」
あー、自警団の奴らに感じていた不快感はこういうことか。
心にも思っていない言葉を並べ立てて、挙句に半ば強引に歓待という名の賄賂を渡して誤魔化そうとしていたのか。
今、誤魔化しても何かあれば更に状況が悪くなるだけなのに……
「いやはや……そんなことは考えておりませんよ、言い掛かりはお辞めなさいな。魔族を討伐した皆様を歓待するのは当然ですし、領主様への報告も駅馬車が来るまではできませんからな」
引きつりつつあるニヤつき顔のふくよかなエルフ――ヒコックが新聞記者のネリーに反論する。
駅馬車があるのか、観光地と言っていたし地理的にもこの先に大きな宿場町と港湾都市があるのであって当然か。
ネリーはわざとらしく人差し指を立てて頬に当て、考える素振りをする。
「駅馬車……ですか~?確かに移動するには馬は必須ですからね!で・も~?馬じゃなくても領主様へ速やかに報告する方法はありますよね~?例えば毎日領主様の下へ送るのと、ここに帰ってくる訓練を欠かしていない伝書鳩くんなんて丁度いいんじゃないですか!」
その言葉にヒコックがギクりと身体を揺らす。
どうやら図星を突かれたらしくニヤつき顔が固まり、目がキョロキョロとどうするか考えている様子が分かる。
「あっ!手紙の文章にお困りでしたら私が代筆しますよ!なんたって記者ですから!作文には自信があります!そ・れ・と・も~フェイ新聞に領主様が知るより先に記事を掲載させえてもらえるんですか!ありがとうございます!魔族討伐なんて大スクープですよ!」
その言葉でヒコックはガクリと肩を落とす。
他の自警団の面々はどうしたらいいのか分からず、顔を見合わせたりヒソヒソと小声で話し合ったりしている。
どうしたらいいのか分からないのは俺達3人も同じで、2人の討論?をボケーッと見ていた。
「いやはや……そこまでご存じとは、仕方ありませんな……おい、今日の分の伝書鳩に魔族が出たことを送るよう言ってこい」
ヒコックは観念したように、近くにいた自警団の団員に指示を出す。
その言葉を聞いたロミが慌てて声を挙げる。
「ちょっと待ってくれ!私達が討伐したことは伏せてくれないか?」
その言葉を聞いたヒコックが最早面倒そうにこちらへ視線を移す。
その顔はニヤついておらず、余計なこと言うなとでも言いたげだった。
「我々はお忍び旅行中でな、こんな所で遊んでたなんて知られたら王都の親族に怒られてしまう」
ロミがまるでヤンチャな貴族女子といった風情……というよりちょっとぶりっ子して話す。
ヒコックは少し考える。
「とりあえず、魔族が出たことと討伐されたことだけ送れ」
これ以上考えるのが面倒だと言うように指示を出しなおす。
指示された団員はすぐに駆け出した。
「アルファ、口開いてるぞ」
ロミに肘で小突かれ、ポカンと開いたままの口を閉じる。
なんでだろうか、位置的にはこの場の中心なのに完全に蚊帳の外に感じる。
「フェイ新聞社のお嬢さんありがとう、君がいなければ領主様へ報告がされていなかったかもしれない、お礼と言っては何だが一緒に食事でもどうかな?」
ロミが記者のネリーへ近付き話しかける。
コイツ昨日ナンパしたばっかりなのに、もしかして今日も手を出すつもりか……?
最早ロミが女性に話しかける=ナンパという等式が俺の中で確立されており、下心が無かったとしてもそのようにしか見えなくなっている。
「わぁ!ありがとうございます!こちらこそ是非!皆さんにインタビューさせてください!」
ネリーが前のめりに返答する。
が、そこへヒコックが待ったをかけた。
「いやはや先にこちらで事情聴取をさせてください、これはちゃんとした手続きですので従っていただきますよ」
これに関しては正しい言い分だろう、全員素直に従って自警団に付いて行った。
◇◇◇◇
事情聴取後、全員が解放されたのは夕方だった。
攫われた人が多すぎて、話を纏めるのに随分時間が掛かったようだ。
早朝の朝市で事件があり追い掛けて、戻ってきてからの事情聴取でかなり疲労が溜まっている。
「お、出てきたなアルファ、お前が最後だ、レミもさっき出てきたところだ」
ロミが出迎えてくれる、見ればレミとネリーが一緒に待っていてくれた。
レミはいつの間にやら脱いでいた全身鎧を既に着込んでおり、小動もせずに立っている。
あの鎧、大の男がパーツの1つも持てなかったんだよな……
「では、私にインタビューさせてください!特に魔族を倒したお2人には入念に!」
ネリーが鼻息荒くこちらへ迫ってくる。
しかし正直なところ――
「面倒だ、何も答えんぞ」
レミがオルグを切った時のようにバッサリと両断する。
余りにも歯に衣着せぬ物言いだが、俺も似たような考えである。
そもそもお忍び旅で通してるのに新聞記者に話していいのか?
「えぇ~?一面に載りますよ!魔族へ立ち向かい一撃で両断する女性騎士!きっと皆が読んでくれます!もしかすると舞台の演目になったりするかも!」
なんというかテンションが高くて面食らう。
それにやっぱり話すのは拙いだろう、マジに面倒ごとに巻き込まれそうである。
つーか舞台の演目になんてなったらお忍びどころの話ではない。
「それなら私が教えてあげるよ、彼らは口下手でね」
ロミがそう言いながらネリーの肩へ腕を回そうとする。
しかしネリーは流れるようにスッと、その魔の手から離れる。
「いやいや!お2人の態度から貴女がリーダーなことは分かっていますが、やっぱりご本人の口から聞いた方が臨場感が違いますよ!」
言わんとすることは分かるが、如何せんこちらもどこまで話していいのか分からないし、そもそも面倒なのも本心なのだ。
こちらへズイッと詰め寄ってくる彼女へ、躱されたロミが再度諦めずに腕を伸ばすが、スススッと手慣れた様子でネリーがまた避けた。
「悪いが俺もレミと一緒だ、聞かれても何も答えないぞ」
俺がうんざりしたように言うと、流石にこちらの気持ちを慮ってくれたのか少し落ち着いた様子になる。
「わかりました!お2人にもご事情があるようですし、話したくなったらフェイ新聞社、シャル王都支社のネリー・スーまでお願いしますよ!」
そう言ってネリーはロミの方へ向かい、手を握った。
先程まで華麗に避けられていたのに、その転身にロミが驚いた顔をする。
「お……おい、取材は話したくなったらじゃないのか」
流石のロミも避けられていた相手に、急に手を握られて困惑を隠せないようだ。
「何言ってるんですか!それはお2人の話でしょう!リーダーの貴女はさっき教えてくれるって言ってましたよね!行きましょう!」
その言葉と共に、握った手を引いてロミと2人でどこかへ行ってしまった。
「……とりあえず、俺らだけでも宿に戻るか……」
「……ウム……」
取り残された俺とレミはとりあえず宿へ帰った。




