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第四十六話重りを着けてのトレーニングは筋肉が痩せるからやめろ。

 オルグの影響下にあった樹木が次々と枯れていき、樹の闘技場の壁が無くなる。


 レミはその様子を見て、残心を解きオルグの元へ行く。


「……もうすぐ死ぬ魔族に何のようだ?」


「レミ、レミ・エレンディアだ」

 無表情で自身の名前を伝えた。


 その一言を聞いて、上半身だけとなったオルグが驚いたように身動(みじろ)ぎしてレミ見上げる。


「そういや……名……前……聞いてなかったな――」

 その言葉を最期に、ギシギシと樹々が朽ちていく音が響く。


 奴を包んでいた黒い樹の鎧が枯れて、地面に落ちていき――最後に残ったのは細く、ヒョロヒョロとした人型の樹の根の上半身と下半身だけだった。

 

「おい、大丈夫か?アルファ」

 レミが剣を持ったまま何事も無かったかのようにこちらへ問い掛ける。


 身体を捻ったり、曲げたりして全身の状態を確認する。


 締め付けられこそしたが骨が砕けたり、筋肉が断裂したりはして無いようだ。


「大丈夫だ、それにしても……一撃か……」

 オルグの死体を見ながら応える。


 7.62x51mmの徹甲弾が効かない生物、紛れもなく防御に関しては火地竜(ひちりゅう)並みの相手だった。


 それを文字通り一刀両断するとは……


「一撃だが――実際はかなり危なかった、真正面から来てくれたから勝てたが、捕まった人達を人質にされて森に隠れられたら負けていた」

 レミが背を向けて、鎧や鞘が落ちている場所へ歩いていく。


 そうこう話していると、他の捕まっていた人達が口々に話し始めた。


「助けていただいて、ありがとうございます!」

「あぁ……助かった……」

「お嬢さん!落ちた鎧を拾うのを手伝いますよ!町まで運びます!」

「怖かったですね~、こんな所に魔族が出るとは!これはしっかり記事にしなくては!」


 何人かがレミの外した装備を拾うのを手伝おうと彼女の下へ向かう。


 俺も手伝おうと小走りで追いかけた。


 見ると、レミは既に剣を鞘に納めており地面に散らばった鎧を拾い集めようと身を屈めている。


 その様子を見て、捕まっていた男性の1人が地面にある鎧の籠手(こて)部分を拾――えなかった。


「うっわ!()っも!」

 所詮籠手の部分、人の腕ほどの大きさしかないそのパーツを大の大人が持ち上げようとしているが、全然持ち上げられていない、それどころか想像以上の重量に転んでしまう。


 その様子を見たレミは、男性が全く持ち上げられなかった籠手を――軽々と片手で持ち上げた。


 まるで手袋を拾うくらいの気軽さで持っているが、他の鎧のパーツも人々が拾おうとして全然持ち上がっていない。


 俺も手伝おうと思い、(すね)の部分のパーツを持ち上げようとしたが、重すぎて少しだけ地面から浮かせただけだった。


「手伝いは大丈夫だ、特別製でな……ちょっと重いんだ」

 ちょっとって……全員どのパーツも持ち上げられず、胴鎧に至っては男性が2人で持ち上げようとしているのに全然地面から離れていない。


 しかしレミはそんな鎧を次々に拾い集めていき、全てのパーツを胴鎧に重ねて抱えあげた。


 すげぇ……レミ……さんのことは怒らせないようにしよう。


◇◇◇◇


 鎧を拾い集め、捕まっていた人々に重傷者がいないか確認して町へ戻ってきた。


 重傷者はいなかったが――1番ダメージを受けたのは俺のスタングレネードのせいだった。

 

「レミ!アルファ!無事でよかった」

 森から出ると、ロミが迎えてくれる。


 周りでは攫われていた人々が友人や家族と無事を喜んでいた。


 その中には、『森と平原の境』亭のご主人と女将さんも含まれていた。


 ――彼女らを見ると、すぐに追った判断は正しかったと自信を持って言えるが……レミが居なければ死んでいた。


 自身の見通しの甘さに、歯噛みする。


 もっと強くならなくては、それは決して強力なA3Wの武器を出すことではない。


 もっと見つかったことを前提として的確に状況を判断するべきだった、もっと先にスタングレネードを使って怯んだところを撃つべきだった、もっと最初の一撃で畳みかけるべきだった、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと――


「大丈夫か?アルファ」

 思案に(ふけ)っていた俺の肩に、手が置かれて呼ばれる。


 その手の持ち主はロミだった、心配そうな表情で眉を下げて俺の顔を覗き込んでいる。


「あ……あぁ大丈夫だ、レミに助けられちまったから対策を考えてたんだ」

 (つと)めて明るく返事をする。


 しかし自身の未熟さを痛感させられる、このままではきっとこの先、死ぬことになる。


 死ぬのはいい、だがそれはまだ早い、また彼女と逢うまでは――


「顔、真っ青だぞ、周りを見ろ、お前のお陰で助けられた人々だ、失敗は次の糧にして今は喜べ」

 ……流石に団長と呼ばれているだけはある、人の機微(きび)をよく見て、しっかりケアをする。

 

 何かあれば真っ先に状況を俯瞰(ふかん)して見られる彼女は、確かにリーダーとして相応しい人だろう。

 

 彼女の言う通り周りを見る、そうだよな……落ち込んでしまったが、結果オーライだったのだ、切り替えて次の為に頑張ればいい。

 

「ありがとう、ちょっと悩みすぎてたかもしれない」

 その言葉に、ロミは安心したように俺の肩を叩いた。


 そんな俺達の下へエルフの集団が近付いてきた、どうやら自警団の者達のようだ。


「この度はありがとうございました……聞いたところ魔族だったとか、いやはやこんな場所に魔族が現れるなんて……恐ろしい……」

 集団からニヤニヤとした表情の男性が1人出てきて話を始めた。


 その男性はかなりふくよかというか……ポッチャリ系というか……横に大きい。


 俺の中のスラっとしたエルフ像とは、特徴的な耳以外は合致しなかった。


「強力な魔族だった、領主様へ報告した方が良い」

 レミが手短に要点だけを言葉にする。


 確かに彼女の言う通りである、ドラキュリオの時は迷宮都市で報告しようとして地震からの、有耶無耶(うやむや)になってしまったが……


 完全な人間の勢力圏(せいりょくけん)で強力な魔族がいたのだ、他にも森の中にいるかもしれない。


 魔族は人間と同じ程度の知性があり、当然社会性も人間と同等なので複数でやってきていても不思議ではない。


「領主様へ報告ですか……いやはや、既に討伐されたのですからそんなに急がなくてもよろしいのではないですか?」

 はぁ?コイツ何を言いだしてるんだ?


 困惑していると、エルフの男性が畳みかけるように言葉を発する。


「いやはや、そんなことよりも魔族を討伐していただいた英雄(ヒーロー)達を歓待しなくては!」

 そんなことって……一瞬にして10人くらいを森に引き込んで、その気になっていれば全員虐殺できた魔族だぞ?

 

 横を見るとロミも困惑した様子を見せており、逆を見ればレミが眉間に皺を寄せていた。


「さささっ!後はこちらでやっておきますので、皆様を持て成させていただきますよ!」

 そう言って彼がニヤついた視線をやると、他の自警団の面々がこちらを囲むように近付いて来る。


 なんだ?殺気があるとか、身の危険があるとかいうわけではないが異様に不快な気持ちになる。


「おい、テメェら近付くんじゃ――」


「ややや!これは魔族を倒した冒険者達を上手く言い包めて、領主様へは黙っているということですね!」

 俺が自警団へ警告をしようとした時、俺達3人の後ろから年若い女性の声――年若いと言うより、幼いと形容した方が近い――が響いた。


 その女性の言葉を聞いた自警団のふくよかな男性が、一瞬顔を(しか)めた後すぐにニヤニヤとした表情に戻る。

 

「いやはやお嬢さん、そのような人聞きの悪いことを言うもんじゃないですよ」

 余計なことを言うなとでも言うように言葉を投げる。


 その表情はニヤついているが、先程までより不自然さが増していた。

 

「えぇ~?本当ですか~?確かにここ(エルフの里山)はある程度の独立自治(どくりつうじち)が許されてますけれど、裁判権(さいばんけん)捜査権(そうさけん)はあくまで領主様の物で、領主様が定めた荘園法(しょうえんほう)では竜種と魔族が現れた場合は速やかに報告することになってますよね~?それを後回しとはちょ~っと領主様へ不義理じゃないですか~?」

 その意図を知ってか知らずか、女性が更に畳みかける。


 確かに言われてみれば、魔族とは人間と(たもと)(わか)った知的生命体全てを指す。

 

 つまり何の種類の生物なのかは分からないのだ、下手をするとその種類の魔族と戦争状態に(おちい)る可能性もある。


「お……お嬢さんは今回の件に関係ありませんよ、我々がちゃんとしておきますから」

 ふくよかなエルフは冷や汗を流し始め、それと同時に苛立ちを隠せなくなっている。


「ふっふっふっ~!関係あるんですね!これが!私もあの樹の魔物に(さら)われた1人で、更に!」

 女性――少女と言っていい年ごろに見える彼女は自信満々に声を挙げる。


「私ネリー・スーは!なんと!あの!『フェイ新聞社(しんぶんしゃ)』の記者なのです!」

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