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第四十五話木より樹って書いた方がなんかかっこいいよね。

「さて……完全にオレの領域に足を踏み入れたな」

 森から押し出された俺を見て、全身に黒い樹を纏った怪物が話す。


 その言葉を聞きながらG3ライフルを構え、発砲する。


 ガンッと弾丸を弾く音を聞きながら走る。


 制圧射撃を行いながら、モズの早贄(はやにえ)状態になっている人々の樹の後ろへ隠れる。


 最初に不意打ちで首元を狙った弾丸が樹の鎧で弾が逸れて肩へ当たっており、血が流れているのが見えた。


 しかし大したダメージは無いようで、その後に撃った弾丸は全て黒く染まった樹によって弾かれている。


 こうなったら危険などとは言っていられない、M84スタングレネードへ手を伸ばす。


 M84スタングレネード――アメリカで開発された手榴弾、激しい音と閃光によって一時的に敵を無力化する。人体への影響が一時的な為、人間を致死に至らしめない武器、非致死性兵器として人質救出などの際に使用される武器である。

 しかしその猛烈な音と閃光は適切に使用しなければ、捕まり衰弱している人達が重傷を負う可能性もあり使用を躊躇していた。


 樹の影からスタングレネードのピンを外して投げる。


 やはりコイツは魔物なんかではなく、強力な魔法と高度な知性を持った魔族だ。


 ドラキュリオを思い出す――出し惜しみなどすればすぐにやられる!


「おっ!?なんか投げてきたな?」

 樹の魔族は手榴弾を見て、暢気(のんき)な言葉を発する。


 バンッ!と激しい音と閃光が一瞬発生する。


 キーン――と激しい耳鳴りが襲う、閉所ではなかったので激しい音は森中に響いた。


 G3ライフルのセレクターをフルオートに変更して樹の陰から身を出して連射する。


 ガガガッと黒い樹が弾丸を弾く音が響くが、猛烈な連射によって樹が欠けている。


「ア痛タタタ!音と光の爆弾と、その武器もそんなに連射できるのか!オレの不死咲(ふじさき)が割れちまうとはな!」

 痛いなどと言っているが、その声は楽しげな色を隠しておらず、自身の防御に絶対の自信を持っていることがわかる。


 だが、黒い樹が絶対無敵の硬度を誇る物でないことをライフル弾によって欠けていくのを見て確信する。


 ならば一旦退いて、対物兵器――RPG-7などを購入して装備できれば確実に倒せる。


 そう考えて森の中へ逃げようとして――


「逃がすと思うか?咲憑患(さつきわずらい)

 その一言で、全ての樹々が敵となった。


 樹の枝が伸び、意思を持つ生物のように俺を捕まえようと迫り、いとも容易に捕まってしまう。


「ぐっ……あっ!」

 全身を締め付けられ息ができない。


 樹に巻き付かれたG3ライフルから手を離し腰のグロッグ20へ手を伸ばそうとする。


 だが樹々が更に大量に纏わりつき締め付けられ、手を動かすことすらできなくなる。


「しかし人間も進歩してるんだな……知り合いの吸血鬼が人間に殺られたみたいだから、オレも興味が湧いて遊びに来たんだが、こりゃ負けるのもわかる」

 樹の魔族は俺の銃を見ながら軽く話す。


 (まず)い……完全に捕まってしまった、何とか身体を動かして武器を向けなければ……


 全身を締め付けられ、辛うじて呼吸をしていた首へ樹が巻き付く。


 ヤ……ヤバい、意識が――


「さてコイツを絞め殺す前に、そっちに隠れている奴!出てきな!」

 森へ向かって声が響く。


 その方向にはレミが居る。


 肺に残ったわずかな空気を絞り出して叫ぶ。

 

「逃げろ!銃も効かない強力な魔族だ!」

 レミの武器は背負っている剣、どう考えても剣では敵わない。


 しかし俺の言葉に反してレミは堂々と樹々の中から大股で歩いてきた。


「ほー?ずっと隠れてるからビビってんのかと思ったが、そうでもねぇみたいだな」

 樹の魔族は完全に俺から視線を外して、もう戦いは終わったとばかりにレミへ意識が流れる。


「ビビる?アタシが?そこの()()がここで待ってろって言ったから待ってただけだ」

 レミは俺を指差した後、背にある剣へと手を伸ばす。


 ダメだ、魔族の身体はまだ黒い樹で覆われている。


「その剣が得物か?コッチの奴みたいに面白いモンは期待できなさそうだな」

 明らかに見下した様子で魔族が呟く。


 その瞬間!

「キエエエエッ――!」

 ボンッとまるで爆発したような音がしたかと思えば、レミがいつの間にか抜いた剣を高々と掲げ、樹の魔族へ切りかかっており――


 黒い樹の鎧を切り裂き、左腕を飛ばした。


「ウオオオオッ!?」

 切られた魔族が叫びながら、触手のような樹々を利用して素早く移動する。


咲憑患(さつきわずらい)!」

 そして移動しながらレミを樹々で捕らえる。


 しかし――


「イヤアアアアア――ッ!」

 なんと自身へ絡みついた樹々をブチブチと引き千切りながら突進を続け、逃げる魔族を追い掛ける!


 その様子に驚愕するが……

不死咲憑患(ふじさつきわずらい)!」


 魔族が魔法の言葉を発すれば、触手となった樹木が全て黒く染まる。


 ライフル弾すら弾く黒い樹々が次々にレミへ絡みつき、最早樹の塊にしか見えないほどにされてしまう。


()えぇ……本当に見縊(みくび)ってた、お前みたいな奴にドラキュリオはやられたのか?」

 樹の塊となったレミの顔だけを露出するようにして、全身をきつく縛ったまま話しかける。


 その時に知った名前を聞いて、俺は声を発そうとしたが締め付けられた喉と胸は微かに息を吐きだしただけだった。

 

 数秒間、沈黙が場に降りた。



 

「お前……その身体(からだ)……どうなってるんだ……?いや、その鎧――」

 魔族が驚愕したような声で何事(なにごと)か呟いたかと思うと。


「テメェ!テメェ!テメェ!このオレを相手に手加減してやがったのか!?その鎧を外しやがれ!」

 怒りの(こも)った声が森中に響き渡る。


 何を怒っているのか俺には理解できず、魔族とレミへ視線を送る。

 

 その声に、全身を拘束されているというのに――

「ほう?こんなに拘束した相手に防具まで外せとは、随分だな?」

 レミは顔色一つ変えずに魔族へ軽口を叩いた。


 その言葉に更に激昂(げっこう)した声が森へ響く。

「防具?防具だと!?その重量!その呪い!それはテメェの()だろうがっ!」


 その言葉の後に、レミを中心として俺を含めた周りの人々のモズの早贄状態の人々がザザザッと移動させられた。


 何を想ったのかレミの拘束も完全に外す。


結園(ゆうぞの)

 その魔法の言葉が放たれた時、レミと魔族の2人だけを囲むように樹の根が無理やり掘り出されたように現れ、俺達を隔てる壁となった。


「これでオレとお前の2人だけだ、この闘技場(リング)なら他の奴らも巻き込まねぇ」

 壁の中から声が聞こえたかと思うと、()()()の樹以外の俺達を拘束している樹が突然枯れ始めてボロボロと崩れる。


「ゴホッゴホッ!……レミ!」

 自由になった身体で樹の壁へ取り付いて隙間から覗く。


 樹は1本1本は細く、隙間から中の2人が見えるが頑丈で素手では破壊できそうには無かった。


 なんとか銃口をねじ込んで撃てる場所を探さなくては――


「アルファ、心配するな、団長から許可は得ている」

 その声ははっきりと俺の耳へ届いた。


 団長からの許可?一体何の?


「キエエエエエエエエエエエ――ッ!!!!」

 先程までの叫びが静かに思えるほどの咆哮が響き。


 バンバンバンと彼女の鎧を繋ぎとめていた紐が弾けて切れる。


 鎧は地面に落ちて、金属の甲高い落下音が――

 ――全く鳴らず、ドスンッとまるで超重量の岩塊が地面へ落とされたような音が鳴った。


 その()から解き放たれた瞬間、ゴウととんでもない嵐の如き強風が吹き――その風が突然止む。


「……ハハッ……すんげぇ……こりゃドラキュリオが人間に入れ込むわけだ」

 魔族の呟きが聞こえた。


 魔法を全く知らない俺でも分かる。


 押さえつけられていた魔力が大瀑布(だいばくふ)となってレミの身体から噴き出し、その後一瞬で波の立たない湖面の如く完全に制御されたのだ。

 

「我、未だ木鶏(もっけい)たりえず。本来なら先の一撃で極めるべきだった、己の未熟を恥じる」

 剣を空へ掲げるように両手で握り、屈んだ独特な姿勢の構えを取る。


「……オレの名前はオルグ、ただのオルグだ……オレも本気になるぜ、札樹渺(さつきびょう)

 魔族が名乗り、魔法の言葉を放てば、ザアッ――と森が突然枯れ始めた。


 そしてオルグの身体が膨れ上がる。


 森の生命力が奴に吸われているのか、だが。


「グッ……クッ……やっぱ知り合いの吸血鬼みてーに大陸全土の飛蝗から生命力を奪うようなことはできねーな……」

 膨れ上がった身体で、苦しそうに呻きながら言葉を発する。


「我、此処ニ存在ス、我、死ヲ齎ス、我、苗ヲ蒔ク者」

 オルグが呪文を唱えると森から奪った生命力が魔力となり、ヤツを包んでいる樹へと伝わるのが分かる。


 そして、数秒の睨み合い。


 ――何が合図となったかは分からなかったが、それは突然だった。


合我苗(ごがつびょう)!」

 オルグの身体を覆っていた黒い木々が巨大な1本の槍となり、レミへ迫る!


 森の入口に立たされた腹をぶち抜かれた死体はコレのせいか――!

 

 ライフル弾を弾く黒い樹の大質量の槍!単純であるが故に対処が難しい一撃!


「キィエエアアアア――ッ」


 勝負は一瞬で、一撃で決まった。


 

 (ざん)、と黒い樹はまるでバターのように容易く両断され、余波が後ろの壁を切り裂いた。



「つ、強えぇ……」


 オルグが呟き、下半身は立ったまま、別れた上半身が地面に倒れた。

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