第四十一話エルフもあんまり魔法は得意じゃないよ、結構フィジカル
「茶だ、部屋は2階だ、代金はもう貰ったから勝手に使って寝ろ」
ぶっきらぼうな口調で店主が宣言して、また奥に引っ込む。
湯呑みのようなカップに入った薄い茶色のお茶を飲むと、生ぬるい。
しかしミントのようなさわやかな香りが鼻腔を抜け、味の方はサッパリとしていて渋みがほとんどない麦茶のようだ。
「宿は決まった、レミは1階で寝てもいいように交渉済みだ、ちゃんとした部屋じゃなくて申し訳ないが屋根と壁はあるからいつもよりは休まるだろう」
ロミが丸太に座っているレミへ話しかける。
レミは頷くだけで、特に何か発言することは無かった。
この後はどうするか――まだ日が暮れるには大分早い時間である。
宿の中を見回すと、1階はほとんどが土むき出しの土間だがそこそこ広く、テーブルと椅子がいくつか並べられており、奥には2階への急な階段と店主が入って行った部屋への入口があった。
現在、丸テーブル2つを信号機と白い姫様と俺の5人で囲んでいる。
「この先しばらくは大きな町が無いから、ここで色々揃えなくてはならない。何日か滞在することになるだろう」
ロミがグイッとぬるいお茶を飲み干した後、これからのことを話し始める。
また野宿生活になるのであれば、色々買いこまないといけない。
ぬるいお茶に口を付けながら、どうしようか考える。
ゴブリンや大鬼を倒したおかげで、A3Wのポイントは随分増えた。
なので食料や水は最悪購入できる。
だが迷宮都市からの脱出時のように、地対地ミサイルや近接航空支援などを考えると心許無いポイントしかない。
ただし現金もそれほどない、冒険者ギルドの銀行口座にはいくらかはあるが……
「できれば生活必需品だけじゃなく、物々交換に使える物も買っておきたいな」
ロミがそんな話をしている間に、皆の湯呑みが空になった頃合で店主がおかわりのお茶を持ってきた。
「茶の代金は宿泊料に含まれてる」
店主はドンッ!とそれぞれの前に湯気を立たせている熱いお茶を置き、空となった湯呑みを回収して奥に引っ込んだ。
置かれた湯気の立つお茶を一口飲むと、今度はローズのような豪奢な薫りが鼻腔へ拡がり、セイロンティーのような渋さの中に甘みのある味が薫りに負けないで舌を悦ばせた。
その後、熱いお茶をゆっくり飲みつつ今後の旅に必要な物を5人で話し合う。
「まず商店の一番多い中心地に行こう」
何を買うか大体決まり、一度中心地へ見に行くこととなった。
「ルミ、付いて来てくれ、レミはお嬢様を頼む。お嬢様はお休みになられてください」
「わかりましたわ、ワタクシも鉛と火薬があればいいのですけれど……」
ルミが頷いて、と立ち上がる。
「俺も行くよ、色々無いと困るからな」
案内所のイケメンエルフと宿の店主は悪く言うと素っ気なかった、それが客引きに疲れた俺には逆に快適だった――しかし中心地へ行くとどれ程の熱量で客引きされるか想像してゲンナリとするが、色々買わなければならない。
「晩飯は用意してる、食わなくてもいいが代金は返さねぇからな」
3人で宿を出ようとすると、店主は不器用に気を使ってくれた。
◇◇◇◇
「いらはいいらはい!蕎麦粉を使った伝統的なエルフ風ガレットあるよー!」
「エルフの楽器があるよー!弦楽器から木管楽器まで楽器ならなんでもあるよ!」
「エルフの森への午後入場チケットはこちらでーす!伝統的な生活を体験できますよー!明日の予約分も受付中です!」
「鹿の串焼きだよ!エルフの森で育った鹿を使ったエルフ風の味付けだよ!」
相変わらず熱量が、熱量がすごい。
現在、エルフの森のアーチがある近くの通りに来たが、どこも競うように客引きをしている。
「うーむ、今日は一先ず下見としてどんな物が売っているか見て回るか。いい物があれば買おう」
ロミが客引きの喧騒の中で顎に手を当てて考える仕草をする。
水や食料のようなかさばる物は、出発するまでに買っておけばいいので、今回は殆ど観光のようなものだ。
見回すとアーチまでの道には茣蓙のような敷物をした露店から、木造の商店等、大小様々な店が並んでいる。
しかし歩いている人を見ると、その数はまばらでそれほど多くない。
むしろ客引きの活気に対して、歩いている人が少なすぎる。
「前に来たときはもっと冒険者がいたんだが、今年は勇教会の牧師と只の観光客が殆どのようだな」
ロミが呟いた言葉に、森ゴブリンに襲われていた村を思い出す。
今年は冒険者が迷宮都市へ招集されていて、実質依頼はできないと言っていた。
その影響がこの観光地にも出てきているのだろう。
「ちょっと屋台見て行こうぜ、エルフ風の料理ってどんなのか気になるし」
テーマパークのような雰囲気があるエルフの里山だが、これだけエルフを全面に押し出しているのだから何か食べてみたい。
「ワタクシは何度か来たことがありますわ、何でもかんでも熱々で香草を使った独特な薫りの強い物が多いですわよ」
へー!香草か、大体旅の大部分を占める村落の食事は味付けが塩だけの素朴な物が多く、やはりいくら素材が良くても飽きが来てしまっていた。
フラフラと屋台村の方へと向かう。
できればエルフの集落ならではの物を食べたい。
夕食は用意してくれているとのことだったので、軽く食べられるものがいい。
「おいおい、今回は買い出しの下見だからあんまり時間を掛けるなよ、お嬢様もレミも宿で待ってくれているんだから」
ロミのその声色は特に怒りなどを含んでおらず、ちょっとくらいはいいというお墨付きをくれた形だ。
「なぁなぁ、ルミはここ来たことあるんだよな?なんかお勧めの料理とか無いか?」
俺はウキウキとしながらルミへ質問する。
「そうですわねぇ……肉類の串焼きは比較的ハズレがありませんわ」
なるほど、香草を使った料理が多いということだったから、それを使用した肉料理は確かに美味しそうだった。
周りを見ると、丁度先程から呼び込みをしていた鹿の串焼きの屋台が目についた。
「あの店、鹿肉の串焼きだってよ。食っていこうぜ!」
俺の言葉にロミとルミは特に否定することなくついてきた。
「お兄さんたち!旅行かい?ウチの串焼きは一度食べると病みつきになるよ!」
屋台の親父に串焼きを注文して小銭を出そうとする。
するとすぐ横からスッと手が伸び、親父へ硬貨が渡された。
「これで3本頼むよ」
その手はロミの物で、そのままスマートに注文を済ませる。
「おいおい、串焼きくらい自分で払うぞ」
「こっちがおいおいだよ、最初の話し合いで決めただろう、道中での生活費は我々が支払うと」
確かに冒険者として彼女らの旅に同行する契約をする際に、余りにも法外でない範囲内で生活費を保証するという取り決めをした。
しかしこんな観光地の食い歩きまで全額出させるのは申し訳ない、というより面倒くさい。
「今回はご馳走になるけど、観光地なんて金使うのも含めて観光なんだから、必要な物はちゃんと後で請求するよ」
自分でも難癖の他でもないと思いながらクレームを入れる。
「アッハハ、そうか、金を使うのも含めて観光か!これは私が悪かったな」
そんなことを話していると、串焼きが焼けて差し出される。
屋台の親父に礼をして、貰った鹿肉の串焼きをまじまじと見る。
使われている串は木製だが、しっかりとしている。
恐らく炭火で保温されていたであろう湯気を立てる肉は1枚1枚が大きく切られており、食べ応えがありそうだった。
早速ガブリと一口食いつき――
「熱っっっつ!!」
余りの熱さにすぐに口を離す、焼きたてにしたって熱すぎる。
ロミとルミはそのことを知っていたかのように串を持ったままだ。
「ルミが言っていただろう?エルフの料理は大体すごい熱いって、まぁこれもここの醍醐味だ」
ロミがいたずらっぽく笑いながら、舌を火傷した俺に言った。
その後、色々見て回り――これは観光ではなくちゃんと旅の物資の購入のため――エルフの森のすぐ近くまで来た時だった。
「キャアアアアア!」
絹を裂くような悲鳴が響き渡った。




