第三十四話旅は道連れ世は情け……っていうほど情が無いなこの世……
「君は迷宮都市で冒険者をしていたと言っていたが、実はかなり名のある御仁なのかい?」
大鬼を倒した後に馬車の屋根から降りると、赤髪のポニーテールを揺らしながら団長が近付いてきて藪から棒に話しかけてきた。
「名前はあるけど……アルファって言います」
「あ、これはご丁寧に、私はロミという」
ペコリとお辞儀をしながら名乗ると、向こうも名乗る。
「差し支えなければ、冒険者ランクを訊ねても?」
団長と呼ばれた赤髪――ロミの質問に、確か冒険者証があったなとズボンのポケットやプレートキャリアに付けた小物入れを弄る。
しばらく考えて、そういや随分前に硬貨入れと一緒にインベントリへ入れていたんだった。
どっちも出すことが滅多になかった上、そんなに嵩張るものでもなかったので入れっぱなしだった。
インベントリを開いて銀色のカードを取り出す。
「えーっと、銀級です」
「ちょっと待て、君、どこからその冒険者証出した?」
冒険者証に書かれていたランクを伝えると、俺のその言葉よりもインベントリから取り出したことが気になったらしい。
よく考えなくても普通の人はインベントリなんてものは使えないので、むしろ今まで誰にも聞かれなかったのは運がいいのか、誰も俺のことを気にしていないのか……
「この上着のポーチから出したんですよ、丁度逆を向いてたので見えなかったんですかね」
別に隠しているわけでもないのだが、説明しても面倒なことになるだけな気がするので適当に答える。
「うーん……そうかな……しかし銀級とは中々じゃないか、冒険者証を拝見しても良いかい?」
素直に冒険者証を渡す。
迷宮都市に居たときは定期的に冒険者ギルドに提出して、何やら色々裏に書き加えられていたりしたが、今は完全にただのピカピカした銀色の板である。
「称号もいくつかあるのか……いや、これは……」
ロミが冒険者証の表と裏を何度も見返して、眉間にしわを寄せ始める。
しばらく1人で云々呻っていると思ったら、突然顔を上げる。
「少し借りてもいいかい?仲間と話し合いをしたい」
話し合い?なんの?と思ったが、持ち逃げするタイプでは無いことは見れば分かる――立派な馬車や他の2人の仲間を置いてはいかないだろう――ので構わないと頷く。
するとロミが高く手を挙げて声を張り上げる。
「集合!ルミ!レミ!こっちに集まれ!」
呼ばれたルミと呼ばれた黄髪ドリルと、レミと呼ばれた青髪短髪の2人が赤髪ポニーテールのロミの元に集まる。
頭を突き合わせて何か話し合いを始め、俺は手持ち無沙汰になったので大鬼の亡骸へ向かう。
大鬼は全身穴だらけで、頭に至っては半分中身が飛び出している。
えーと確か二足歩行で心臓が1つのタイプな魔物は、心臓付近か頭部にアレがあるはず。
頭には無いようなので、うつ伏せに倒れている亡骸の背中へ青銅のナイフを突き立てる。
グリグリと肩甲骨の辺りから肋骨の隙間を縫って心臓部へ進ませる。
カチン――とナイフの先端が何か硬い物に当たる。
やっぱり……あったか。
その硬い何かをナイフでほじくり出すと、キラキラと光る大きな魔晶石が出てきた。
他の猿には無いようなので、そちらは大鬼に追い立てられた野生の魔物のようだ。
魔晶石――迷宮内のような魔力の濃い場所に住む魔物が体内で魔力を結晶化させた物――
つまりコイツは迷宮都市から山を越えてやってきた。
迷宮都市の状況はかなり悪いようだ、恐らくこの大鬼も迷宮都市近辺に縄張りを持つことができずに、仕方なく山を越えた個体だろう。
その証拠に銃撃による物ではない噛み傷や裂傷の再生跡が残っていた。
「おい、どうした?大鬼へナイフなんて刺して……食べるのか?」
どうやら話し合いが終わったらしいロミに声を掛けられる。
そこで魔晶石を見せて。
「この魔物から魔晶石が出た……迷宮の魔物だ」
ロミはその言葉に口元へ手を当てて考える素振りをして応える。
「それは……迷宮都市へ行くことは諦めた方がよさそうだな……」
どうやら言わんとしたことは伝わったらしい。
「うーむ……なぁアルファ君は、はぐれた仲間を探しているんだよな?そこで相談があってだな……」
ロミは難しい顔をしながら、恐る恐るという感じで問いかけをしてくる。
「迷宮都市でガイドの冒険者を雇おうと思っていたと言っただろ?是非君を雇いたいと思ってな」
俺を雇うこととはぐれた仲間を探すことに関係があるのだろうか?
そう考えると、その思考を察してくれたようでロミが言葉を続ける。
「我々の目的地は王都でな、勇教会と神教会、更に冒険者ギルドのシャル王国本部がある。そこなら迷宮都市からの避難者の情報が得られるだろう。更に言うと私は少しばかり王都では顔の効く方でな、君の仲間を探す手伝いができる」
――なるほど、確かに当てもなく探し回るより遥かに良さそうな提案だ。
しかし――
「ついさっき出会ったばかりの謎の男をいきなり雇って大丈夫なのかよ。冒険者なんてやくざな稼業、アンタらの豪華な装備を盗むくらいする奴もいるだろ」
なんというか余りにも不用心というか、その場のノリで決めているんじゃなかろうか――と心配になる。
「君の冒険者証は本物だったし、記載されていた称号はどれも一朝一夕で取れるものではないからな。しかも発行者は迷宮都市の冒険者ギルド、信用するには十分だよ」
そういうもんなのだろうか?……でも、そうかも……と考える。
というのもこの世界、冒険者ギルドの権限がとんでもなくデカいため、そこで一定以上のランクを持っている者は貴族より権力があるとかなんとか冒険者ギルドの人に言われた気がする。
「しかし王都までの道なんて知らないんだが……」
自慢ではないが、迷宮都市周辺以外には行ったことが無いので全く土地勘は無い。
我ながらガイドなんて務まるとは思えない。
「それなら大丈夫だ、王都までの道は知っている。雇いたいガイドと言うのは……まぁなんだ、君も勘付いているようだが、我々は貴族の集団でな……庶民の生活の分かる者が必要なんだ」
庶民の生活の分かる者とは――何ともやんごとなきご身分そうなお言葉である。
だが、確かに彼女らにはそういうのを教えてくれる存在は必要だろうなとも思った。
高そうな鎧を隠すでもなく堂々と着けていたり、立派な馬車にはシミ1つ無い綺麗な布でできた雑嚢らしき袋が文字通り雑に置かれていたり、しかもそれを置いたまま見張りも付けずに馬車の側に居た俺を放置して会議し始めたり……
どこからどう見ても世間知らずな金持ちのカモである。
「報酬に関しては心配しなくてもいい、曲がりなりにも貴族なのでな」
うーん……雇われてもいいけど……
「雇われてもいいけど、馬車の中の人は出てこないの?」
赤黄青の3人娘以外にもう1人、馬車の屋根へ登った時に人が乗っているのを感じた。
少なくとも全員の顔を見るくらいはしないと、雇われるのはちょっと……
「む……それは……」
「いいわ、ロミ……私たちを助けてくださった冒険者に、顔も見せずにいるのは失礼でしょう?」
ロミが口ごもると馬車の中から、か細い女性の声が響いてきた。
ガチャリと馬車の扉が開く瞬間、3人娘が走ってきたと思うと、扉の前で跪く。
馬車の中から出てきた人は――一言で言うと、白い。
肌も髪も真っ白で、その瞳は赤いルビーのように輝いている……多分まだ10代前半ではないかという少女だった。
もう顔のパーツ全てが美しい、髪は軽いウェーブが掛かっており柔らかだが、厳かな空気を邪魔しない。
「初めまして、訳あって名乗ることはできませんが……助けていただきありがとうございます」
優美な所作でペコリと頭を下げてくれた。
「あっ、これはどうも、困った時はお互い様です」
余りの荘厳な雰囲気で変な敬語になってしまう。
まつ毛も長っがい…すげぇ……高貴ってこうのをいうのか……




