第三話やっぱりファンタジーといえば冒険者!え?これってどっちかっていうと傭兵じゃない?
建物の陰に隠れながら150メートルほどまで近づき、狙いやすい位置を確保してからM16を構える。
横に位置するここからなら、冒険者たちに当たらないように取り囲んでいる犬を狙うことができる。
犬の集団でも最後尾、他の視界から外れている1匹を標的にする。
これでどこから撃ったのかを少しでも誤魔化せれば2匹目以降でも有効弾を期待できる……そう上手くはいかないかもしれないが……
ドンドンッ!と放たれた2発の弾丸はどちらも命中し1匹を倒す、直ぐ様撃った個体の側の1匹に素早く照準を合わせて今度は1発撃ち込む。
撃たれた2匹が倒れ、銃声に驚いた魔獣たちが反射的に走り出し何匹かは冒険者たちに向かうが大盾を持つ冒険者が盾を突き出して1匹を弾き飛ばす。
俺は他の2匹に2発ずつ撃って倒すが、無軌道に走った内の3匹がこちらに向かってくる。
狂気に支配された獣たちは身を隠すなどの動きをすることはなく、まっすぐ向かってきたので俺は3匹にそれぞれ3発ずつ弾丸を撃ち込んだところで20発の弾倉を撃ち尽くし、M16のボルトストップが弾切れを教えてくれる。
空になったマガジンをベルトのダンプポーチに入れ、体のマグポーチから予備の弾倉を取り出し装填しているとバチバチと電気が流れたような轟音、冒険者たちの方を見ると黒焦げになった犬が2匹横たわっていた。
残りの犬はどこかへ走り去っていったようで、少し気を抜く。
冒険者たちがこちらを見るがすぐに周りの警戒する様子で回りを見渡している、その所作は5人それぞれが違う方向を警戒する訓練されていることを感じさせるものだった。
俺はM16の銃口を下に向けたロー・レディ・ポジションで冒険者たちに近づいていく。
「テメェ何者だ?突然現れてよ、フォレスト・ドッグに何したんだ」
会話できるくらいに近づくと中性的な顔の剣士が俺の方に来て話しかけてくる……その口調は明らかに不審な者を詰問する色を含んでいる。
「俺は――」
「私が連れてきたのよ!」
冒険者に返事しようとすると、後ろからずっと付いて来ていた女性が俺の後ろから飛び出して返事をする。
「マリーさん!無事でよかった!……彼を連れてきたとはどういうことだ?」
剣士が明るく微笑み、女性に話しかけ始める。
俺は自分で説明しようと口を開きかける。
「待って!私に任せて、お願い」
女性が俺を押し退けるように制止する、俺が下手に発言してややこしくするよりは彼女に任せた方が良いのかもしれない。
「彼は村の外れで出会った冒険者よ……魔術師で魔法の武器を使うって言うからフォレスト・ウルフを倒すのを手伝ってもらおうと思って一緒に来てもらったの」
何か事実と反するようなことを言っている気がするが、異世界から来ました!なんて言っても余計に胡散臭い不審者だろうと思い直す。
そんなことを考えてボケっと立っていると冒険者たちとの話が一段落したらしく今後の話をし始める。
「今の一連の戦闘で俺たちが倒したのも合わせると、13匹は倒しました」
「ここに来るまでに彼が4匹倒しているわ、全部で17匹……あと何匹いるかわかる?」
そんなことを話していると上方から声がする。
「さっき走っていこうとしたヤツを矢で倒したから更に1匹追加だよ、そして私たちが確認しているのは全部で21匹、あとの3匹は森の方に走って行ったよ」
屋根の上から弓矢を持った冒険者が下りてくる、声から女性であることは判るが日除けの鍔が広い帽子とマフラーのようなものを巻いておりその顔は窺い知れない。
「ひとまずは村ごと消滅の危機は去ったか……マークス牧師は?他の方々は教会の中にいるけれど、貴女とマークス牧師は2人で逃げていると思ったんだが……」
剣士が剣を鞘に納めて女性に聞く……思えば女性の名前や身分を全く知らないことに思い至る……
「マークス牧師は……やられたわ……その後で彼に出会って助けてもらったの」
絞り出すような声で女性が答える、俺が来た時には既に彼女1人だったからその前に亡くなられていたわけか。
「そうですか……彼の名前は?彼が居なければ貴女を守ることはできなかった」
「そういえば自己紹介もしてなかったわ……私はマリー、勇者教会の牧師見習いよ、貴方の名前は何ていうの?教えて、お願い」
気付けば冒険者達と女性……マリーがこちらを見て名前を訪ねてきた。
「俺は……」
名前を応えようとして……停止する。
俺の……名前……?
思い出そうとするが、まるでそんな記憶が無いかのように出てこない。
いや、そもそも俺って何者だ?ゲームが好きでAll World Weapon's Warのプレイヤーで日本語が母語で……
考えれば考えるほど様々な事柄が虫食い穴のように思い出すことができない。
俺は……自身の手のひらを見る、その手は確実に俺の物だがそれを形作ってきた経験がまるで抜け落ちてしまったようで……
その時暖かな感触が俺の手を包む。
「大丈夫?どうかしたの?教えられないならそれでも構わないから……お願い」
マリーの右手が立ち尽くしていた俺の右手をちょうど握手するように握ってくれていた。
その言葉で少し気が楽になり、俺は答えた。
「アルファ……アルファ1だ」
All World Weapon's Warのキャンペーンモードで登場するプレイヤーのコールサインを応える。
「アルファ……よろしくね!」
マリーが握手していた腕をブンブンと上下に振り回す。
「俺たちはパーティ太陽の輝き、リーダーのアシムだ、他の奴らの自己紹介は後にするとして脅威が去ったことを他の人たちに伝えよう」
中性的な顔立ちの剣士……アシム……が名乗り、他のメンバーに指示を飛ばす。
「レイアは教会の中の人たちに一先ず出ても大丈夫とを伝えて、リルルとミーンは2人で近くにフォレスト・ドッグが隠れていないか教会の周りを見てきてくれ、レーンはまた鐘楼に上って警戒」
アシムがテキパキと支持を出すと冒険者たちはそれぞれ言われた仕事に取り掛かる。
魔法使いは教会に向かい、大盾の大男と聖職者の女性は2人で教会の周りを索敵しに行き弓使いは屋根を上って鐘楼に戻る。
「あの数のフォレスト・ドッグを瞬く間に倒すとは、すげー音してたけどその武器、雷属性の攻撃かい?」
アシムがM16を指差しながら話しかけてくる。
「いや……属性は企業秘密だ」
「ふーん、フォレスト・ドッグの亡骸はどうする?アンタが倒した奴は判るからその分は持っていくか?」
俺の言葉に銃への興味を失ったようで、すぐに話題が変わる。
フォレスト・ドッグの亡骸か……ファンタジーなら素材を剥ぎとったりするんだろうか?
こういうのってどうしたらいいんだろう?
そんなことを考えていると教会の中からゾロゾロと人が出てくる。
教会の近くの家の住民たちも固く閉ざしていた扉を開けて様子を窺い、外に出てくる。
「皆が無事でよかった……」
教会から出てきた人々を見て、マリーが安堵のため息と共にそう呟いていた。
異世界っぽさ出したいね。