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第三十二話立ち入り禁止?じゃあ座って入ればいいじゃん!

「ここから先は立ち入り禁止だ」

 セブエリミエスから旅立ち、エリミエス山脈の麓まで来た。


 ――が、現在迷宮都市へ続く唯一の道が封鎖されており、衛兵さんに注意されたところである。


 よく観察すると、ちゃんとしたお揃いの鎧を付けた複数人が山へ続く道を見張っている。


 道の脇には簡素ながら小屋が建てられており、彼らが領主軍などの公的な機関の人々なのだと想像できた。


「去年からの大騒動で、迷宮都市へは他の道も完全封鎖中だ」

 衛兵さん?が教えてくれるが、恐らく迷宮都市は壊滅的な被害を被っているのだろう。


 まっすぐ行くことができないことは想定していたが、エリミエス山脈へ入る前に足止めされるとは。


「今朝も通りたいって連中が来たが、あっちで野営してるから、休むなり泊まるなりするならそっちの方へ行け。そんで帰るんだな、迷宮都市へはしばらく行けねぇよ」

 衛兵さんが指差す方を見ると、遠くに立派な馬車と天幕が遠くに見えた。


 仕方ないので、彼の提案通りそちらの方へ行ってどうするか考えることにする。




 近付くと、立派な2頭立ての馬車の周りにいた人々が気付いた様子でこちらに視線を向ける。


 3人組、多分全員女性。


 赤髪ポニーテールと、黄色っぽい金髪ドリルと、青い短髪の人が確認できる。


 ――信号機じゃん――などと考えながら近付いて挨拶することにする。


「こんにちは、道が封鎖されていてこの辺で野営しろっていわれましたよ。 お互い災難ですね」

 俺が声を掛けると、金髪ドリルと青髪の2人は興味を失ったようにそれぞれ離れて行ってしまった。


「あぁ、君も迷宮都市へ?冒険者かい?」

 赤髪ポニーテールの人が朗らかに話しながら、こちらへ近付いて来る。


「去年まで迷宮都市で冒険者やってたんですよ」

 アシヌスを止めて、彼女に相対しながら返答する。


「去年まで?もしかして迷宮都市の立ち入り禁止の理由を知っているかい?」


「あれ?衛兵さんから聞かなかったんですか?去年の秋ごろに迷宮から魔物が湧き出して大変だったんですよ」


「この辺のことには疎くてな……迷宮都市に行けばガイドの冒険者を雇えるかと思ったんだが、立ち入り禁止だとなしのつぶてでな……」

 まぁ衛兵さんとしては立ち入り禁止の理由なんてどうでもいいか。

 

 彼女を観察すると高そうな鞘の剣を2本両腰に下げている。

 

 身に付けているピカピカの鎧も胸当てと手甲と金属のブーツのようなパーツだけで、護る範囲を最低限とした軽そうな物だが、凝った意匠が施されている。


 話していても思ったが――確実に貴族だな。


 装備といい、物腰といい、全力で貴族アピールしているように見える。


 逆に貴族のコスプレではないかというくらい貴族貴族している。


 貴族がゲシュタルト崩壊してきた……


「俺は迷宮都市ではぐれた仲間を探しに来たんですが……これからどうするか考えないといけませんよ」


「うむ、こちらも考え中だ。野営するならもっと向こうの方にした方がいいぞ、私たちはうるさいからな」

 雑談を切り上げて、気さくな赤髪の彼女が指差す方を見ると山脈沿いの森が広がっており、野営できそうな場所はいくらでもありそうだった。


 提案通りそっちの方に野営地を設営することにして移動する――と。


「キエエエエ――――――ッ!」


 突然の騒音にビクッっと身体が跳ねる。


「イヤアアア――――――ッ!」


 音の方を見ると、青い短髪の女性が木の前に立っているのが見えた――が。


「キィエエエエ――――――ッ!」


 奇声を上げながら、自身の腕より太く、身長より長い棒で近くの木をぶっ叩いている。


 しかも異常に振りが速く、残像を残しながらビュンビュンバキバキとみるみるうちにぶっ叩かれた木がボロボロになっていく。


 怖っ!――何故自然破壊をしているのかわからず、困惑していると。


「いや!すまんすまん!アイツのアレは癖というか日課というか……うるさいだけで害は無いし、すぐに終わるから安心してくれ」

 

 赤髪の人が後ろから追い掛けてきて声を掛けてくれる。


 日課って、奇声あげながら棒で木をぶっ叩くのが?……貴族の儀式的な何かだろうか。


 まぁ――色々あるのだろう――と気を取り直してアシヌスと野営できそうな場所を探す。


◇◇◇◇


 良さそうなところの木にアシヌスの口縄を繋いで背中の荷物を下ろしてやり、焚火の準備の為に薪を集めに行く。

 

 この辺はまだ標高が低く、雑草も新芽が芽吹いており、アシヌスはご機嫌に草を食んでいる。


 薪を集めながらこれからどうするか考える――迷宮都市へ直接行くのは難しそうである。


 そうなるとマリーが所属していたという勇教会(ゆうきょうかい)に行くべきか。


 この世界における二大宗教について思い返す。

 

 勇者教会(ゆうしゃきょうかい)――通称勇教会(ゆうきょうかい)は初代勇者の聖剣を継承した『勇者』を頂点とし、『勇者』を崇める宗教団体。その教えは簡単に言うと初代勇者のように冒険をすることで己を成長させること。


 神教会(しんきょうかい)――初代勇者に聖剣と祝福を与えた神々を崇める宗教団体。その教えは神々の創ったこの世界の理をもっと知りましょうということ。


 なので、冒険に必要な外傷の治癒魔法などは勇教会の牧師(ぼくし)の専売特許という感じだが、堆肥の製作や農業技術の指導などは神教会が主に(おこな)っている。

 

 マリーと行動していた時は勇教会の支部がある場所ばかりだったが、実は普通の村には神教会の礼拝所(れいはいじょ)の方が多いことをこの冬の間に初めて知った。


 エリミエス山脈沿いに進めばいくつかの村があるだろう。


 薪を集めると焚火を熾して、火が落ち着くまで待つ。


 時間は逢魔時(おうまがどき)へ近付いており、空には橙の太陽と藍色の夜空が同居していた。


 地面に腰を下ろして、護身用の拳銃以外の装備を外す。


 装備といっても殆どはアシヌスの背に載せているので、MOLLのついた防弾ベストを脱ぐくらいだが。


 荷物からセブエリミエスで仕留めて塩漬けにしておいたうさぎ肉を取り出して、焼く。


 うさぎ肉は馴染みが無かったが、脂身が少なく淡白で獣特有の臭いも少ないので非常に食べやすい。


 しばらく火にかざして、焼けるのを待っていると――


 キー!キー!

 グエッ!グエッ!


 どこかから、猿のような奇妙な鳴き声が聞こえてきた。


 ――野生動物か?

 

 鳴き声の出所を探すが、動物の姿は見えない。


 しかし鳴き声はどんどん増えていき、近付いてきた。


 脱いだ防弾ベストを着用しなおして、地面に下ろしていたAK-47アサルトライフルを手に取る。


 AK-47――旧ソビエト連邦で開発されたアサルトライフルであり、世界で最も製造された武器として伝説的な銃である。 使用する7.62x39mm弾はNATOで使用される5.56x45mm弾よりも強力であり、ゲーム作品では安価かつ強力な武器だが、命中精度に難がある武器として登場することが多い。


 木とアシヌスを繋いでいたリードを外してやり、周囲を警戒する。


 ――すると離れた場所から怒声が聞こえ始めた。


 怒声の発生源は立派な馬車の3人組のようで、そちらを見ると小さい猿のような生物に囲まれていた。


 そちらに気を取られていると、突然近くの草むらからガサガサと複数の猿が飛び出してきた。


 素早くAK-47のダストカバーを兼ねた大きな安全装置を一番下の単射に変更して発砲する。


 ドンッドンッドンッと連射して、向かってきた数匹を倒したが――


 どこから来たのか10匹を超える猿が、木の上や草むらから飛び出してくる。

 

 流石に多すぎる!どこか有利な場所へ陣取らなければ拙い。


 AKを連射して牽制しながらどこかいい場所が無いかと思いを巡らせて――


 ――馬車の屋根の上から狙えば楽かもしれない――


 アシヌスを連れて、3人娘の馬車へ走り出した。

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