第二話犬!犬!犬!犬だらけ!わんわん大行進!犬に囲まれモッフモフ!
「村には冒険者がいるけれど、数が多すぎて苦戦しているわ」
購入画面で銃を選んでいる俺に女性が話しかけてくる。
冒険者というキーワードに興味を惹かれるが、今はもっと重要なことがあると気を取り直す。
「あの犬がかなりの数って何匹くらいいるのか、わかりますか?」
「お願い、変に敬語を使わなくてもいいわ。20匹以上はいるはず、冒険者以外は戦えないと思う」
初対面なので敬語を使っていたら必要ないと突っぱねられる。
緊急時なので変に畏まる必要もないのかもしれない、しかしあの狂暴な大型犬が20匹もいるなら戦略を考える必要がある。
村の人たちはどのくらいいる?村の広さは?どんな建物があるのか?冒険者たちはあの犬に取り囲まれても大丈夫なのか?
様々な疑問が頭を過ぎる。
「お願い……時間がないわ、皆を助けて……」
泣きそうな顔で懇願され、本当に時間が無いことを悟って腹を括る。
All World Weapon's War《オールワールド ウエポンズ ウォー》……通称A3W。
俺が愛してやまないゲームであり、古今東西すべての武器をあらゆる時代の戦場で使用できるという触れ込みのゲームである。
オプションやショップはすべてこのゲームに沿ったもので、購入できる武器とポイントも俺の記憶と完全に一致している。
装備を吟味する、A3Wではラウンドごとに試合が進んでいくため第1ラウンドでは初期装備の拳銃でいかに相手を倒し、ポイントを稼ぐかが問われる。
第2ラウンドでは稼いだポイントでどのような装備を揃えるかといった戦略が生まれる。
ボディアーマーやヘルメットの防具を固めて拳銃での戦闘を続行するか、強力な武器を購入して高い火力で相手を制圧するか、はたまた次のラウンドのためにポイントを残しておくか……
俺はM16アサルトライフルを購入する。
5.56x45mm NATO弾を使用する米軍制式装備だったアサルトライフル、銃身長20インチでダイレクト・インピンジメント方式というガス圧を直接ボルトキャリアに吹き付ける革新的な設計で西側諸国のアサルトライフルとして圧倒的なシェアを誇る傑作である。
予備の弾薬も一緒に購入する、弾頭は最も安価で威力も安定しているFMJ弾を選択する。
野生生物相手なら体内で大きく変形してダメージを与えるソフトポイント弾と悩むところではあるが、確実に狙った重要器官まで届くことを期待して弾頭が硬く貫通力の高いFMJを選択した。
武器と20発弾倉がインベントリに入る、ゲーム中ではショップで購入後に各プレイヤーのインベントリに格納され、それを更に装備することで初めて武器を使用できる。
戦闘中にはインベントリを開くことはできるがショップは開けないため、戦況に合わせた武器をインベントリに詰め込まないといけないのである。
M1911用に45口径の予備弾倉もいくつか購入する。
各武装を装備すると現在の自分の服装、即ちプレイヤーのデフォルト衣装のベストとベルトにMOLLEシステムでマガジンポーチとともにどこからともなく装着され、自身の手にM16が握られている……正確にはM16A1とM1911A1……準備はできた。
「準備できた、村まで案内してくれ!野犬退治だ」
「こっちよ早く行きましょう!」
M16のチャージングハンドルを引いて薬室に弾丸を装填しながら女性の先導で歩き始め、廃墟から出ていく。
一筋の風が俺の頬を撫で、床の砂ぼこりが少しだけ舞い上がった。
ほんの5分程度歩くとすぐに何軒かの家のようなものが見えてきた、土で作られた壁と藁ぶき屋根のような枯れ草による屋根が特徴の建物でお世辞にも耐震性が高いようには見えない。
そのうちの十数メートル離れた一軒の陰から明らかな獣臭と唸るような音が聞こえてくる。
黙って女性の肩をつかみ前に出る、銃のセレクターをセミオートに変更してロー・レディ・ポジションで持ち直す。
ヒュンと獣が建物の陰から飛び出しこちらに向かってくる、獣の脚力は瞬く間に距離を近詰めてくるが……
ドンッと相対した獣の正面から狙える首の付け根部分から胴体にかけての部分に1発撃つ。
人間でいうところの鎖骨部分から胴体の中心部に弾が命中し、その衝撃で足をもつれさせて倒れ、心臓や肺といった重要な臓器を傷つけたのか苦しそうに喘ぎながら暴れる。
その時建物の陰からもう2匹飛び出してくる! 1匹が大回りし、もう1匹が最短距離で走ってくる。
俺は努めて冷静に近い方を狙って3回引き金を引く、1発は犬の頭の横を掠めて虚空に消えていくが後の1発は犬の口吻を砕き、もう1発が眉間から脳をかき回し絶命させる。
大回りしていたもう1匹が飛び掛かってくるが、俺は銃床でその犬の顔面を横から殴って叩き落とし、暴れようとしたところを首元を踏みつけながら5.56mmを頸椎に2発撃ち込むと絶命する。
そうしていると最初の1匹が死亡したらしく、キルした時のポイントが3匹分加算される。
「すごい……」
女性が呟く……しかし、かなり危なかった。
3匹が同時に飛び出していたならこの距離では倒すより先に牙と爪が俺を捉えていただろうし、最後の大回りしていた1匹も近接攻撃を咄嗟に当てられたが、間一髪だった。
「野生動物相手にCQBも無いか……」
距離という銃の最大最高のメリットを活かさずに野生動物と相対するのは無謀もいい所であると気を引き締める。
獣が出てきた建物の陰を見るとそこには食い荒らされて、もはや赤い肉片としか言いようのない人間だった"物"が転がっていた。
俺のすぐ横でそれを見た女性は真っ青な顔をしてそれを見つめる。
「取り残されている人がいるとして、その人たちが避難するような場所はわかるか?」
「む……村の中心に勇教会の礼拝堂があるわ、そこなら石造りで他の建物より頑丈なはず。こっちよ、着いてきて」
女性の案内で礼拝堂へ向かうが、すぐにどの建物のことかは判った。
まだ数百メートルは離れているが明らかに立派な灰色の建物があり、その建物の上部にはなぜか銅鑼のような物が設置された鐘楼が見える。
そしてその建物は獣……大型犬サイズの獰猛な犬……が見えるだけで10匹以上で取り囲んでおり、立派な扉の前には4人の人間が見える。
1人は立派な体躯を持った大男でその体格に見合う大きな盾を構え、獣が近づけないように牽制している。
1人は中性的な顔の短髪の人物でこちらは性別が見てとれないが剣を両手で構え、大盾を持った男が横から攻撃されないように鋭く見張っている。
1人はその二人の後ろに立ち、正に魔法使いのとんがり帽と黒いワンピースのローブを着用し、大きな杖を構えて集中するように目を閉じている。
1人は魔法使いの隣に並び、こちらも神官や聖職者と言われて思い浮かぶような紺色のフードとワンピースを着た女性である。
最後に鐘楼には人が立っており、その人物は弓を構えているように見えた。
恐らく冒険者というのは彼らのことだろう。
「なんてこと……お願い、彼らを助けてフォレスト・ドッグを倒して!」
女性も冒険者たちの状況が見えたようで焦るように言葉を投げかけてきた。
さて、犬退治の続きと行こう。
もっと文章力がほしい今日この頃