第十六話対決!ドラゴン!爬虫類って鶏肉の味らしい!なら鶏肉食べるわ!
ドンッドンッと、5.56mm弾が火地竜の鼻先や目元に命中した。
巨大な蜥蜴は嫌そうに顔を背けたが、その硬質な鱗に守られた皮膚は傷一つ負わず、弾丸は弾かれる。
だが、顔を背けさせたのならそれで十分。狙いは牽制だった。
「ハアァッ!」「自在剣!」
2人の剣戟が火地竜に襲いかかった。
ビエラがその首元に取り付き、両手の短剣を突き立てようとする。
金髪の美丈夫が持つ剣は、どんな仕組みか刃が伸び、火地竜の脇腹に突き刺さった。
しかし火地竜は平然とその刃を引き抜き、首を振ってビエラを吹き飛ばす。
空中で体勢を整えたビエラは無事着地したものの、火地竜は脇腹に小さな傷ができただけ。まともなダメージにはなっていない。
それどころか、自らに傷を負わせた相手に狙いを定めたのか、火地竜は唸り声と共に美丈夫へ突進する。
俺は少しでも注意を逸らせようと、頭部や脇腹へ向けて射撃するが、完全に無視された。
「自在剣!跳躍!」
火地竜の巨大な咢が開かれ、美丈夫を咬み砕こうと迫る。しかし、美丈夫は剣を地面へ突き刺し、一気に伸ばして大きく跳躍し回避した。
「貫け!自在剣!」
そのまま上空から剣を背中へ向けて伸ばすが、やはり鱗に阻まれ弾かれる。
「オラぁっ!」
その隙を突き、ビエラが火地竜の足元に取り付き短剣を振る。
俺は咬みつこうと開かれた火地竜の口内を狙い、3発の銃弾を放つ。
ヴォオオオオ!!!
1発は牙に当たって弾かれたが、残り2発が舌に命中し、火地竜は血を吐きながら苦悶の声を上げた。
舌を噛んだくらいのダメージは与えられたようだ。
「チッ、この火地竜……魔法鱗個体だ!」
ビエラの叫びが飛ぶが、意味はよくわからない。今は確認している暇もない。
口を傷つけられた恨みか、火地竜は俺に向かおうとする。その目を狙って再び引き金を引く。
だが、火地竜の口内に赤々と炎が灯る。
――火地竜、なるほど。そういうことか!
エリック流狩猟術・心得その一。
『逃げるときは全力で逃げろ。持ち物を落としても取りに戻るな!』
俺は全力で炎が当たらないように走る。
その瞬間、炎が吐かれるより先にビエラが火地竜の顔を駆け上がり、右目に短剣を突き立てる!
ヴォオオオアアア!!
鱗に守られていない眼球に短剣が深く突き刺さり、火地竜が絶叫する。
しかし短剣を引き抜く間もなく、火地竜が頭を振ってビエラを地面に叩きつけた。
衝撃で跳ねた身体に、火地竜の咢が迫る――
「喰らえ!」「伸びろ!自在剣!」
俺が左目を狙って射撃すると、火地竜が一瞬怯む。
その隙に、美丈夫の自在剣がビエラの服を引っ掛け、ズルズルと引き離す。
「マリー!治癒だ!」
俺はビエラに駆け寄り、大声で叫ぶ。
「あっ……うん、すぐ行くわ!」
マリーが駆け寄ってくる。ビエラを託し、再び火地竜の注意を引こうと射撃を続けた。
だが、無視される。
火地竜の口内に再び炎が灯り、狙いを美丈夫に定めている――
「護れ!自在剣!」
ヴァアアアアア!!!
火地竜の口から炎が吐き出され、美丈夫の全身を包み込む。熱波が激しすぎて近づくこともできない。
数十秒に渡る火炎放射の後、ようやく炎が収まる。
そこには、鉄の繭のようなものが立っていた。
「我が自在剣は変幻自在、攻防一体、完全無欠!この程度の炎……」
自在剣で自身を包み、熱から守ったのだろう。正しく形状を自在に変えられる剣らしい。
鉄の繭が解かれると、中から全身汗だく、顔を真っ赤にした美丈夫が現れた。
「何発来ようとも痛くも痒くもないよ!」
……いや、どう見ても限界寸前だ。
「おい!少しでいい、こいつの注意を外せるか!」
「ハンッ!こんな蜥蜴ごとき、お安い御用さ!……でも何かするなら早めに頼むよ!全然平気だけどね!」
「強力な魔法で仕留める!少し時間がいる、さっきの炎の吐息くらい!」
俺は急いで購入画面を開き、操作に集中する。
A3Wは武器の種類が膨大で、石斧から無人機まで何でもある。強力な武器を、いかに早く、確実に選ぶかがカギだ。
火地竜を仕留められる確実な1発――選んだのは、RPG-7。
RPG-7――旧ソ連が開発した、東西問わない世界で最も普及している対戦車兵器。所謂ロケットランチャーと聞けば誰もがこれかバズーカを思い出すであろうベストセラーだ。
使う弾頭はPG-7V――初期に開発されたHEAT弾頭であり、260mmの装甲を貫徹できる対戦車榴弾である。
インベントリに入り次第、慎重に取り出して構える。
「よしっ、準備できた!」
自由自在に変化する刃で撹乱していた美丈夫に声を掛ける。
「了解!刺し穿て、自在剣!」
剣の柄が伸びて地面に突き刺さり、固定された反対側の刃が火地竜の肩を貫く。
「致命傷じゃないが、動きは止めたよ!」
「マリー!俺の後ろ、誰もいないよな!」
「えぇ、大丈夫!やっちゃって!」
俺はRPG-7を構え、引き金を引いた。
対戦車榴弾PG-7Vが火地竜の横腹に命中。
モンロー/ノイマン効果により形成されたメタルジェットの槍が鱗を貫き、火地竜の体内を焼きえぐる。
ヴァガアアアア!!
火地竜の身体は半身が弾け飛び、咆哮と共にのたうち回り、そして――動かなくなった。
A3Wのポイントが加算された。
これで、死んだ。
「いやぁ、すごい魔法だね。10メーター級の魔法鱗個体を一撃とは」
自在剣を鞘に収めた美丈夫が近づき、感心したように呟く。
「まっ、僕が本気だったら楽勝だったけれどね」
動作の一つひとつが芝居がかっている男だが――確かに、彼がいなければ全滅していただろう。
「僕はヴェルナー。単独の冒険者さ、君の名前は?」
右手を差し出してくる。
「俺はアルファ……駆け出し冒険者だ」
その手を握り、力強く応えた。
◇◇◇◇
その後、迷宮講習に参加していた他の冒険者たちと協力し、塞がれた通路の岩を取り除いて脱出。
「ビエラの傷が酷いわ……ここから動かせない。ギルドに救援を呼んで」
マリーの指示を受け、冒険者ギルドへ走った。
ギルド員と共にとんぼ返りし、ビエラを運ぶ。
そして、気づけば。
ヴェルナーの姿は、どこにもなかった。




