第十五話潜入!!恐怖の迷宮!!なんで地下なのに明るいの?
「猪猟の依頼達成、お疲れ様です。途中報告でもしっかりした仕事振りで好評でしたよ」
迷宮都市の冒険者ギルドで、1ヶ月続いた依頼の完了報告を済ませる。
ショート・フェイス・ベアの報告で村に来てくれた冒険者ギルドの人が、ニコニコと笑いながら依頼完了の木簡の割符を受け取った。
「今回の猪猟の完了とラージ・キラーの称号で、迷宮への入場資格を得ましたよ」
迷宮。確か冒険者ギルドから認可されないと入れない場所だったはずだ。
なんでも、実力のある冒険者パーティだと冒険者ギルドのお墨付きが必要らしい。
「迷宮に入場するには、ギルドの行っている講習を受ける必要があります。本日も午後からありますが、参加されますか?」
そんな気軽に受けられるものなのか……しかし。
「いえ、すぐに巡礼で発ちますので――」
「参加します! 参加します!」
マリーの言葉を遮って、俺は即答した。
だって、迷宮だぜ? ダンジョンだぞ!?
「……前から思ってたけど、なんでそんなに迷宮に入りたいのよ……」
マリーが呆れたように、首飾りの石を弄りながら呟く。
そりゃあ、迷宮って浪漫じゃん……
◇◇◇◇
その後、冒険者ギルドの人に案内されて、ギルドのすぐ横にある建物へ向かった。
講堂のような造りで、全体が板間。椅子以外には何もなく、広々としていた。
しばらく待っていると、冒険者らしき者たちがぞろぞろと入ってくる。
パーティを組んでいる者が多かったが、単独で来ている人もいる。
中でもひときわ目立つのは――肩まで伸びた特徴的なウェーブがかかった金の長髪に、派手な赤いシャツを着た美丈夫。
なんか、1人だけ明らかに空気が違う……
他にもいろんな人がいて、ぼーっと眺めていると、スキンヘッドで黒褐色の肌の女性が入ってきた。
「俺は講師のビエラだ。これから迷宮探索講習を始める。この講習で迷宮の法律を知らんと罰されるから、心して受けるように」
一人称が『俺』だし、スキンヘッドなので一瞬男かと思ったが、露出の多い服から見える鍛えられたボディラインは、紛れもなく女性だった。
ビエラと腕相撲したら絶対負けるな、なんてことを考えていたら座学の講義が始まった。
内容は大まかにこうだ。
ギルドの指示には従うこと。迷宮内では助け合い、探索計画を事前に提出すること。
まるで登山の講習みたいだと思ったが、確かに危険度で言えばそれ以上だ。
「コイツだけは絶対覚えて帰れよ。魔晶石の取扱について説明する」
ビエラが箱から小さな石を取り出し、掲げて見せた。
その石は不思議な輝きを放ち、陽光をキラキラと反射していた。
「この石は魔晶石。現在の魔法文明を支える重要な物だ。コイツで大地に魔力を与えると畑の収穫量が増える。魔力鏡や魔光灯なんかの魔法機関も動かせる」
なるほど。地球でいうところの石炭や石油に相当するのか。
「だから、魔晶石は戦略物資だ。取引できるのはこの街で唯一、冒険者ギルドのみ。もし他に横流ししたら即斬首だからな」
急に物騒な話になったが、ちゃんと覚えておこう。
「よし、じゃあこの後迷宮へ行くぞ」
座学は1時間もかからず終了。全員で迷宮へ向かう。
一応、俺はM16を装備し、予備のマガジンをベストに装着した。
道中、迷宮都市の住民や冒険者たちにジロジロ見られ、ちょっとした見世物状態だった。
◇◇◇◇
手続きを済ませ、いよいよ迷宮に入る。
迷宮内は広い洞窟のようになっていて、日光はまったく入らないが、壁が淡く光っており暗くはない。
「第1階層はこのように通路の狭い洞窟だが、階層によってはだだっ広い草原が広がっている場所もあるぞ」
ビエラが説明しながら迷宮の奥へ進んでいく。
俺はその後に続くが、この狭さだとM16は長すぎて取り回しが悪い……
やがて、天井も壁も見えないほど広い空間に出た。
「第1階層はここまで。この先に第2階層へ下る坂がある。第1階層はこのように魔物はいない。正確には地上との緩衝地帯となるよう、魔物が発生しない魔法をかけられている」
ビエラの指差す方には大きな穴があり、中は下り坂になっているようだった。
魔法のせいで、迷宮に入ってから魔物が1匹もいなかったのか。
だが、それなら他の階層にも同じ魔法をかければ迷宮を無力化できるのでは?
「ビエラ女史、なぜ第一階層だけそんなことを? 他の階層にも同様にすれば安全に探索できるのでは?」
俺と同じ疑問を持ったのか、赤いシャツの金髪美丈夫がビエラに質問する。
声もイケメンだ……
「それは迷宮の性質による。大前提として、魔晶石は迷宮の魔物が体内で魔力を結晶化させることで生まれる。つまり、魔晶石鉱床としての迷宮には魔物が不可欠なんだ」
なるほど、真珠が採れるからって貝を絶滅させるわけにはいかないのと同じか。
「それなら第1階層にも魔物を発生させた方が、採取や運搬も効率的なのでは?」
金髪美丈夫がさらに質問を重ねた、その時――
ヴォオオオオ!!
突然、第2階層へ続くという穴から、耳をつんざく咆哮が轟いた。
そして巨大な何かが、ドスドスと坂を駆け上がってくる!
「時折このように魔物が上がってくるからだ。撤退するぞ!今日は服を汚したくない」
先頭のビエラが踵を返し、後方の者たちに指示を出す。
しかし――
ボンッと音がして、岩が崩れ、唯一の通路が塞がれた。
「ビエラさん! 通路が!」
最後尾の人々が通路へ続く穴の前で立ち往生している。
その横から見える限り、この部屋からの脱出路は完全に埋まっていた。
そんな中、坂の先から魔物が這い上がってくる。
「火地竜……! くそっ! 全員散れ!」
ビエラが焦った様子で指示を出しつつ、腰の2本の短剣を抜き、魔物へ向かって駆け寄る。
火地竜と呼ばれたソイツは四足歩行の巨大な爬虫類で……
デカい!地面から頭の高さまで5メートルはあるぞ!?
まるで怪獣と出くわしたような気分になる。これ、ほぼア◯ギラスじゃん……
そう思いながらも、俺はM16を構えた。
5.56mmじゃ豆鉄砲かもしれないが――
――火地竜に向かう2人を援護するくらいはできる。
ビエラが最初に駆け出したが……
いつの間にかビエラより後ろにいたはずの金髪美丈夫が、すでに並んで得物の剣を抜いていた。
俺は火地竜の頭部に狙いを定め、M16の引き金を引く。
その銃声に、呆気にとられていた他の冒険者たちが散り散りに逃げ始めた。
いよいよ迷宮へ挑戦です。
ビエラさんは既婚で夫とはラブラブです。




