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第十二話ハラハラ!お見合いの夜!?がっつく男は嫌われる!

 エリックさんの有無を言わさぬ迫力に、俺は取り落としたお椀を拾ってお粥をよそった。


「そうじゃ、それでええんじゃ」

 左手で椀を受け取った後、食べ辛そうにお椀を傾けて啜るようにお粥を食べ始める。


「やっぱ片手じゃ食いづれぇな……アチチ」

 火縄銃も完全に置いて、これではすぐに射撃できない。

 

 そんな暢気なことをしている間にも、すぐ近くの草むらからはガサガサと音がして今にも飛び出して来そうだ。


 俺は(M40)を構えて、草むらを見る。


「おい、お前(オメエ)も粥を食え」

 エリックさんが声を掛けて来るが、それどころではない……すぐ近くに熊が居る。


 姿はまだ見えないがこちらの周辺をガサガサと歩いている。


「すぐ近くにいます……今にも襲ってきそうですよ!」

 ガサガサと音のする方へ銃口を向けるが、姿は見えない。


「……冒険者、鉄砲を置け」

 エリックさんが信じられない指示を出してきた。


 このすぐ傍に人を襲ったばかりの獣がいるのに、武器を置けだって?


「銃を置けって?この状況でそんな悠長なこと……」


 「()()()()()()()()()()()()、もう次は言わんぞ」

 その声は有無を言わさぬ迫力を(まと)っていた。


 ……俺は言われた通り(M40)を地面に置く。


 そうだよ、俺は自分にきることなら何でもするって言っておいて……いざ熊の前に来たらビビッて口答えするなんて……余りにもカッコ悪すぎる。


「よし、じゃあお前も座って飯を食え」

 指示に従って自分の飯盒に鍋からお粥をよそる。


「エリックさん、これ使ってください」

 食べ辛そうにしているエリックさんを見かねて、A3Wの購入画面で入手したスプーンを手渡す。


 エリックさんがどう使うか悩んだので、俺はスプーンでお粥を掬って食べて見せる。


 そうすると胡坐(あぐら)の真ん中にお椀を載せてスプーンで食べ始める。


「さっきよりゃ食いやすぅなった、あんがとよ」

 お粥を食べる。


 今回の穀物は村長さんの好意でいただいた物で、色は薄い茶色をしており、口に入れて噛むと煮込んだのでドロッとしているのに芯がプチプチと弾けるような食感が楽しい。


「飯食うて落ち着いたか、えぇ感じやぞ……熊は獲物に執着しよる」

 エリックさんが静かに落ち着いた口調で語り始めた。


「執着するってことは、ワシのことを覚えとる。そんで、致命傷じゃねぇにしても自分に痛手を負わせたお前のことも当然覚えとる」

 確かに熊は記憶力が良いと聞いたことがある、そのため熊猟が盛んだったときは人間を危険な生物と認識して人の生活圏には近寄らなかったとか。


「そんな相手が武器持って如何にも警戒してますよって顔して突っ立ってんだ……そんなとこにお前ぇ、正面から向かうか?」

 ……確かにその通りで、そんなことにも考えが及ばなかった自分を恥じる。


「えぇか?獣や魔物や言われとるけども、向こうも生きとって、色々考えとんや……冒険者にしたらただの勲章(トロフィー)かもしれんがな」

 俺は……この世界に来てから……何もかもうまくいって、調子に乗っていた。


 現代兵器を自由に使える俺なら、獣……いや獣だけではない、人間が相手でも所詮剣や弓矢なんて敵ではないと()()()()()


「すみません……俺が間違っていました」

 何のことは無い、 相手だって生物で、物を考えて最善の行動を取ろうとしているのだ。


 如何に武器が優れていようと結局使う()()()では意味がないのだ。


「ま、自分の鉄砲に自信があるんはええ、問題はどう使うかだ……おかわり頼む」

 俺はお椀を受け取り、お粥をよそう。


「こっから根競べだ、熊の奴は今悩んどる」

 俺からお椀を受け取ったエリックさんは、スプーンに掬ったお粥を冷ましている。


「自分の獲物を諦めるんは惜しい、でも鉄砲は怖い……それで襲い掛かる機会を窺っとる」

 草むらでは相変わらずガサガサと熊の気配がする。

 

「熊が勝負に出たとき、それがこっちも勝負する時じゃ」


 お粥を食べながら草むらの音に神経を集中する。


 確かにガサガサと盛んに動き回っている様子だが、ある程度の距離でうろうろしており、近付いてこない。


 落ち着いてみれば、エリックさんの言う通り熊の懊悩がわかる。


「確かに悩んでいるみたいですね……勝負に出るとしたら、どんな風に来ますかね」

 エリックさんに訊ねる、もうすぐ傍まで来ているのは確かなので()()()()を逃さぬようにしなくては。


 ちらりとM40に視線を向ける。


 熊が向かってきた場合、致命傷を与えるには心臓を撃ち抜かなくてはならない。


「さぁな……でも向かってくるときは空気でわかる」

 エリックさんがお椀を横に置いて、獣の皮か何かでできた水筒から水を飲もうとして苦戦する。


 俺は無言で水筒を持って飲むのを手伝った。


◇◇◇◇


 食事を終えて、焚火が燃えるのを眺める。


「さっきも言ったが相手も生きとる、疲れもすれば腹も減る。すぐ追っかけてきたから、お前ぇのやられた傷は痛てぇし、猪も碌に食ってねぇし、人間の土地(相手の縄張り)でウロウロ……」

 エリックさんが焚火を薪でつつきながら話す。


「対してワシらは飯食って静かに座っとるだけ、こんな楽な話もねぇ」

 焚火をつついていた薪を投げ入れて、今度はもっと細い木の枝のような薪を手に取る。

 

 相変わらずガサガサと草むらの中を動いているが、その距離は徐々に近くなっている。


「冒険者、熊が向かって来ても(あわ)くって撃つなよ……ワシがエエと言うまで絶対(ぜってぇ)に引き金は引くな」

 鋭い瞳でこちらを見てくる。


 俺はその瞳にしっかりと頷き返した。


◇◇◇◇


 その後しばらくして、()()()()は突然来た。


 ガサリ、と俺達とは焚火を挟んだ向こう側に全身真っ黒の巨大な熊が現れた。


 俺は咄嗟に銃へ手を伸ばそうとした。


()()だ」

 短く、しかしはっきりとした声が聞こえた。


 その声で伸ばし掛けた手を止める。


「よう()ろ……まだ及び腰(およびごし)だ、ワシらが動かんから焦れて、おっかなびっくり様子を見に出てきただけだ」

 言われた通りにじっくりと観察する。


 確かに草むらから出てきたが、焚火を挟んだ向こう側……ほんの40~50メートルほど離れた場所で忙しなくウロウロしたり、しきりにキョロキョロと辺りを見たりしているだけでこちらに向かってこない。


 改めてじっくり見るとその巨大さに圧倒される。


 2メートル以上だとは思ったが、3メートルに届きそうな巨体だ。


 その巨体に見合う太い四肢を見ると、エリックさんの腕が千切れなかったのは本当に運が良かったのだと思う。


 きっとエリックさん1人ならそんな怪我を負うことも無かった筈だと悔やむ。


「冒険者、正面から狙うときは顎の下あたりから胴体を狙え」


 そして()()が変わった。


 ヴォオオオオ!

 

 突然熊が咆えて突進してくる!

 

「構えろ!まだ撃つなよ!」

 その声が聞こえると同時に俺は(M40)を構える。


 狙いは熊の真正面、顎下の胴体部分。


 銃を構えたときには既に熊は目と鼻の先に迫っていた。


 しかし不思議と落ち着いている、真っ直ぐ走ってくる熊の急所へ確実に狙いを定める。


「今っ!」

 エリックさんの声で俺は引き金を引く。

 

 ドンッ!と7.62mmのソフトポイント弾が飛翔して、熊の喉元に(あた)る。


 その一撃で熊がバランスを崩して倒れるが、すぐに立ち上がり向かってくる。


 ボルトを操作して2発目を装填する。


 しかし……その黒い魔獣は数メートル走ったところで、疲れたように立ち止まり、そのまま倒れた。

 

「はは……やった、やりましたよエリックさん!」

 俺は喜びを抑えきれずにエリックさんの方を見る。


 ……そこにはいつの間にか火縄を装着し、火縄銃を左腕でいつでも発砲できる体勢のエリックさんが居た。


「……ま、ひよっこにしちゃ上出来だ」


 しょうがないけど、全然信用されて無ぇ……

アルファは基本的にビビりです。

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