第十話下積め!駆け出し冒険者!ドキドキ初任務!
冒険者ギルドでの登録後、受付の人から狩猟や魔物の討伐の依頼で難易度の低いものを紹介してもらい受領した。
内容は地元の猟師と協力しての猪猟、冒険者ギルドの宿泊施設で一泊し、早朝に出発した。
宿泊中に駐馬場でロバが自分の分だけでは飽き足らず他の馬から水桶や干し草を奪ったりしたおかげで一悶着あったが、俺達2人と1匹は迷宮都市から出た街道を進んでいく。
「アルファの能力で魔物を退治して徐々にランクを上げて、もっと冒険者ギルドの施設が利用できるようになったら巡礼を再開しましょう」
捕らぬ狸の皮算用的な計画をマリーがしているが、1歩兵の使える小銃火器でどの程度まで魔物を倒せるものなのだろうか?
流石にRPG-7やカールグスタフの対戦車用の弾頭に耐えられるような生物はいないだろうが……いないよね?……と考えていると。
「見えてきたわ、まずは依頼主の村長に会いましょう」
マリーと村に入ると、すぐに村人に会えたのでそのまま村長さんの家まで案内された。
◇◇◇◇
「貴方達が今年の冒険者達かい?」
村長さんというからお歳を召した老人を想像していたのだが、出てきたのは縦横どちらもデカく恰幅のいい中年女性だった。
「冒険者ギルドから繁殖した猪の狩猟依頼で来ました」
マリーが村長に答え、依頼を受けたときにもらった木簡の割符を見せる。
「ありがとうね、ここいらは迷宮都市の冒険者のお陰で肉食の魔物は少ないんだけど、逆にそのせいで毎年春先から夏にかけて猪が増えてね……この村じゃ恒例行事みたいな依頼なのさ」
村長さんが依頼の背景を説明してくれる……なるほど、村側も冒険者の受け入れに慣れた様子だった訳だ、確かにこれなら駆け出しの受ける依頼としてはやりやすいのかもしれない。
意外なことではあるが迷宮都市の周りは一部を除いて畑が広がっており、農村がいくつもあるらしい、猪の狩猟依頼が沢山あったので他でもこんな感じなのだろうか。
「西の林に生息していてね、狩猟依頼と言っても猟師の爺さんを手伝ってもらうだけだよ」
しばらくすると気難しそうな老境に入った白髪の男性が村長の家に入ってくる。
「おめぇらが今年の冒険者共か……随分若けぇみてぇだが大丈夫か?」
鋭い目でこちらを睨みながら言葉を発した。
やっぱ猟師の爺さんって気難しいもんなんだ、弟子とかいたら見て覚えろとか言ってそう~。
「私達はまだ修行中の身ですが、勇教会から冒険をすることが許されています」
迷宮都市に入るときも冒険者ギルドに登録する時も、勇教会の巡礼していることを言っていたな……実は結構凄かったりするのだろうか。
「彼が狩猟に行ってくれる冒険者です、アルファ、お爺さんとの狩猟、お願いね」
「ハッ、巡礼も終わってねぇひよっこじゃねぇか……それにワシャ爺さんじゃねぇ、エリックっつーんだ。準備せぇ、ヌタバに連れて行ってやらぁ」
爺さんに準備を促されて俺はロバ車に向かう。
「エリックさん、猪ってどのくらいの大きさなんです?」
武器を選ぶために尋ねる。
「去年生まれて、こん春から1匹立ちした若いんと子供連れのメスじゃかぁ、そんなデカかねぇよ」
エリックの言葉を聞いてロバ車の前でショップを開く。
狩猟用というとやはり使うのは7.62x51mm以上のソフトポイント弾……と考えて銃を購入して装備する。
「得物は鉄砲け?火縄はどうすんだ?」
俺の銃を見ながらエリックさんが訪ねてくる。
「俺のは魔法の鉄砲でね……火縄無しでも撃てるんだよ」
誤魔化すが、この世界の科学水準ってどんなもんなのだろうか?
そう思いながらエリックの装備をまじまじと見る。
武器は火縄銃と長い木の柄が付いた槍を持っている。
その他には蓋のついた金属製の柄杓のような物と、獣の胃袋を利用したような水筒が腰から下がっている。
「付いてきぃ、今日はヌタバん様子だけ見ん行くっからワシから離れんなよ」
エリックと2人で畑を横切り、林……里山?……に向かった。
◇◇◇◇
林に入り、しばらく……1~2時間ほど歩いているが、ヌタバにはまだ到着していない。
林は人が住んでいるすぐ傍だというのに藪や雑草が生い茂っており、エリックが先を歩いていないと道がどこかわからない。
「……なんか今年はヘンだ」
唐突にエリックが呟く。
その視線の先を追いかけると沼があるが、アレがヌタバなのだろうか。
ジッ……と目を凝らして見るが、何が変なのかよくわからなかった。
「変って……何かおかしいですか?」
俺は首を傾げながら訊ねるが、エリックさんは鋭い眼光で辺りを見回して火縄銃と火縄を持って金属の柄杓の蓋を開ける。
その中に火縄の先端を入れてしばらくすると火縄に赤々とした火が灯っていた、その火縄を銃のハンマー部分に取り付けると周囲を警戒し始める。
「冒険者……気ぃつけぇよ……なんか居る、どっかはわからんが……」
その言葉に俺も銃……M40スナイパーライフルの安全装置を解除して警戒する。
M40――ベトナム戦争時にスナイパーライフルを必要とした米海兵隊がレミントンM700という民生品のボルトアクションライフルに3-9倍スコープを載せた対人狙撃銃である。
対人狙撃銃とはなっているが、元のM700ライフルが7.62×51mm弾を使用する猟銃だったため狩猟用としても十分な性能を持つ。
「俺の名前はアルファですよ……もしかして猪が近くに?」
周りに注意しながら訊ねる。
しかしこちらを無視しているのか集中していて聞こえないのか、答えは返ってこなかった。
ガサガサッっと沼の近くにある藪が揺れたのでそちらにM40と火縄銃の銃口が向く。
……しばらく見ていると猪が1匹出てきて沼の浅い所へ歩いてきた。
「猪か……」
俺は少し気が抜ける、猪は中型犬くらいのサイズでそれほど大きくはないようだ。
体毛はよく知る猪のような茶色だが、変わった模様が付いている。
目を凝らして模様を見ると……それは大きな爪で引き裂かれた出来立ての傷だった。
「冒険者!危ねぇ!」
突き飛ばされ倒れる、そのすぐ後に真っ黒い何かが俺の上を跨いでエリックに飛びかかった。
「熊か!」
獣の体当たりを受けて火縄銃を取り落としたエリックが叫ぶ。
俺はすぐに起き上がり、M40の引き金を引き7.62×51mm ソフトポイント弾を撃つ。
ドンッという発砲音と同時に熊の背後から肩周辺に着弾するも、肩甲骨に当たって致命傷からそれた手ごたえを感じ、もう1発撃とうとボルトを操作するが熊はすぐさま走って藪の中へ消えた。
「エリックさん!大丈夫か!」
駆け寄って声を掛けるが、エリックは倒れた状態で右腕に深い創傷を負って血を流している。
「ボゲェ!ワシんこたぁええから熊ぁ見ろ!」
喝を入れられ、慌てて周囲を警戒する。
ブギャッ!と猪の断末魔が聞こえてきたので反射的にヌタバを見る、そこでは体長2メートルを優に超える巨大な熊が猪を草むらに引きずり込んでいた。
ドンッと草むらの熊に向けて発砲するが、咄嗟に放ったせいで禄に狙いも定まっていなかった弾丸は虚しく空を切った。
「くそっ!」
俺は悪態をついて、エリックに手を貸そうとする。
「左手が使えりゃあ鉄砲は撃てっから大丈夫だ!熊が猪に気ぃ取らってる内に逃げんぞ!」
既にエリックは落とした火縄銃を左手で持ち、鋭い眼光で周囲を見回していた。
俺は何もできず、村までの帰路を、ただ熊に怯えながら老境の熟練猟師の後ろを付いて行くことしかできなかった。
猟師の爺さんは気難しくて口が悪いほうがいいよね




