第九話迷宮と書いてダンジョンと読む!やっぱりドラゴンズもいるのかな!
カッポカッポとロバの蹄が音を立てながら進む、ロバ車の御者台にはマリーが乗っており俺はその横を歩いている。
迷宮都市へ向かうと決めて、早3日。
マリー曰く行ったことは無いが大きな都市なので、大体の方向が分かれば道が続いているとのこと、俺達は一路それっぽい道を進んでいるわけである。
「もうそろそろ見えてくる筈よ」
マリーがロバ車の御者台から声を掛けてきた。
現在は開墾されたであろう林の中の道を進んでおり、木々が視界を遮っているため遠くまで見渡すことはできない。
「どんなところなんだ?」
これから向かう迷宮都市について話を向ける。
「大きな地下迷宮があって、その迷宮から色々な物が採れるからその入り口の周りに街が広がったんですって」
地下迷宮か……浪漫だよな、レアな武器とか手に入ったりするのだろうか。
「やっぱり迷宮に潜るとレベルアップしたりする?」
俺はちょっとワクワクしながらマリーに質問を飛ばす。
「なによそれ、でも迷宮産の武器はどれも神の祝福があって超人的な力を発揮するとか」
おぉ!やっぱりそういうのあるんだ、とちょっとテンションが上がる。
そんなことを話しながら進んでいると木々が途切れ、大きな壁が見えてきた。
◇◇◇◇
その後大きな壁に辿り着いたが……
「でっかいわねぇ……」
林から見えた壁の外縁部でマリーが呟く、その立派な石造りの壁を俺、マリー、ロバの2人と1頭で口をポカンと半開きにしながら見上げる。
単純な高さなら地球の建造物の方がより大きい物もあるだろうが、大きな石が日本の城郭の岩垣のように積みあがっている様は歴史的な建造物を見た時のような威容がある……石はどうやって運んだんだろうか……
「多分こっちだな」
周りを見渡すとその壁の先に門のようなものがあり、そこに何台かの馬車や荷物を持った人々が並んでいる。
まだ上を向いて口を半開きにしているマリーを連れて列の最後尾に並ぶ。
「次の方どうぞ~、どのような御用でいらっしゃいました?」
槍を持った衛兵たちの立っている場所から少し離れたところに机が置いてあり、そこには緑色の髪に分厚い眼鏡……つるが無くスプーン2つを中心で繋げた三角形のような形……を鼻にかけた女性がニコニコと座っていた。
「勇教会の巡礼中です、冒険者ギルドに仲間を登録するために立ち寄りました」
「なるほど、巡礼手形はお持ちですか?」
マリーが手続きを進めてくれる間、俺とロバがその様子をジッと見ていたら、背後の列に並ぶ人々がざわつき始めた。
「白髪の女神団が帰ってきたぞ!」
誰かが声を上げたのでそちらを見てみると、立派な鎧や武器を携えた集団が列の横を通り俺達とは別の窓口に行く。
「あの人たちはどういう集団?」
マリーに声を掛けると、マリーではなくそれを聞いていた受付の女性が声を発する。
「彼らは冒険者パーティ白髪の女神団ですよ、この迷宮都市でも迷宮探索率・依頼達成数がトップのパーティです、迷宮都市は冒険者の街でもありますから冒険者ギルドからの依頼を引き受けた人々は優先的に入るなどの配慮が受けられるんです」
ニコニコと丁寧に教えてくれる、凄い人たちなんだなぁと思いながら冒険者達を見ると個性的な人々が並んでいる。
胸鎧と腰に高級そうな剣を差した金髪のスラっとした女性の美人さん。
自分の身長よりデカいハンマーを持った男性。
どう見ても何もガードされていない露出の多い恰好をした女性。
猫のような耳が生えている彫りの深いダンディな男性。
身長が3メートルくらいある筋骨隆々の人……人?……
等々。
アシム達太陽の輝きも冒険者パーティだったが、ここまで異世界的な雰囲気を醸し出してはいなかったため、人知れずテンションが上がる。
そんなことを考えていたら彼らはほぼ顔パスで通されて門の中へ消えていった。
「こっちも終わったわよ、入りましょう」
手続きを終えたマリーと一緒にロバ車を牽いて門を潜る。
門の先には石畳にレンガ造りの建物の立ち並ぶ異国情緒あふれる景色が広がっていた……いや、前の村も異国情緒あふれていたのだが……
「都会だわねぇ……建物が一杯……とりあえず冒険者ギルドに行きましょう」
マリーが呟きながらお上りさんのようにキョロキョロしながら石畳を歩く。
いや……そのもの正にお上りさんなのか……
そんなことを考えながら歩いていると、大きな剣マークが描かれた看板が飾ってある建物に辿り着く。
その建物の前には柵で囲まれた駐車場……駐馬場?……があり何頭かの馬が柵に繋げられて水桶から水を飲んでいた。
ロバ車をそこに停めて建物の中に入る。
「勇教会の巡礼で、仲間を冒険者ギルドに登録したくて来ました」
マリーが受付の女性に声を掛ける。
建物の中は酒場を兼業しているようで、丸テーブルがいくつか置かれておりそこでは人々がレンガのような赤い色合いの取っ手のないカップを傾けていた。
「勇教徒の方ですね、そちらの方が登録者ですか?」
「はい、これが巡礼手形です」
マリーが手続きを進めてくれる……なんか今日はマリーに頼り切りな気がする……
「こちらの内容をご確認ください、読めないようであればこちらで音読いたしますがどうしますか?」
手持無沙汰に見ていたら書類……というか木の皮を伸ばしたもの?……を手渡される。
その書類のミミズののたくったような文字を見ると……
シャル王国冒険者ギルド登録時のお願い。
表題になっている部分の文字の意味が理解できる……言葉の時もそうだったが文字でもちゃんと翻訳されるらしい……
内容は冒険者ギルドに登録すると依頼を受けられますよ、法律を守りましょう等が書かれていた、そして下部に署名をするところがあった。
「大丈夫、署名をするので書くものありますか?」
書類を読んだので署名用の筆記用具を借りたペン……羽ペン……で名前を書く。アルファ・ワンと。
書類を渡すと受付の女性が俺のカタカナを見て首を傾げるが、そのまま受け取って今度は金属製のカード……緑色だと思ったら表面が緑青で覆われている……を渡してくれる。
「今後冒険者ギルドで依頼を受ける際はこの冒険者証が必要になります、紛失すると再発行できませんのでご注意ください」
まじまじとカードを見る、鋳造で大量生産しているような金属板には入るときに見た看板のマークが大きく描かれていた。
「あちらの掲示板に駆け出しでも受けられる依頼が止めてあります」
女性が手で示した方を見ると、木製のボードに墨のような物で何か書かれた木の板……木簡のような物……が釘で止められている。
「私の巡礼に付いて来てくれる冒険者ってことですぐに登録できてよかったわ」
マリーと掲示板の前で話す。
「これからどうする?やっぱり迷宮潜って伝説の武器とか探す?」
「なんでアンタはそんなに迷宮探索に乗り気なのよ……」
これからどうするか相談するとマリーは呆れたように言う。
「依頼をこなしてギルドの信用を得ないと、迷宮なんてとても入らせてもらえないわ」
迷宮への道は遠いのか……
「これから巡礼をしていくのに、絶対に冒険者ギルドの依頼をこなして路銀を稼ぐ必要が出てくるからここで色々な依頼に慣れましょう」
巡礼という宗教行事でも結局お金なのね……
樹皮紙とか木簡とか竹簡とか、記録媒体に悩みます。




