第八話どうせ碌な奴らじゃねぇ!全部いただいちゃいましょう!ゲヘヘ
野盗共を倒した後、俺はマリーを迎えに行って一緒に村へ入る。
村の状況は酷いもので、至る所に遺体が転がっていた。
「装備から冒険者じゃなくて傭兵団ね……戦があれば参加して、なければ人々からの略奪で生計を立てている奴らよ」
マリーが遺体を見て青い顔をしながら教えてくれる。
「なんか違うの?どっちも武闘派な感じするけど」
その言葉に怒った顔でマリーが言葉を発する。
「冒険者を傭兵なんかと一緒にしないで!冒険者は勇教会の教えの通り様々な冒険を通して勇気を探求する者達よ……人によっては刃傷沙汰になるから二度と混同しないで、お願い」
なんか色々と違うらしい、今度から気を付けよう……と思いながら気になっていたことを聞く。
「勇教会ってなんだ?」
「……そっか、勇教会も神教会のどちらも知らないのよね」
マリーは合点がいったように考えながら回答を返してくれる。
「その昔、人間は邪悪な魔族と争っていた時代があったわ、そしてその中で極限の力を持つ魔王が現れたの……極魔王の力は正しく別格で人類は絶滅寸前まで追い詰められた」
あ、なんかどっかで聞いたような話だ、と思いながら話を聞く。
「そんな極魔王を神の祝福と共に倒したのが、聖剣の勇者……その後は人類を救ったことに感謝して2大宗教ができたの、それが勇者に祝福を与えた神を崇める神教会と、私が所属する聖剣の勇者を頂点として崇める勇者教会よ」
へー、と俺は話を聞きながら相槌を打つが気になったことを聞いてみる。
「俺のことも勇者だって言ってたけど聖剣の勇者って人が異世界召喚された人だったとか?」
マリーは軽く首を振って否定する。
「勇者は二人いたのよ、神が祝福を与えた聖剣の勇者と当時の魔術師たちが神と協力して作成した魔法陣によって異なる世界から呼ばれた来訪者……銃の勇者と呼ばれていたわ」
なるほど、その銃の勇者と同じ魔法陣で呼ばれたのが俺ってことか……と納得する。
そんなことを話しながら村の中を回っていると、村の中心部に幌の付いた馬車があった。
そこらの住宅は大体黒焦げになっており、あったのは死体だけで人の気配が全く感じられない中、始めて見た綺麗な人工物に俺はM16を構えながら近付く。
幌馬車の中を覗くと雑多な荷物が積まれており、傭兵団の馬車かなと思い見ているとブブブ〜ヒヒ〜ンと気の抜けた鳴き声がした。
前に行くと馬車に繋がれた馬……いやロバか……が呑気そうな顔で俺とマリーを見ていた。
「ロバ車なんて結構豪勢な装備してたのね……この子どうしよう?」
マリーが俺にそんなことを聞きながらロバに近付くと……
「ヴォエエエエ!」
「うぎゃあああっ!」
すごい鳴き声と共にマリーの髪の毛に噛みついて悲鳴を上げさせる……てかマリーさん、うぎゃあああって……
「どうどう……」
俺はロバを宥めるために首あたりをぽんと叩いて轡の紐を引いてマリーさんから引き剥がす。
髪から口を離して不服そうにこちらを見ているロバの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。
「そんなロバ解体して今日の夕食にしてやりましょう!」
唾液でベタベタになったマリーがロバを指差して怒り心頭と言った感じで叫ぶ。
「落ち着けって……急に近づいたからびっくりしただけだよ、旅するってんなら食うより歩かせたほうがいいだろ」
また呑気そうな顔で辺りを見回しているロバの首を撫でながら提案する。
「確かに馬車はあったほうが便利かもしれないけど……」
マリーが不服そうに答える、まぁロバなんて始めて触ったが意外にも暴れたりすることなく大人しくしている。
それにバックパックを背負って歩くより圧倒的に旅路は楽になるだろう。
ロバから離れて幌の付いた荷台に乗り込む、中は人が乗るには1〜2人が限度な小ささだが動物の胃を利用した水筒や穀物の入った土製の壺など様々な物が置かれていた。
「そうね……このまま放っておいても仕方ないものね……」
マリーがロバに噛まれないように距離を取りながら考える素振りを見せる。
俺はバックパックを荷台に載せてロバの方に向かい、馬車を移動させる準備をする。
「待って、村を発つ前に死者たちを弔うわ……手伝って、お願い」
マリーの言葉に肯き、遺体を集めて回る。
その時に意外だったのは野盗達のことも丁重に取り扱うよう厳命されたことだ。
「亡くなれば皆ただの遺体よ……ちゃんと弔ってあげないと」
その顔は悲しみに染まっていたが、聖職者らしく使命感に満ちた表情だった。
回収できた遺体を一か所に並べて寝かせる、一部は火に燃やされて回収できなかったが……
「この村は……元々人が少ない村なの、正確には前の村から何家族かが森から離れて農作物を作るために住み始めたばかりの村だったのよ」
確かに野盗以外の遺体は精々20人ほどで回収できなかった遺体もあったとはいえ、2人で弔うには大変だが住民と考えれば驚くほど人口が少なかった。
マリーが並べた遺体に向かって祈りを捧げ始める。
牧師見習いと言っていたがその動作は洗練されており、堂に入ったもので厳かな空気を醸し出していた、今日の明け方から休みなく動いていたその小さな身体は、疲労困憊の筈なのにそれを見せずに亡くなった者たちのために祈っていた。
……俺はただ黙祷を捧げることしかできなかった。
結局遺体を弔っていたらもうすぐ日が暮れようかと時間になっていた、グゥと腹の虫が何か食わせろと鳴き声を上げる。
今夜はこの村に滞在することで決まり、マリーが夕食の準備をしてくれている。
「真っ直ぐ正巡礼のルートを行くつもりだったけど……変更して迷宮都市を目指しましょう」
マリーが食事の準備をしながら提案してくる。
迷宮都市……なんとも異世界情緒溢れるキーワードだが何故?
「昨日と今日とこんなに苛酷になるとは思っていなかったから……冒険者ギルドへ冒険者登録に行くわ」
またまた異世界と言えばというキーワードが並ぶ。
「登録すれば冒険者ギルドの宿泊所や素材の買取なんかの施設が使用できるようになるわ、今のままじゃ碌に休んでもいられないから……」
マリーが火にかけていた鍋から飯盒……俺がショップで購入した……に謎の穀物を煮たお粥のような物を入れて渡してくれる。
赤っぽい茶色の不思議な香りの穀物が煮込まれてドロッとした質感になっており湯気を立たせている、色だけを見れば小豆のような色味である。
俺は匙で一口掬い口に含むと不思議で華やかな甘い香りが鼻を抜けていき、一見ドロドロだった穀物も一粒一粒がしっかりとした存在感のあるコメのような食感がありほんのり甘味を感じる。
熱々のお粥に悪戦苦闘しているマリーを見ながら食事をしていると……
ヒヒ~ンと気の抜けた鳴き声がこちらを呼んでいるように響いて来る。
「おいおい、どうした?ロバ」
飯盒を一旦置いてその鳴き声の主に近づく、ロバには馬車の中に干し草があったのでそれを与えていたのだが……どうもその干し草が気に入らないらしく口を付けていない。
どうしたもんかと思っているとロバがジーっと青草の生い茂る草むらを見ている。
「お前グルメだなー」
俺は迷宮都市に思いを馳せつつロバを青草のところまで連れて行ってやって、草を食んでいるのを見ながら飯盒を手に取りお粥を啜った。
今後ロバが主人公パーティのリーダーになります。




