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苦手な方はご注意ください。

ケダモノたちよ

漢/OTOKO ~剣士・虎太郎

作者: 船橋新太郎

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・毛呂 虎太郎 (げろとらたろう)

14歳。本置田地区でも珍しい、貧民の生まれ。蓮太を兄のように慕う。両親の人柄もあり、道徳も高い。腕力は弱かったが、剣の修行で心身とも強くなった。立場が弱い人を放っておけない。


・美弥 誉 (みやほまれ)

虎太郎、辰教の幼馴染。大きい輝く瞳が魅力的な健康的な美少女。彼女が学童になり、寺院に通うことになれば、何を目指せばよいか。そんな未来を相談していた。虎太郎の優しさに恋心を抱き始める。


・南 辰教 (みなみたつのり)

虎太郎と誉の幼馴染。背が高く、生まれながらに剣の才がある。誉とは虎太郎より早くに出会っていて、僅かながらに恋心を抱いていた。


ーーーーー


・大須賀 栃虎 (おおすがとちとら)

栃虎の息子。パッと見はイケメンで、育ちの良さを伺わせるも、裏の顔は悪業に手を染め、暴行を繰り返す。人身売買から、婦女暴行を息をするように行う。


・二木 洋四郎 (にきようしろう)

神奈備出身。貧民で、弱い者から必要なものを奪えばそれで良いという考えの持ち主。強い者には媚び諂う、最低な男。


・石木 市衛 (いしきいちえ)

金に汚い小悪党。小心者だが、追い込まれるとどんな暴行も起こしてしまう。


・伊良皆 艶 (いらみなつや)

黛村・南地区の迦具夜の奴隷商人とされる。布切れ一枚という大胆な姿で、謎の多い女性。


ーーーーー


・置田 籐香 (おきたふじか)

蓮次の妻。器量と度胸に優れ、夫亡き後は置田勢を率いてきた。若い世代を教育後、村を託そうと切に願う。若くして蓮次に見初められた強靭で屈強な戦士の資質と、美しく気の付く女性の品格を持つ。


■ ▢ ■ ▢

ー和都歴450年 3月21日 本置田・貧民街


置田村中心地、本置田の東外れは八俣と接している。そこの一画は、本置田でも珍しい、貧民街があった。虎太郎はそこで生まれ、育ってきた。

そして今日も、いつもの二人と楽しく遊んでいた。妹の様に想い合う、美弥 誉(みやほまれ)。良き友で理解者の南 辰教(みなみたつのり)

「虎太郎は、寺院に行けていいな。私は家事や畑仕事手伝わないといけないから。」

誉が虎太郎を羨ましがる。

「俺だって誉と同じだ。」

辰教も乗っかるように言う。

「でも、僕は強くなりたいけど、まだまだ剣の道は遠くてさ…」

「カッコイイ!将来は剣士になるの?え?官人?凄いね。」

「いや、まだ齧ってるくらいで…」

「でも、もう未来に向いて歩いてる。いいなぁ。」

誉は虎太郎を満更にも思っていなかったが、未来像を想像できて、ますます気になった。

「お、俺も剣は(かじ)ってるぜ?」

「え?」

辰教も負けじと言った。

「辰教は寺院行ってないのに?」

「あ、あぁ。独学っていうか…」

「あ~…そ、それも素敵よね。」

すこし外した感が、辰教も悔しい。

「でも、私も来年には、寺院行けるかもしれないんだ。」

「そうなの?」

虎太郎と辰教は二人で驚いた。

「そうしたら、虎太郎、案内とか宜しくね!」

輝いたおおきな瞳で言う誉を、虎太郎は愛おしく思い、辰教は悔しく思った。




ー   漢/OTOKO ~剣士・虎太郎   ー



ー和都歴450年 8月14日 本置田・貧民街


虎太郎は剣修行から帰ると、家に誉が居た。

「あれ、来てたんだ?」

「うん、寺院に行ったら、私どの学科選択するべきかなって。」

「お義父さん達に相談したら?僕は誉ちゃんの人生相談なんて乗れないよ。」

「そっか~。わかった。じゃ刑務官学科でもいい?」

「え?いや、刑務官学科はガラの悪い奴も多いしなぁ…」

「そしたら、また虎太郎守ってくれるでしょ?」

誉は肩を寄せてきた。

「え?いやぁまぁ。刑務官やりたいならいいけど。」

「ふふ。女性じゃあまり務まらないかもね…でも、もしどこにも仕事に就けなかったら、虎太郎のお嫁さんじゃダメ?」

「誉ちゃん…」

「…」

「考えておいてね。」

そういって誉は虎太郎宅を出て行った。

入れ替わりに辰教が入ってきた。

「よっ。」

「辰教、どした?」

「いや、最近、3人で集まることなくなってきたなって。お前は?誉とは会ってるの?」

「まぁボチボチだよ、悪いな、刑務官学科の課題で忙しくてさ。」

「友情より大事か?」

「そんなことないよ。」

「…嘘だよ、悪かったな。」

そういうと辰教は出て行った。


「誉、ちょっといいか?」

「え?」

2人が家の外に出ると、辰教が神妙な顔で話す。

「俺もいつか、寺院で剣の道をと思うんだ。そしていつか官人に…だから、誉、俺の許嫁になってくれないか?」

「え?今直ぐ?待って気持ちが整理できない。」

「気持ちって?虎太郎のことか?」

「何で知っているの?」

「…」

「聞いてたの?信じられない…」

「違う!虎太郎に聞いたんだ、あいつ、浮かれてて。誉と一緒になれるって。」

「そんなわけな…」

辰教は誉に急に口づけをする。

「やめて!」

「誉…ごめん。」

「…辰教、最低だよ。」

そういって誉は涙を浮かべて家に入っていった。

「誉…くそっ!」


その後、辰教は寺院に行くため、金を稼ぎ出した。

「こんな畑の手伝いじゃシケた金しか稼げねぇな。なぁお前もそう思わねぇか?」

「え?あ、あぁ。まぁでも十分かな。」

「もっと稼げる話を聞いたんだ。お前も一緒にやろうぜ?」

辰教は畑仕事の労働で知り合った小悪党の石木 市衛(いしきいちえ)という男に良からぬ誘いを受けた。

「今夜8時、荒れ地にある廃屋に集合な?」

石木に半ば強引に約束された辰教は、寺院にいち早くいきたい気持ちもあり、廃屋へ向かった。


「金が欲しいだ?」

「はい。なぁ?」

「俺は…」

「なんだ?ビビる奴はいらねぇぞ?」

「こいつ、ビビってますが、剣の修行をしてるんで、使えますよきっと。」

「ほう?まぁいい、人手が欲しいから採用するぜ。大須賀さん。」

「何だ、二木?人手確保できたか?」

大須賀栃虎。彼は大須賀栃春の息子で、父同様、裏では汚い家業に手を染めている。

「じゃ俺は大型馬車を運転する。お前らで4、5人捕まえてこい。いいな?」

「りょ~か~い。いいな?お前ら?」

「え?」

「なんだ?話してねぇのか?」

大須賀が、二木に呆れたように話す。

「すみません。じゃ聞け、実はな、俺たちは…」

彼らは人攫いを始めたらしく、その人身売買で儲けているらしい。初めは1人から、次第に増え、今は大型馬車に4人くらいを乗せて行くらしい。

「いいな?方法は夜一人で歩く女子供を連れ去るだけだ。簡単だろ?」

石木はともかく、辰教は少し罪悪感を感じてきた。しかし、寺院のため、いや、誉の為と彼の心は間違っている方向へ動いていた。

しばらく夜道で馬車を走らせるも、人気はない。

「全然いねぇな。」

大須賀がイラついてくる。

「今夜はダメですかね?」

石木が二木に半ば嬉しそうに言う。

「あ?」

「え?」

二木が意識の胸倉を掴む。

「てめぇ腹立つよな?住んでるとこどこだっけ?」

「本置田の貧民街の方で…」

「出たよ本置田。嫌な奴多いんだ。ねぇ大須賀さん!本置田貧民街に行きましょうよ?」

「あ?はは!お前、ホント悪ぃよな。まぁでもその方が早い。」

馬車が本置田の貧民街へ向かう。

「ちょ?どうするんです?」

「お前の知り合いや家族、居るんだろ?それ貰うわ。」

「え?ちょ、待って下さいよ。」

「ここで殺すぞ?」

「…わ、わかりました。」

二木の狂気に石木は勝てなかった。

運悪く、到着したのは石木の家の前だった。

「お前ら、着いたぞ。攫ってこい。」

「ここは…」

「じゃ、他の家行ってこいや!」

「くそ!」

石木はそう言って他の家を探しに行った。

二木と共に、辰教は石木の家を襲う。

中には父、母、姉、次男、三男だろう赤子が居た。

「だ、誰だ?」

「回収部隊で~す!」

二木はまず父の首を切り、母を蹴飛ばし、泣く赤子の腹を切り裂いた。姉を捕まえ、辰教に渡す。

「逃がすな、上玉だ。」

そのまま辰教は姉を馬車へ連れてくる。

怯えた姉を縄で縛りる。

「お前、仕事早いなぁ、もう一軒行ってこい。」

渋々、もう一軒行き、そこにいた若夫婦の夫を辰教は切り裂いた。

妻を縛り上げ、馬車へ向かう。

大須賀の姿がなく、馬には返り血だらけの二木が居た。

辰教は馬車の中から、石木が馬車に連れて歩いてくる女の子がいた。それは誉だった。

「!」

どうにもできず、辰教は知らんふりをする。幸いか、誉は目隠しされていた。

誉が馬車に乗るも、辰教は助けようと思った、瞬間ー

「助けて、虎太郎…」

その言葉で辰教は腰を下ろした。

「遅いな、大須賀さん…」

「どこいったんです?」

石木が聞く。

「あ?お前の母親と愉しんでるんじゃね?」

「そ・・・」

「あ、きたきた。」

大須賀が服を着ながら馬車へ乗る。

「出せ。」


相島邸に着くなり、すぐに大須賀が戻ってくる。

「人手が足りないから、このまま黛村の迦具夜へ向かう。」

そのまま一行は買い手だろう黛村・南地区 迦具夜へ向かった。

立派な屋敷に着くと、人相の悪い女が出てきた。

「上玉です。」

「はいはい、女3人と男1人か。」

人と金を交換した。

「まいど。」

「お前、剣術出来るんだっけ?」

二木が急に辰教に話かける。

「は、はぁ。」

「伊良皆さん、こいつも良かったら売りますよ?」

「え?」

「剣術極めたいそうなんで、強い兵士になります。」

そういわれ、強引に取引された。

「そうか。お前、何か望みがあれば聞くぞ?」

不気味な笑いの伊良皆。

辰教は誉に視線を向けた。


「え?誉が攫われた?」

貧民街の襲撃に、誉が巻き込まれたかもという誉の母からの話だった。昨夜、一人で辰教の家に話に行ったそうだ。虎太郎の耳に入り、彼は一瞬動揺し、瞬間怒りに燃えた。動揺は彼の弱さ故のモノではなく、彼女の身の案じから来るものだった。

急ぎ、藤香の元へ走る。

「虎太郎か?昨日の事件のことなら…」

「すぐ馬を貸してください!」

「待て、どこへ行くというのだ?犯人は特定されていないのだぞ?」

「うるさい!」

虎太郎は藤香の言葉も聞かず、馬に乗り、相島邸に走る。

相島邸に着き、門の前に着くと、話し声が聞こえた。

「昨日の貧民街の上玉は金になったな。迦具夜の奴隷屋敷まで行くのは手間だったが…」

そんな声に虎太郎は更に緊迫感を増した。

虎太郎は更に馬を走らせる。

禁足地を、谷川を、迦具夜の入り口を抜け、ひたすら奔る…

夕暮れ近くになるも、奴隷屋敷に着く。

門に立つ番を馬で轢き殺し、中へ入る。

「誰だ?」

衛兵が三人出てきたが、一人を居合で瞬殺する。

「こ、こいつ、殺せ!」

残り二人の攻撃を捌き、切り返す。

屋敷に入ると沢山の奴隷がいたが、誉は見つからない。

奥の扉を開けると辰教が座っている。

「辰教…?」

辰教の前には裸の誉が仰向けになっていた。

「誉…!」

「来たな虎太郎。」

辰教は敵意満々の視線で虎太郎を見る。

「辰教、お前…誉を…!」

「俺の誉だった。それを虎太郎、お前が奪ったんだ。」

「誉に何をした?」

「ん?あぁ、言うこと聞いてくれないから、伊良皆さんに良いこと聞いてさ、この酒を飲ませたんだ。」

辰教が酒瓶を振る。

「沢山飲ませたら言うこと聞くようになってさ、涙を流しながら発情してたぜ?」

瞬間、虎太郎は居合で辰教を切る。

…も、辰教も抜刀し、居合を受け止める。

「悔しいか虎太郎?俺はいつもそれを味わっていたんだ。お前にも親友として分けてやらないとな!」

「腐ったのか辰教!」

辰教を蹴り飛ばすとそのまま切りかかる虎太郎。

辰教は攻撃を弾き、虎太郎の連撃も続く。それも弾く辰教。

「俺の自己流よりも誉の惚れた寺院仕込みの剣は劣るんだな?」

辰教が最後の攻撃を弾くと、虎太郎を蹴り返す。

「死ね、誉は俺のモノだ!」

辰教が虎太郎にトドメを刺しに、刀に怨念を乗せて突く。

虎太郎の眼は変わる。一気に。


⦅誉。俺が守るから。最後まで。俺はここで死んでもいい。誉を好きだから。⦆


鞘を盾にし、突きを受け止め、刀は辰教の脇を少し貫いていた。

「急所は外した。まだやるなら、次は心の臓を貫く。」

虎太郎の眼に辰教も危うさを感じた。

「俺はもう何にも困らない。俺をここで殺さなかった事、必ず後悔するぜ?」

そういって辰教は去っていた。

虎太郎はすぐに誉の元に急ぐ。

「誉ちゃん、誉ちゃん! 誉!!」

「こ、こたろ…」

誉の瞳孔は開きかかっていた。

急いで誉に服を着せて、担いで馬に乗る。

誉を負ぶる様に馬を走らせる。

「しっかり手を離さないで。」

虎太郎の手を握る誉は涙すら枯れている。

「助けに…来てくれたんだ…」

そんな顔にも、僅かに微笑む事が出来た。

「もう、もう、大丈夫…大丈夫だから。」

虎太郎は自分にも言い聞かせるように、誉の手を握りながら馬を走らせていた。

「私…もうお嫁さ、んには……ごめんな…さい…」

「謝るな、誉ちゃんは…誉は悪くない。もう忘れよう。一緒に、一緒に…帰って、平和に暮らそう。」

「…あ、りi…g、お…」

「そうだ、違う話をしよう? そうそう、こういうの昔を思い出すよ。誉ちゃんは昔から鬼ごっこでも直ぐにどっか遠くへ行っちゃうんだ。探すのが大変で、いつも困ってたっけ?…まさか、今度は馬に乗って黛村へ迎えに行くことになるなんて。ホントに変わらないよね、誉ち…」

誉から手の力が無くなった。

虎太郎は馬を止める。

急いで膝枕をして誉の顔色を窺った。

「誉!誉…あぁ、何てこと…だ…!!」

虎太郎は泣いた。思いっきり。声を殺しながら。

蒼白い顔の、瞳孔の開いた誉がそこに居た。

虎太郎の涙が、誉の瞳孔に垂れて滴っていく。


誉の家に遺体を届けると、母は泣き崩れた。

「お義父さん、誉の仇は、必ず打ちます。誰一人、逃さずに。」

「虎太郎君、気持ちは嬉しいが、誉はそんなこと望んで…」

「はい、わかってます。僕は彼女の為じゃないんです。僕や、お義父さん、彼方もきっと心では仇を憎んでいるはず。僕は誉をこうした人間を許せない。彼女は何もしていない。そして何もできないまま死んだ。これを許す道理が、僕には無いだけです。」

虎太郎の闘志を消す言葉を、誉の父は持っていなかった。いや、誰もがそうなのではないだろうか?


辰教を逃がしてしまった虎太郎。辰教を邪悪な人間に染めた者。

虎太郎の復讐はここから始まる。


漢/OTOKO ~剣士・虎太郎

ー終ー

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― 新着の感想 ―
辰教は許せないですね。誉は最後最悪な状態で亡くなりましたが、虎太郎が最後に誉を助けに行ってくれたことだけが、誉にとっては救いとなりましたね。とても悲しいお話です…ね
一話だけの短編でしたが、虎太郎の人生が変化する様子が、読んでいてグッときました。 誉ちゃんは不憫すぎましたけど、虎太郎が助けに来てくれた事だけが救いですねぇ。 悲しいお話でしたけど、きっと本編でもまた…
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