呪男
こちらは百物語九十七話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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感想やご意見もお待ちしております!
私は長年住職をやっているMと申します。
私は怪談が大好きで、夏には近所の子どもたちを集めて怪談会などのイベントをよくやっています。
内容はもちろん私の実体験。
こういうお仕事をしているので、よく怖い体験をする機会も多くて…
子どもたちには「優しい怪談」を語ることが多いのですが、今回は子どもたちにはとても語ることができない「危険な怪談」をこの場でお話させてもらおうと思います。
ある日のこと、私のお寺に奇妙な男が訪ねてきました。
男は坊主頭にサングラスとマスク。夏の暑い日なのに長袖シャツに長ズボン、手には軍手という異様な風貌でした。
「おい、お祓いしてくれ」
男は私に向かってそう言うと、寺の中へ勝手に入り、中央であぐらをかいて堂々と座り込んだのです、
「あの…失礼ですが一体どういった理由でお祓いを…?」
私が男へ質問すると、男はいきなり顔を真っ赤にして立ち上がり、私の胸ぐらを両手で思いっきり掴んだのです。
「お前有名なんだろ?知ってんだからな!お前『呪い』とか祓えんだろ!はよやれよ、いいからっ!」
男はどういうわけか理由を話さず、私も深く詮索するのは危険だと本能的に感じ取りました。
「わかりました。それではあなたの『症状』を教えてください。何かが見えるのか、それとも何かを感じているのですか。正直に私へ話してください」
私がそう言うと、男は周りをキョロキョロと見渡しながら、心底怯えたような声でこう言ったのです。
「あんたには見えないのかよっ!いるだろここに…髪の長い女やガリガリに痩せた全裸の男とか…」
男は顔面いっぱいに汗をかいており、嘘を言っているようには思えませんでした。もちろん、精神的な病気である可能性も疑いました。
しかし、男から放たれる異様な感じの「オーラ」を見て、私はこの男がとんでもないものを抱え込んでいると察知したのです。
「それではそこへ座ってください。お経を唱えさせていただきますので」
男が座り込んだことを確認すると、私はすぐにお経を唱え始めました。
もし男に何かが憑りついていた場合、すぐに何かが反応するのですが…
「おいっ!お前真面目にやってんのかよっ!全然効いてねぇぞぉ!本気でやれよ、本気でっ!?」
私は男の言葉を無視しながら、ひたすらにお経を唱え続けました。お経を唱え始めてから約2時間後のことです。
「ゲホっ!ゲホっ!…あぁ、あああっ!」
男が急に咳き込み始めたのです。私は男に憑いているものが外へ吐き出されようとしているのだと思いました。
そしてお経を唱え続けてから3時間後…
「あぁ、気分が良い…ありがとうございました…」
お経の途中、男は突然立ち上がると、スッキリした表情を浮かべて寺から出て行ってしまったのです。
「念のためもう少しお祓いを続けます。明日も同じ時間にここへ来てくださいね」
翌日、そしてその翌日も男は私の寺へお祓いのためにやってきました。
お祓いを始めてから2週間後のことです。いつものようにお祓いの準備をしていると、あの男が機嫌よく寺の中へ入ってきました。
「住職さん、ありがとうございました。今までのご無礼を許してください。俺、どうしても住職さんのことが信じられなくて…でも今はもうスッキリしています!もうこんなに元気になって!」
男は今までとは違う態度で、私に向かって感謝の言葉を述べ始めました。男の顔色はとても良くなっており、完全に憑き物が落ちた状態でした。
「いえいえ、元気になったのならよかったです。ところで…あなた何をしたのですか…?」
もう聞かなくてもよかったことなのですが、ついつい気になってしまった私は、機嫌よく笑う男に向かって思わず質問をぶつけてしまったのです。
「えっ?わからないんですか、住職さん?てっきり僕がどういう人間なのか知っている上でお祓いを受けてくれたんだと思っていましたよ!はははっ!」
男は大きな声で無邪気に笑いながら、右手の手袋を私の目の前でスッとはずしたのです。
そこにあったのは、親指と人差し指しか残っていない不気味な手でした。
「足の方はもっとすごいですよ!爪もないからもう痛くて痛くて…上手く歩けないんですよ~」
男は靴と靴下を脱ぎ捨てると、所々指が欠損してボロボロになっている両足を見せてきたのです。
「君、何をやったんだ…?」
私の質問に男はサングラスとマスクをはずしながらこう言ったのです。
「人を呪ったんですよ。もう30人くらいかなぁ~?髪の毛や爪もいいけど、やっぱり身体の大切な部分を使うと効果抜群でしてねぇ~」
男の左目は空洞になっており、口の中を見ると歯がほとんど残っていなかった。
「ムカつく奴を殺せば殺人犯になるけど、呪いは犯罪にもなんねぇじゃないですか。だからムカつく奴は片っ端から呪ったんです。目玉と手の指が一番効果が良くて、嫌いだった上司が2週間前に自殺してくれたんですよ。もう最高でした!」
男は私に向かってそう話した後、足を引きずりながら寺の外へ出て行きました。
これが子どもたちにはとても話すことができない危険な怪談です。
日本には「人を呪わば穴二つ」という言葉がありますが、呪いというものは必ず術者の元へ返ってくるのです。
男に憑りついて苦しめていたもの。
それは男自身が作りだした「呪い」であり、相手にかけていたものが「返ってきた」もの。
これがあるから呪いというものは恐ろしいんです。
そしてこれは私からの警告です。
あなたが今呪いたいと思っている相手というのは、この男のような状態になっても呪いたい相手ですか?
どうも 作者の山ン本です。
山ン本怪談百物語も後三話で百話となります…
残りの三話は色々と「特別」なお話にしたいと考えているので、また時間をいただけると嬉しいです…
とりあえず百話に関しては「百物語に関係するお話」にする予定ですので、よろしくお願いします!