4 待ち人来たる
三階層に上がると風景は変わらずだが、目の前にはひら屋の、場所柄から考えると大きな建物があった。どうも安全地帯の建物のようだ。
中に入るとテーブルと椅子が置いてあり、数組のグループが休んでいる。階層は草原と小さな森がまだら状になっているので死角が多い。ゆっくり休む場がないので、五階層までの中間階層にこのような場があるのは、探索者レベルが低位な者にとっては助かるのだろう。
壁は掲示板になっていて、数枚の紙が貼られていた。何気なくみると、その中の一枚にはこんな文句が書いてあった。
『プリンスが試練の塔に挑む! 近日来塔! 期待して待て! 情報求む!』
なんだこりゃ。俺が十八になることがわかっていて、だけど、容姿もなにもわかんないから、こんな紙を貼って情報収集してるのか。きっと首都にある新聞社か出版社だろう。次期王位継承者を他社よりも早く記事にしたいんだな。
俺が掲示板を見ているとウィザードが話しかけてくる。
「休憩しますか?」
「俺は申し訳ないが、なにもしてないので大丈夫だ。働いているソードマンとあなたは休憩したほうがいいだろう」
気を遣ってそう言ったが、ソードマンもウィザードも、これくらいではまったく疲れることはないので大丈夫、それなら先を急ぎましょうと言う。
建物を出て、道なりに四人で再び歩き始めた。
。。。。。。。。。。。。。。。。。
三階層から四階層に上がり、少し早い昼食を済ませた。ホーンラビット三羽はちょうどよい量だった。この分だと六階層か七階層で夕飯用の獲物を確保すればよいだろう。
そうして、五階層に着いて、驚いた。
探索者が多い。小さな森で死角になっているところもあるが、パッと見て五組ぐらいはいそうである。一般探索者はこの五階層までで、六階層に上がる階段には結界がかかっているので登れないのだが、それでも多い。
道なりに歩いてゆくと、どこを見ても一組は視界に入る。魔獣もこれでは出て来れまい。
六階層への階段の建物もすぐに見つかった。探索者が三組四組、周囲にたむろしていたからだ。遺物を見つけるとか、魔獣を狩って、肉を卸す、魔石を取るという目的ではなく、なにかを待っている感じだ。
プリエステスが俺の顔を見る。
「プリンスを待ってますね。六階層に上がれば、あなたがプリンスだとわかるので、すぐに記事にするのでしょう」
あきれた表情である。
なるほど、三階層の休憩所の貼紙だな。しかし、階段を上がらないわけにもいかない。
「【偽装】をかけますか」
ウィザードが尋ねる。
「その必要はないかな。遅かれ早かれ、わかることだ。向こうも、きっと何日もかけて待っているんだろうから、堂々と階段を上ろう」
「立派です、プリンス」
そう言って、ソードマンとウィザードが感心する。
プリエステスもニコリと笑った。
俺は近くの人に、こんにちは、そう挨拶しながら建物に向かう。周囲の人がその意味を悟ってざわめき出す。カメラを向けてくる探索者もいる。やはり記者か。カッコよく撮ってくれよ。
探索者たちが周囲から集まってきて拍手が巻き起こった。
「頑張れよー」
声をかけてくる者もいる。カシャカシャとシャター音が響く中、左手を振りながら建物に入り、階段を登る。
ソードマンは左後ろから俺の服をつかみ、ウィザードは後ろから右肩をつかんでいる。プリエステスは女性だったので右手を繋いだ。
あまりかっこいい姿ではないな。