2 一階層
一階層の扉を開けると、そこは草原と小さな森がまだらになっているような世界だった。
初めて入る塔だったので、どんなところかと思っていたが、他の塔とあまり変わりはなかった。入り口近くのせいか、他の探索者のグループも何組か見える。
俺に王位継承権があるといっても他の探索者と見かけは変わらない。せいぜい耳飾りぐらいだが、これだって王族ならわかるだろうが、一般人から見たら単なるアクセサリーに過ぎない。儀式には一度も出ていないので、顔を知っている者もいない。昨日のトリアルの街でもここでも俺たちに注意を向ける者はいなかった。
「とりあえず道らしいところを歩いて二階層への階段を探そう」
他の三人のそう声をかけて歩き出した。
「この草原と森はどこまで続くのでしょう」
プリエステスがつぶやく。
「空間が大きな球体のようになっているようで、まっすぐ歩き続ければ同じところに着くようですよ。ただ、まっすぐ歩いているようで曲がってしまったり、似たような景色なので同じところに出くわしても、大概気づかないと聞いています。試しに歩いたところに目印をつけておきますか」
ウィザードは答えながら、チラリと俺を見る。
「その必要はないだろう。そのうち階段も見つかるさ」
俺はそう言ってのんびり歩いていく。
本番は六階層からだ。そこからは目印をつけて歩くつもりだ。それまではのんびり行こう。このメンバーだ、五階層までの魔獣も問題にならない。
歩いているうちに、他の探索者を見かけなくなった。小さな森が隠してしまったのかもしれないし、バラけて離れたのかもしれないし、どちらかはわからない。けれど時折魔獣に出会うようになった。一本ツノが出ているホーンラビットや翼が刃のキラーカラスである。ソードマンとウィザードが簡単に仕留める。昼食用にホーンラビットを三羽ほど袋に納め、そのほかは魔石だけを抜き取って放置した。そのうち地面に取り込まれて消えてなくなるだろう。
俺とプリエステスはなにもやることがない。ただ、歩くだけだ。プリエステスが活躍する場はないほうが良いのだが。
ウィザードはいるが、彼の【探知】では上への階段は見つけられない。地道に歩いて探すしかないのだが、上への階段なので小さな建物があるから、見通しがよければ遠目でもわかる。だが、残念なことに小さな森がまだらにあるので、見通しは良くない。
「キラーカラスを使役して、上から探させたらすぐに見つかるのにね」
俺がそう言うと、ソードマンが大きくうなずく
「キラーカラスを使役するのはいい案です。テイマーに会ったら教えてやりましょう」
ウィザードがポツリとつぶやく。
「テイムして、すぐに探させるのは無理だと思います」
「そりゃ、そうだね。できればみんなやってるもんね」
俺はそう言って笑った。
そんな雑談をしていると小さな建物が現れた。二階層への階段だ。