1 試練の塔
その日、俺は試練の塔の前にいた。
剣士、魔導師、聖職者とともに最上階にある王家のオーブに触れるためだ。
王位継承権第一位の者は二十歳で王位を継ぎ、現王は元老院となって王を補佐する。
その二年前、十八歳でオーブに触れ、王家の人間が所持している加護を発動させなければならない。男子ならばgoddess、女子ならばgodの加護を王家の人間は必ず持っている。
加護を発動後、約二年にわたり、王のもとで政を学び、王へと至るのが俺の役割だ。
試練の塔は王国の南、首都からはだいぶ離れた、いわば辺境の地にある。フベルミルの泉から流れる川が近くに流れていて、その水で身体を清めてから塔の中に入るのが習わしだ。身体を清めるといっても沐浴するわけではなく、水に触れる程度なのだが。
塔は五階層までは一般の探索者も入りことができ、魔獣や魔物などを除きながらさまざまなものを遺物として持ち帰る。遺物の取引所や探索者の宿、食事処、飲み屋が立ち並び、いつからとも分からず、塔の近くには街が形成された。探索者協会や信仰者共同体も建てられている。
塔の六階層からは、階段に透明な結界が張られていて王家の耳飾りがないと入ることはできない。その耳飾りは王と、王位継承権第一位の者にしかつけることは許されず、もちろん、俺も付けている。耳の穴に通したリングの下で揺れている、銀色の三日月型をした爪先ほどの耳飾りがそうだ。同行の者は俺に触れていれば、俺の所有物の扱いとなり、結界を抜けることができる。
最上階が何階層になるのかは明らかにされていない。まあ、とにかく上に上がって上がって上がるしかない。俺一人ではとても登りきれないので、ソードマン、ウィザード、プリエステスがいるのだが、三人とは今回が初対面である。王国会議で選ばれたメンバーなのだから、きっと高位のもので信頼に足るものなのだろう。
俺は王位継承権第一位のものとして、剣術、魔術などは学んでいるが、はっきりいえば並である。オーブに触れ、goddessの加護が発動すると、その人物に合った特別なスキルを得られると聞く。現王のスキルは魔力でものを動かすことができるという【念動力】らしい。俺もはっきり見たことがないのでよくわからない。得られたスキルは軽々しく口外するべきではないというのが、代々の王の不文律である。スキルのレベルを上げるために特別室で鍛錬をするようだが、王自身が外敵に対してスキルを実際に発動することは滅多にない。ほとんどの場合、近衛騎士団が始末してしまうのだ。
俺たち四人は、持ち物の確認と打ち合わせを昨日済ませ、今日これから、塔にチャレンジする。
「プリンス、心の準備、お覚悟はできていますか」
ソードマンが尋ねる。ウィザードが俺の顔をじっと見る。プリエステスは後ろにいるので表情が見えない。
「準備は整った。さぁ、行こう」
俺はそう言って、塔の一階層の扉を開けた。