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プリンスの冒険  作者: テレパスたまちゃん
第一章 プリンをめぐる冒険
2/22

1 二択

 近頃、妙な夢を見る。


 ユングは、夢とは「あるがままの姿で」こころの状況を描くものだと説明したようだが、それに従えば、僕はプリンを食べたい、ということなのかもしれない。

 ここで、自分の、〜たいという欲望に対して、かもしれない、という不確かな推定はおかしいという文句がありそうだ。


 吉本ばななの、第6回海燕新人文学賞を受賞した『キッチン』の冒頭は「私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」で始まるが、自分の好きな場所なのに「思う」のはおかしいだろ、主文の主語を省略すんな、日本語がおかしいぞ、と苦言を呈した評論家がいたらしい。それに対して、加藤典洋は「半独言」とすえて、吉本の、一見ことば足らずに見える表現を、新しい文体と考えたようである。

 無理はあるかもしれないが、それと同じだと思ってもらえればうれしい。長い言い訳になってしまった。



 近頃の妙な夢に、話を戻そう。

 最初の夢はプリン党、プリン教。二番目はメガネっ子のたまちゃんへのエッチな願望ではなく、プリンの材料のたまご、三番目は転生願望ではなく材料の牛乳。

 つまり、すべての夢はプリンに通ず。きっとこれから砂糖の夢を見るに違いない。


 さて、プリンを食べたいという僕の隠された願望、あるいは、あるがままの願望を実現するとなると、自分で作るか、できたものを買って食べるか、の二択である。


 自分で作るとなると、台所に入らなければならない。『キッチン』の主人公である桜井みかげは女性で、台所が好きみたいで、料理研究家のアシスタントとして働くぐらいの人だから、まごうことなくみずから作るのだろうが、僕は、料理は苦手だ。カップ麺なら作れるが、あれは作るではなく、注ぐものだ。


 うちの家族は古い考え方を信奉しているわけではないが、「男子厨房に入るべからず」の考え方を持っている。

 もともと、このことばは、秦が中国統一する前の戦国時代、どうすれば中国統一を成して大王になれるのか、その道筋を「王道政治」で示した孟子のことばがもとである。古典だか世界史だかで、聞いたことのあった話だが、うろ覚えなので、ウィキペディアを見てしまった。


『「孟子」の梁惠王上に出てくる。そこでは、ある時に孟子が仕えていた王は、いけにえとして殺される牛がかわいそうであるため、助けるということをしていた。これを聞いた孟子は、このように動物を殺して食べるということを残酷であると感じた王は立派であるとして、孟子は「君子は庖厨を遠ざく」とした。この「君子は庖厨を遠ざく」の気持ちを動物だけでなく庶民に対しても及ぼせば、君子は立派な政治ができるようになるとする。


 宣王は儀式で生贄にされる牛が怯えているのを見て、罪も無いのにこのようになるのは忍びないとしていた。君子は政治を行う際に、動物が死ぬときの声を聞いてしまうと支障が出るため、孟子は君子の居宅は調理場から遠いところに置きましょうと説いた。』


 そうそう、そんな話だった。古典の漢文の時に聞いた気がする。


 惻隠そくいんの心は仁義に通ずというわけだ。仁義を実践すれば、統一は容易である。


 ただうちはそんな高尚な家庭ではない。惻隠なんて、仁義なんて、そんなもん、知らないもん、のサラリーマン家庭である。教育もあまり熱心ではない。僕は塾にも行ったことがないが、現在、予備校にも行っていないくらいだ。そこからもわかるだろう。


 うちの意図はこうだ。台所を汚し、洗い物はせず、料理道具の配置を変え、食材を無駄遣いし、しかも、出来上がったしろものはまずい。

 それなら、台所に入るな、ということだ。



 結論は出た。


 一人で、プリンを買いにゆこう。






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