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プリンスの冒険  作者: テレパスたまちゃん
第二章 プリンスの冒険
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14 渋栗モンブランは渋い味もない

 喫茶店はそれほど混んではいなかった。俺と受付嬢さんは窓際の席に座る。俺が誘ったのだが、なぜか奥側の席に座るような仕草をされて、俺が壁を背にして座ってしまった。受付嬢さんは何気に気を使っているらしい。


「ここはケーキがおいしいんです。私的なオススメは渋栗モンブランです」

 受付嬢さんが教えてくれるので、俺はそれを頼むことにする。

「飲み物は何にしますか」

「それじゃあコーヒーを」

 俺がそう答えると、受付嬢さんは店員を呼んで注文する。

「渋栗モンブラン二つとコーヒー二つ、お願いします」

 店員さんはメモを置いてキッチンに向かう。すべてやってもらってしまった。

「こういうのは慣れているので」

 そう言って微笑む受付嬢さん。俺がよくわからないで、右往左往するのを予知していたね。さすがだ。



 もう街には慣れましたか? 

 ええ、なんとか。あなた(受付嬢)はもうこの街長いんですか。

 それほどでもないんです。まだ一年経たないぐらいで。 

 そうなんですか、以前はどちらに? 

 アールファに、そこが私の生まれた国なんです。

(なるほど、だから銀髪なのか)それでは一人でフベルミルに? 

 ……………




 雑談をしながら、届いたモンブランに手をつける。一口食べると栗の甘みが広がっておいしい。オススメするだけのことはある。


 受付嬢さんは俺の上、頭の上の方をチラチラ見る。なんだかわからないが、かなり気にしている。目を合わせにくくて、緊張してる?


「あの……プ、ではなくて……あの……あまり親しくないので、ちょっと言いにくいのですが……リンスさんって女遊びとか、したことが、ありますか? あ、ごめんなさい。でも、気になって」


 視線を俺ではなく俺の上をチラチラ見ながら、尋ねる。


 え? もしかして俺、これから口説かれる? あるいは、俺が口説いてることになってる? そういう意味で誘ったのではないんだが。


 フォークを置いて答える。

「正直に言いますと……したいと思ったことはたくさんありますが、まだ経験は……」


「そう……ですか……そうですよね。よかった」……「女性から恨みを買うようなことも、それだったら、ないですよね……」


 んー、これから口説かれるには、変な質問だな……


「うーん…………それはなんとも……なにもしなくても恨まれることはあるかもしれませんし、なにもしてないのにいちどころされましたから


「そうですよね……」


 無言の中で、俺の言いたいことがちゃんと通じたのだろうか? わからないが……

「なぜ、そんなことを聞くんですか?」

 俺が尋ねると、


「ごめんなさい。ほんとうに失礼なことを聞いてしまって…………ただ、ちょっと言いにくいのですが……リンスさんの後ろ、上の方に、長い黒髪の、色白で、面長で、目つきのキリッとした女性がときどきうっすら浮かび上がって、リンスさんを睨んでいるので…………同じ女として、その表情は……恨んでいる感じが……したものですから……」





 え?




 振り向いて後ろの壁を見た。




 壁には、春の花畑を描いたようなパステルトーンの水彩画が掛かっていて、そんな女性の姿は見えない。


「変なことをいってごめんなさい……」


 俺は後ろを振り向いたまま、尋ねる。

「今も、いますか?」


「すいません、えぇ、います。だけど、今はちょっと、あきらめ顔です(私にお礼を言っているようにも思えるんだけど、それは伝えないほうがいいのかしら)」




 俺にはまったく見えなかった。


 暗殺者に殺されたり、背後霊の女性に恨まれたり、俺、なにかしたのか? なにもしてないのが悪いのか? さっぱりわからない。



 記憶にはないが、もしかしたら、どこかで、なにか、迷惑をかけたのかもしれない。

 弱気になる、俺。


 俺は正面を向いて、困った表情の受付嬢さんに言った。

「俺には見えないし、よくわかりませんが、あなたから、俺に代わって、ごめんなさいって伝えてもらってもいいですか」


「今ので伝わったようです……」




 気まずい空気だ。


 絶対、受付嬢さんは俺がその女性をもてあそんだと疑っているだろう……




 渋栗モンブランの味が、もうわからない……






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