11 人生、楽しまなきゃ
夢を見た。
メガネを掛けたかわいい女の子が現れて、なにか言っているように見えたが、音はなかった。メガネの子が手を振っているところで目が覚めた。なんだか見覚えがあるような、ないような女の子だ。
翌朝、体調は戻った。いきなり出掛けたりして疲れが出たのだろう。
エクレシアが剣とナイフを貸してくれると言うので、昨日のメガネを掛けて塔に入ることにした
身体を動かして慣らし、探索者として経験を積み、魔石を取って少しでも稼ぐことが目的だ。肉も持ち帰って卸したいが、荷物になるのでやめておくことにする。
塔の第一階層は、入り口あたりの探索者グループは一組、二組。少ない。これならゆっくり第五階層まで上がって、そこそこ稼げるかもしれない。お金がないのは精神的に貧しくなる。プリエステスを待たずに、金銭の寂しさから脱却したい。
草原と小さな森を見ながら、ここの六階層で殺されたんだということを思い出した。それと同時に、プリンセスが宝物庫のハイエリクサーをプリエステスに預けたことも思い出す。
あのときはつい聞き流していたが、宝物庫のハイエリクサーを仲がよいというだけで、ホイと預けることができるだろうか? 預けられるわけがない。ということは、プリンセスはどうにもならないほど心配していたこと、プリエステスのことをたいへんに信頼していたことがわかる。プリエステスは仲がいいと言っていたのを俺は表面的に聞いていたが、二人とも、心の底からの信頼があっての仲のよさなのだろう。いつそんな友情を深めたのか。
聖職者だから、信仰者共同体にいただろうし、プリンセスは定期的にエクレシアに行っていたので、そこでかな。プリエステスは王国会議で選ばれるような人だし、若そうに見えるが、中ではそこそこエライ人なのかもしれない。年、いくつなんだろう。まさか十代はないと思うが、二十歳ちょっとぐらいか? 三十代には行ってないと思う……
そんなことを考えていたら、シルバーウルフが三頭ほど出てきた。俺は並の実力だが、魔術も使える。その一端を、ウルフ君、君たちに見せよう。
距離があるときは魔術が有利、俺は手をピストル型にして水弾を放った。六発放ってウルフを絶命させる。水弾は『水魔法』初級の攻撃魔法だ。この分なら五階層まで問題なく行けるだろう。ナイフを使ってウルフの心臓から魔石を取り出して、死骸は放置だ。大地にお任せ。空中から水を出して、手を洗う。『水魔法』は初級とはいえ、使い勝手がいい。
五階層まで行って帰って来るまで、シルバーウルフ、ダブルホーンウルフ、ホーンラビット、キラーカラスなどに遭遇して52個の魔石をゲットした。お一人様だったせいか、襲って来る魔獣が多かった。
お昼はホーンラビットを焼いて食べた。ウサギはおいしい。かなり疲れたが、これなら毎日は無理かもしれないが一日おきに行けそうだ。帰りに協会に寄って魔石を売り、エクレシアに戻る。
体調は悪くはなかった。
プリンス時代の生活とは違う暮らし。こんな生活、楽しい予感しかしない。プリンセスは、たとえば、こんな暮らしがしたかったのだろう。あの頃はプリンセスから話を聞いても、あまりリアルに思い浮かべることができなかったが、こういう生活なんだと今はわかる。
悪いな、プリンセス、俺が楽しんじゃってるよ。