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プリンスの冒険  作者: テレパスたまちゃん
第二章 プリンスの冒険
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9 ジョハリの窓が開く

 当面の衣食住はすべてエクレシアに頼った。俺の所持品はまったくないし、それはプリエステスも同じだ。持っていた荷物はすべて塔の六階層である。今ごろ大地にすべて吸収されているだろう。そして、いつかはわからないが、遺物となって出現し、誰かのものになるはずだ。六階層で吸収された物が五階層以下で現れるのかどうかはわからない。

 来年プリンセスが塔に挑戦するんだったら、ついでに俺の荷物も遺物として探してもらおう。


 プリエステスは翌日にはトリアルを発ったが、女性一人で大丈夫かと聞いたら、ちょうど首都に向かう探索者のグループがいるので、混ぜてもらうそうだ。それなら安全だろう。トリアルに戻ってくるときは、現王にお金をもらってくるよう頼んだのは内緒である。エクレシアにこれだけ世話になっておきながら、さらにお小遣いとか、今後の活動資金とかは、もらえない。たぶんトリアルに戻るときもこちらに向かう探索者に混ぜてもらうのだろう。そう考えると、往復で二十日ぐらいかかりそうである。


 プリエステスにはいろいろ用意しておくからとは言ったが、なにを用意すればいいのやら。多少のお金はエクレシアからはいただいてしまったが、装備をそろえるとかは無理である。事前に武器屋や防具屋など視察してもいいが、プリエステスの持ち帰る額によって購入品は変わるので、あまり意味はない。どうしたものか。


 一週間近く休んでいたので、運動がてら、とりあえず街に出てみることにした。


 エクレシアを出て大通りをぶらつく。トリアルの街はそれほど大きくはないので、街中を見ても一日かからない。すぐに探索者協会が目についた。これから探索者になるのだから、まずは登録が必要だ。聞いてはいないがプリエステスも登録しているのだろう。そうでなければ、王国議会で選ばれることはあるまい。俺はプリンスだったので、登録はしたことがない。


 探索者協会に入ると、中は人が少なかった。プリンス暗殺の件があったので、探索者は一度ホームに戻っているかもしれない。受付に行くと、女性が微妙な表情をしている。俺の正体は知っているけど、それは言えないし、態度にも示せない。だから、どんな態度をとっていいのか、きっとわからないのだろう。


 俺は構わず探索者の登録を頼むと声をかけた。


「それではこちらの書類を記入してください。文字は書けますか?」

 マニュアル通りの返答だった。受付嬢、採点、十点まんてん


「あぁ、文字は書ける」

 ぶっきらぼうに、そう言って受け取った紙を見て、うーむ、と考えてしまった。


 名前を書く欄がある。

 プリンスとは、書けない。本名はもっとまずい。王家は社会的地位が安定的に確定するまでできるだけ本名を明かさないようにしている。他にもあるが、地位によって名前が変わるというのが大きな理由だ。


 名前を書くのに悩むのも、周りから見たら、なにかを疑われそうだ。隠し事があると、周りの視線をつい意識してしまう。


 どうしたらいい? とっさにそれらしい偽名が思いつかない。どんな名前がいい? と受付嬢に聞くわけにもいかない。


 俺って、アドリブ、きかない奴だったんだ。


 そうだよな、プリンスだったから、周りがお膳立てしてくれてたし、プリンスとしての役割もあったからな。やることとか、もう決まってたから、あまり自由に考えることはなかったんだよ。

 プリンスがはずれちゃうと、どうしたらいいのか、すぐに悩む奴だったんだ。

 なるほど、自己理解が深まったよ。俺は優柔不断なタイプ……ジョハリの窓の一つが開いた気分だよ。


 さぁ、どんな名前にしよう。これからーーもしかしたら死ぬまでーー使う名前だ。




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