7 加護
プリエステスの話だと、生き返った俺を確認したあと、五階層に俺を担いで降りてーー下に降りる分には結界は働かないらしいーー五階層にまだ残っていた探索者たちに協力してもらって、トリアルの信仰者共同体に運んだらしい。
目の包帯は強い閃光を浴びてるので、念のために保護をしているのだそうだ。最悪、失明する可能性もあるとか。【治癒】と【回復】を数度かけているので、たぶん最悪の事態は起きないだろうとのことだった。
俺が昏睡状態だった三日の間に、エクレシアと探索者協会のお偉いさんが話し合って、次のことを決めたそうだ。
『再び暗殺者が現れる可能性もあるので、プリンスは殺されたことにする』
トリアルの住民、および宿泊者をはじめ、探索者協会、エクレシア、試練の塔にいた探索者など、すべての人に箝口令が敷かれた。生き返ったプリンスの命に関わることなので、皆素直に従ったという。
ご丁寧にエクレシアの庭には俺の墓まで用意しているという。王の元には俺が身につけていたお飾りの剣も送られている。
もともと顔も知られておらず、証の耳飾りもないので、生きていることがバレることはないだろう。そういえば加護はどうなっているのだろう。一度死んでいるようだし、確認したいところだ。
目を覚ました二日後には目の包帯が解かれた。視力は全回復とはならなかった。白い靄がかかったような状態だが、見えることは見えるので大丈夫だ。ただ、瞳が、元々は黒かったのだが、白くなってしまった。白眼である。まさか広い視界と透視、望遠能力を身につけたとか、あるかな。ないな。ヒナタっていう名前の知り合いもいないし。
あれ? ヒナタって誰だ?
視界を得たので早速加護の状態をプリエステスとともに確認に行く。
エクレシアにはユグシドラルの枝から作られたという杖があり、杖の先端には球状の水晶が据えられている。杖に触れるとその水晶に加護が映し出されるのだ。ただ、杖は貴重品。おいそれとは触れないが、俺は元プリンス、頼み込むとすぐに案内された。
「ドキドキしますね」
プリエステスはなんだか楽しそうだ。なんでだ? 俺は怖くてドキドキだよ。二人でドキドキしてたら恋が生まれそうだな。
くだらないことを考えていると、
「早く触ってください」
プリエステスにそうせかされて、恐る恐る触る。球状の水晶に文字が映し出される。
『真理』
プリエステスが首を傾げる。
「なにこれ? 変な、図形?」
彼女には読めないようだが俺にはなぜか読める。『しんり』だ。まことの道理って意味だが、なんだかその、まことの道理っていうことの意味がわからん。
プリエステスは水晶の映し出し方が悪いと思ったのか、左手で水晶をこする。すると、次の文字が現れた。
『愛』
プリエステスは再び首を傾げる。
「また変なのが出た。この証明乃杖、まさか故障?」
おいおい、そんなこと、言っちゃダメだよ。これは『あい』。いつくしみ、おもいやる気持ちって意味だよ。
これをなぜプリエステスは読めない? 逆に、なぜ俺は読める?
さらに彼女は水晶をこする。全部水晶の映し方が悪いという手つきだ。触られた水晶はまた別の文字を映し出す。
『goddess』
「あっ、あった。王族の加護がちゃんと残っている。よかったね。だけど三番目に出てきたのが不思議。最初の二つはなんだったんだろう」
プリエステスのことばに、うんうん、そうだねとうなづきながら、考える。
彼女が読めない加護を、俺は読めた。なぜだ? それになぜ加護が増えている? 一度死ぬと加護が増えるのか? しかも王家の加護が三番目に出たということは、王家の加護よりも、上位の加護だ。この二つはなんだ?