6 転生?
目が覚めた。
見知らぬ天井があった、とか、膝枕でかわい子ちゃんの顔が見えた、とか言いたいが、白い世界だった。
目が見えていない? 身体の痛みはない。
ゆっくりと思い出す。
前を歩いていたウィザードからの強い閃光。それで視界が真っ白になった。胸の激痛。手で触った感触は剣先だった。たぶん後ろからソードマンに心臓を刺されたのだ。あの二人は暗殺者だったのか。
人と人との繋がりは、ほんとうに、わからないものだ。
心臓を刺された、間違いない、と思う。けれど、なぜ生きている?
【治癒】でも【回復】でも、死んでしまったら、もう効果はない。死んでしまえば、いくら魔術といえども、役には立たない。
ここは天国か何かで、これから神の審判があって、異世界転生とか? あり得る……
転生だったら、きっと女神が出てきて異能を与えてくれるのだろう。どんな異能がいいかなぁ。女神はなんだかメガネをかけている女性のイメージだ。神々しいというよりかわいい感じ。
もぞもぞ動くと、どうもベットで寝ているようだ。上半身を起こしてみる。目が見えないだけで、身体に支障はない。手で顔を触ってみた。なるほど、目のあたりには包帯が巻かれているようだ。だから白い世界で見えないのか。
扉を開ける音と同時に、
「目を覚ましたんですね。よかった……」
そう言って、すすり泣く声が聞こえた。聞き覚えのある声、同行していたプリエステスの声だ。
どうやら、死んでいないらしい。助けられた?……心臓を一突きされたのに?
「ありがとう。助けてくれたんだね。その声はプリエステスだよね?」
「……そうです。私のこと、覚えていますか?」
「覚えているよ。死ぬ寸前までの記憶はしっかりあるよ」
「……死んだあとの記憶は、もちろんないですよね。あ、すいません、変なことを聞きました……」
「…………え? やはり、俺は死んだのか……」
「……はい。一度だけ。剣は見事に心臓を貫いていましたから。ソードマンの腕は確かでした」
「そうだろうな。王国会議で選ばれたソードマンだからな。……ところで……なぜ俺は生きている?」
「王国の宝物庫にあったエリクサーを見たことがありますか? 世界に一本だけと言われていたハイエリクサーです。それを使いました。たぶんプリンセスが盗み出したんだと思いますが、念のために持って行くように言われていたので。使わなければコッソリ戻せばオーケーオーケーと言っていましたが、まさか、ほんとうに使うとは思いませんでした。
剣を抜いたあと、血が噴き出して、怖かったのですが、傷ついて止まった心臓に半分以上かけました。傷口がふさがって、十分ほどで心臓が再び鼓動し始めたので、残りを水で少し薄めて飲ませました……あの十分は長かった……あ、もちろん【治癒】と【回復】もかけました……」
絶句である。言葉が出ん。一回死んでるのか。三途の川は見なかったし、お花畑も見てないぞ。
それにしても、あの宝物庫のハイエリクサー、使っちゃったのか。目立つところに飾られていたから、なくなったのは、すぐに気がつくだろう。現王がめちゃくちゃ大切にしていたような気もするが、プリンセス、勇気あるなぁ。俺にはそんなマネ、絶対無理だと思う。でも、それで助けられたんだから、プリンセスには感謝感激雨霰だ。
ところで。
「俺を一度殺した腕のよい二人はどうした?」
「プリンスに攻撃を仕掛けた直後に死にました。耳飾りは結界を通るためだけではなく、【反撃致死】の魔術も含んでいたようです。両耳の銀色の飾りが、はずれたあと大きくなって、それぞれがウィザードとソードマンを切り刻むのを見ましたから。裏切り者が二人でよかった。三人いたら、プリンスはもちろん私も殺されていました」
両手でそれぞれの耳を触ると、耳の穴に通してあるリングだけになっている。