ママと騎士とお父さん??
「ま、ママああああああああ!!」
「あらあら。どうしたの美愛ちゃん。朝から元気ね。若いっていいわぁ」
何故か乱れたドレス姿の母にツッコみたい衝動に駆られつつ、先程まで悪い考えで芽生えていた不安を失くすため、母に飛びつくように抱き着いた。
なんだかんだで安心する温もりと弾力に顔を埋めながら心底ほっとした。
「……急にいなくならないでよぉ」
「ごめんね、美愛ちゃん。ちょっと我慢出来なくて……」
ふぅ、と色気たっぷりな声で謝った母にバッ! と顔を上げてジト目で非難がましく見ながら先程から気になって仕方なかったことにツッコむことにした。
「……なんで服装が乱れてんの」
「ちょっと、色々あったのよ」
「色々って何!? もしかしてあそこにいる騎士様と色々したせいとかそういう理由……!?」
「騎士……?」
本当に疲れてるのか、どこか気怠い目配せでいつの間にか空気のように待機していた例の王道美形な騎士様を母が見た。
そして何かに思い当たったのか、ああと溢した母がとんでもないことを言い出した。
「ちょっと身体のお世話をしてもらっただけよ」
「かっ、お、お世話!?」
途端、昨晩綺麗な男性たちがお風呂にまで同行しようとしたり、着替えを手伝うとかなんとか言って服を脱がそうとされて未遂に終わった記憶が蘇って赤面した。
まさか、ほ、ほんきでそんな……。
「ママ、いくらなんでも手が早過ぎるよ……」
「なんの話かしら? 手なんか出してないわよ。出されはしたけど」
お、恐ろしい! 娘に堂々と言って気まずくないんだろうか、この人。
「――ママ! もっと自分の身体を大事にしてよ!」
「? ええ。してるわよ、もちろん」
「じゃあなんでまだ何も分からない状況でもうえっちぃことしてるの!」
「えっちぃこと……? お手洗いの使い方を教えてもらっただけよ」
「おてっ、……お手洗い?」
母が居なくなって不安になってたところに美形騎士様にお父様と呼ばれる云々と言われてさらに不安に苛まれていた感情をぶつけるはずが、母の言葉を一瞬理解出来なくて瞬きした。
……つまり、お世話はお世話でも下のお世話……あ、いや、トイレのお世話ということだったのか。
若干毒されていた思考を無理やり引き戻しつつ、盛大な勘違いをしていたと知って先程とは違った意味で赤面した。
な、なんて紛らわしいんだ!
「じゃ、じゃあなんでお父さんって……」
「誰のこと? 美愛ちゃんの家族は私だけでしょう」
「え、だって騎士様が……」
「うーん……?」
ちらちらっと、先程笑顔でとんでもない勘違いの元凶となることを宣った美形の騎士様を窺った。にこにこで変化が無い。
も、もしや実はからからわれてたとかなのだろうか……?
「――あ」
「えっ、何そのやっべみたいな顔! と、トイレの使い方を教えてもらっただけなんでしょっ?」
「いえ……その前になんか、夫がどうのとか言われたような……?」
「言われたような!? そこ超重要でしょ!? なんで普通にスルーしてんの!? もっと疑問に思って! ジョークみたいに軽いノリで流して安易に受け入れないでよ!」
「だって、じゃないと使い方を教えられないって言うんだもの。我慢出来なかったからとりあえずいいやっておっけーしちゃったのよ」
「なにしてんのおおおおー!?」
トイレの使い方ごときでなんでそんなことになっているのか経緯が良く分からなかったが、きっと異世界謎文化に違いない。
そしてお風呂とかの件でもあっさり受け入れていた母のことだから、深く考えずに受け入れたに違いない。
そしてふと、もしや昨日のアレソレもそういう意味で意図的に侍らされていたのかもしれないと思い至って青褪めた。
このままでは警戒心強めな娘の逆ハー修羅場より、適当天然なうえ倫理観がぶっ飛びな母親のほうが先に逆ハーの修羅場を築きそうな勢いである。
「美愛ちゃん!?」
わたしはこれから先の、自分よりも母親関連で面倒極まりないだろう展開が起こるという確信に満ちた嫌な予感をひしひしと予想してキャパオーバーの心労で卒倒した。
もうやだ。いますぐおうちかえりたい――。




