ママと騎士とお父さん?
娘の倫理観を理解出来ずに堂々巡りする話を母と続けても仕方ないため、疲れもあってさっさと寝ることにした。
その際、寝る前に入浴しましょうという文化が異世界にあったことが確認出来て幸いだった。
――が。
やっぱりすっごい綺麗な男性たちが当たり前のようにお風呂にお供しますとやって来た時には引っくり返るほどびっくりしたし、何故か母が普通に受け入れようとしてて慌てて拒否った騒動でドッと疲れてしまい異世界にもお風呂があって安心、どころではなかったが。
そんなこんなで疲れからかぐっすりと眠った明くる日。
「……んぅ? ままぁ……?」
昨夜はたしか、このままでは夜這いとかも普通の文化ですとかあるんじゃなかろうか……と若干ではない疑心暗鬼に陥っていたわたしは、薄情にも娘をぽつんと置いてけぼりにしてあっさり隣の部屋で寝ようとした母をベッドに引きずり込んだはずだった。
その母が起きたのに横に居ない。さぁぁぁっと顔が青ざめた。
母にはなんだかんだ言いつつも、いきなりの異世界召喚で不安だったのだろう。母親が傍にいることはわたしにとって重大な安心材料だったのだ。
ガバッ! と勢いよく飛び起きて、ばばばっと自分でもびっくりな速度で部屋の唯一の出入り口へと裸足のままぺたぺた走った。
「ぐぎぎ……! おっも……!」
しかし勢いよく開けようとした扉は見た目以上に重厚で、昨日案内してくれた華奢な少年があっさり片手で開けていたとは思えないほどの重さがあった。
鍵!? もしかして鍵掛かってる!?
押しても引いてもびくともしない扉にとうとう片足をつっぱっても動くことがない扉に焦った。
――もしかしてママに何かされたんじゃ……!
異世界ものの定番ではあるが、究極的に必要なのは聖姫であるわたしだけであるのであれば、母親なんて邪魔な存在はさっさと排除されるのがオチなのだ。
昨日何もされなかったとして、わたしが知らないうちに何かしようとして後で適当に誤魔化そうとすることも考えられたのに。
――わたし、馬鹿だ!
「うぅ……ままぁ……」
色んな悪い想像が頭を駆け巡って目が潤む。
わたしが巻き込んだせいで――。
ぎぃぃ。
「うわわっ!?」
「――いかがいたしましたか。聖姫様」
急に動いた扉に、片足を突っ張った態勢だったわたしは尻餅をつきそうになってケンケンしながら扉から離れた。あ、あっぶな。
急なスリリングにバクバクした心臓を宥めるように手を置き、深呼吸の後に扉を開けてくれた男の人を見た。
異世界召喚されてからこの方、美形エンカウント率が天元突破してるわたし調べでも、中々の上位層に食い込む美形っぷりの金髪碧眼な王道王子様な見た目の騎士様がいた。
だが、今はそんな王道の美形にときめくどころではない。普通に鬼気迫る勢いで騎士様に詰め寄った。
「ママはどこですかッ!!」
「まま……? ああ、ミユキのことですか?」
「み、みゆきっ?」
予想とは違ったかなり親し気な感じの呼び方にわたしの勢いが止まる。
ちなみに母の名前は深雪である。
「それなら朝から疲れたと、隣の部屋で寛いでらっしゃいますよ」
「…………」
なんだろう。ツッコんだほうが良いんだろうか。
なんで朝から疲れてるの、とか。なんで美形の騎士様がママの名前を親し気に呼んでいらっしゃるのか、とか。
「……そうですか。お騒がせしてすみません。ママに会えますか?」
「もちろん。聖姫様の御家族ですから」
「ご案内お願いしてもいいですか」
「光栄です。この先、聖姫様にお父さんと呼ばれる日も近そうですね」
「――は?」