ママと召喚と聖姫と異世界Ⅲ
「ねえ、ママ。なんかおかしくない?」
「どうしたの美愛ちゃん。気になることでもあった?」
「いや、」
そこでわたしは母へ恭しく給仕をする美青年たちと、それを当たり前のような自然体で受け入れている母を見比べた。
いきなり異世界召喚されたっていうのに、お、落ち着きすぎじゃない?
「ママ、ここ異世界なんだよ? しかも帰れないって言われたじゃん」
「そうね」
給仕された紅茶を優雅に口にしながら、ツッコミどころ満載な母親をわたしは訝し気に見た。
なんか、場馴れしたような余裕がありすぎやしませんか。
「それとなんか、乙女ゲーみたいなことしろって言ってたし」
「ああ、美愛ちゃんがよく遊んでたゲームのこと?」
「ちょっと! 勝手にわたしの部屋漁ったの!?」
「だってお掃除しなきゃじゃない」
「うそぉ……」
母に隠れてこっそり嗜んでたつもりの趣味がバレバレだったショックと、ついでにコツコツ貯めた貯金で買ったコレクションたちを永遠に置いて来てしまったことを思い出したショックで項垂れた。
「良かったじゃない。その乙女ゲーとやらみたいに好き勝手に爛れた生活を送るだけで至れり尽くせりされるだなんてラッキーよ」
「言い方っっ!! そんな内容のゲームじゃないし!! もっと一途にひとりずつで攻略する健全な感じだし!」
「でもそれってようはいずれにしても男をとっかえひっかえするんだから、結局最後はやる事やるなら一緒じゃない」
「ちっ、違わないけど、ちっがああああああああう!!」
乙女ゲーを遊んだことのない母からすれば、そういうゲームという認識をされても仕方がない。
しかしたったひとりを決めてからは、相手を攻略している間は他に目移りしないのが乙女ゲーマーとしての暗黙の了解であり、醍醐味なのだ。そしてわたしは18禁版を遊んだことはない。断じてない。
そもそも現実では出来ないセーブやリセットという操作があるからこそ非現実は楽しめるものであって、ましてや逆ハーなんてものは現実に適用していいものではないのは乙女の常識である。
いきなり異世界に召喚されたこともさることながら、一番の問題は現実にしてはいけない逆ハー恋愛をしろと助けを求められない孤立無援の状態で求められていることだろう。
というか、そもそもそんな歩けば修羅場みたいになりそうな生活わたしは絶対に嫌だ。
「美愛ちゃんの爛れた生活、愛があるならママは大歓迎だから大丈夫よ」
「はあああ……!」
他に信用に足る頼れる人がいないとはいえ、完全に相談する相手を間違えた、とわたしは大きなため息と共に頭を抱えた。