ママと冒険者と許可制と罠Ⅻ
――テンプレとは。もはや哲学なり……。
「は、ぁ……はぁ……」
テンプレという哲学に挑み始めてから、かれこれ体感時間三時間程度。膝に手をついて荒い息を上げるまでに挑戦し続けたわたしの平均的な体力や精神力はとうとう限界を超えつつあった。
事あるごとに奇異の眼に晒され続けながらも、めげずに思いつくままあれやこれやと試し続けるがまるで成果なし。
やっぱり無謀だったんだ……。
「はぁ……」
だから無謀な試みは最初からやめておけとあれほど言っ……あれほどというほどにはしつこく言ってないかもしれないけど。言ったのに……。
元々やる気なかったけど、途中であまりの無反応にわたしが勝手にムキになって休まず何かしら試し続けたという部分は一旦考慮しないでおくとしても。
「……何してもなんの反応も無いんだけど、これ。ほんとにその起動? 言葉とかいうのはあるの……?」
「なんだ、散々奇怪な言動をして気が狂ったのかと思ったが、起動の為だったのか? 起動の言葉はその土地ゆかりの言葉でないとならない。見当違いな言葉で言っても全部無駄だ」
「――違うって分かってたなら、ちょっとは手伝ってくれても良かったでしょ!? それを散々醜態を見物した後で人の頑張りをただ品評するだけなんて、とっても良いご身分ですねこんちきしょうっ!」
「気迫の籠った意味の無い言葉を叫び続けてる危ないやつに誰が声を掛けたいと思う?」
「う……」
そ、それはだってムキになってたのもあるし、大体のテンプレは大きな声で「ステータスオープン!」とか「オレのターン!」とか言うんだもん! だから一応、わたしもそれに従ったまでで……!
そもそもからして! テンプレというものにも数々の形式に則ったお作法というものがありましてですね……!
「それに何度か声を掛けても聞こえてなかっただろ」
「え」
それはごめんなさい。
「――まあいい。とりあえずこちら側に戻ってこい。手伝う云々の話はそれからだ」
「はい……」
わたしは避難所から収容所へと舞い戻った。
「……さっき手伝わないって言ったくせに」
「手伝わないと手伝えないでは大きく意味が違う」
「えっ! じゃあ手伝ってくれるの!?」
「最初に助言をして手伝ってやってただろ?」
「助言……?」
……。えっ、もしかしてあれが!? バカにしてるだけかと……。
どう見繕ってもわたし視点ではシャルル美少女に馬鹿にされていたという誤解は無いような気がする。
……でももしもこれが異世界流手伝うのスタンダードなら、わたしはこれから先ずっと誰にも何も頼めないのかもしれない。
だってこれを良く言ってツンデレのツンだとしても酷過ぎやしません? 一般人に対して、リアルでツンデレのツンはキツイよ!
「なんだ」
「ナンデモアリマセーン」
「叫び続けた弊害か? 片言になってるぞ。正確な発音でないと効果は発揮されないから気を付けろ」
「ア、ハイ」
あ、片言って概念は異世界でもあるのね。とか思う間もなく注意事項を並べ立てられた。ママよりママか。細かい。
これが手伝っていると宣う人間の言動かと思わないでもないけど、今は我慢するしかない。
……そういえば気が動転してて今更だけど、わたしが消えたことでミハエルパパたち大騒ぎになってないかな。
何故かママが異世界ハーレムを築き始めてるけど、一応わたしってば逆ハーを築かないといけないらしい宿命の聖姫様ってやつらしいからね。
ママのお願いにはあっさり頷いたけど、最初のミハエルパパの反応からすると本来なら王宮からも出したくないって感じだったし。
今回のことで外出禁止になったら嫌だなぁ。……いや。ママが頼めばまだワンチャン可能性が――。
――そういえばさっきふと気付いたんだけど。
何故だか分からないけど、ママに物凄く心配かけちゃってる確信っぽいものがずっとひしひしと心に伝わってくる感覚は一体なんなんだろう。
もしかしてこれが以心伝心ってやつ? 気のせいかもしれないけど。
でも本当にママからどこなの~、帰って来て~、って思念っぽいものを受信してる気がする……。
一刻も早く無事に戻らないと!
とりあえず、無事だよ~、でも迷子~、助けて~ってなんとなくで電波を送ってみた。
暫くしてから分かったわ~、頑張って~ってほわほわした暖かいエールが来た感じがした。気のせいかもだけど。
……よし! 精神的に参ってることによる気のせいなのかもしれないけど、幻のママによしよしと応援されたおかげで気力が回復した気がする!
これならシャルル美少女の毒舌にも耐えられるかもしれない。
「ねえ。そもそもその起動の言葉が土地ゆかりのものじゃないとダメなら、わたし特産品とか名物、観光地とか有名な逸話とかこれっぽっちも、一切何も分からないよ?」
「は? ……そういえばお前、貴族のお嬢様……だったか?」
「違うけど」
即座に否定した。だってなんか今更だけど、お嬢様呼びはなんか痒い。
……決してよほど高貴な顔立ちで姫っぽい人からあからさまな疑問系で身分を神妙に改めて確かめられたせいじゃないよ!
誰にともなく心の内で叫んでみるが、心の声が相手に届くはずもない。
「そういうのはいい。今更隠しても意味がない。そもそもあのレオンハルトに護衛させるくらいだ、たとえそうとは見えなくても訳アリの可能性もある。出生がどこぞで隠されて育った高貴な王女様であっても驚かない」
一言多いよ! そして勝手にどんどん設定を盛ってハードル上げないで!
そんなしたり顔で迷推理されても、ただただ気まずくなって言い出しづらくなるだけだよ!
「……もしわたしが高貴な身分だとしたら、分かっててなんて態度がぞんざいなの……でも違うからね? ほんとだよ!? ……良かったね、相手がわたしで。もし本物の王女様だったら、さすがに不敬だとかで罰されたりするんじゃない? 知らないけど」
王様とは少ししか会ったことないけど、いかにもって感じの風体をしていたし、ミハエルパパや周囲のわたしへの対応とかを鑑みても無礼の基準とかは予想と大幅に外れたりはしてないはず。
……そういえば役割は聖女っぽいのに、なんで聖姫って呼ばれてるんだろうね? それ今気になっちゃう? って感じだけど。
もしかして単にあだ名とかいうやつかな?
「あ、わたしも一応あだ名ではあるけど姫とか呼ばれてて……でも安心して! 召喚される前は普通の学せ」
「――待て」
「――ッ!?」
ひっ、と声を上げなかったわたしを誰か褒めてほしい。
なにせ、シャルル美少女がまたしても鼻先数センチというところまで今度は自らぐぐい、と近付いて来たのだ。
……ご丁寧に壁際に追い込んで。
これって噂の壁ドンってやつ? とわたしは即座に現実逃避した。
だって睨んでる顔が間近にあって怖い。美し過ぎて怖い。迫力パない。
「姫、それも召喚……? まさかだとは思うが、聞いておく。――お前はあの、聖なる姫じゃないよな……?」
「そ、そそその聖なる姫様がどの姫様のことかは分からないけど……周囲には聖姫とか呼ばれてますです。ハイ」
「――――」
ち、沈黙!? 何!? 急に青褪めて黙るってどうしたの!?
ぐ、具合が悪くなっちゃった……?
「――ど、どうしたの?」
いや――それよりもとんでもなかった。
「――最悪だ」
「え」
「一族郎党斬首刑」
「えっ」
「このまま一定時間が過ぎれば聖姫誘拐及び叛逆罪、ってところか」
「えッ」
「レオンハルトが処刑筆頭候補だ。お前の護衛もな。もって半日か……」
「ええっ!?」
「そして俺も」
「俺もッ!?」
ちょ、……ちょっと待って!
じょ、情報量が多いッ! 多いよ!? それも物騒なやつが――!
ミアは こんらんした!
ミアは こんらんしている
ミアは ますます こんらんした!
混乱ループ(´・ω・`)




