ママと冒険者と許可制と罠Ⅺ
「呪具の類ではないな。見た目は普通の指輪だ」
「……見た目は? え、やっぱり普通の指輪じゃないの!?」
呪いアイテムとかではないと断言されてホッと安心、と思いきや不穏な言葉を付け足されて不安を煽られた。
ちなみに先程の醜態は普通にスルーされた。
「普通の指輪が勝手に指に嵌まるわけないだろ……」
「うん……」
……分かってるよ! そのくらいはさすがに……!
でも異世界製だからってだけで、知識ゼロだとこういうのがスタンダードなのかもって勘違いしちゃうでしょ! 不可抗力だから!
そもそも前提とする指輪の普通ってなんだ!?
その普通は地球と異世界で共通項という認識でおーけーなやつ!?
「とにかく呪具ではない、呪具に似た効果をもった普通の指輪だ」
「圧倒的矛盾」
睨まれた……。
「起動させることが出来ればもっと詳細なことが分かるはずだ」
「起動?」
急にメカニカル。やっぱりそっち系だった……?
「こういった呪具ではないのに呪具と似た効果をもつ特殊な品には、起動する為の言葉が必ず備わっている」
「でもどんな言葉なのか全く分からないけど……?」
すい、と目を逸らされた……。
「……なんでもいいから適当に喋り続けろ。いつかは答えに辿り着く」
どこかで聞いたような希望を与える系名台詞のはずが、逆に物凄い絶望感をわたしへ与えてきた。
え、それってやけっぱちっていうやつなのでは……!?
もしかしなくともわたしの語彙力や記憶力、発想力や集中力なんかに全てが掛かってるってこと……!?
む、むりげー……。
「せ、せめて起動に必要な言葉の傾向とか……」
「無い。作成者、もしくは所持者の気分次第で言葉は変わる。……それと、特に起動する言葉の長さにも制限は無かったはず」
もっと無理ゲー! 何その欠陥仕様! 六桁のパスコードで充分だよ!
そもそもパズルを解くためのヒント以前に、肝心のピースがどこにも無いのに一体どうしろと!?
さらに言えば、異世界自動翻訳チートで会話だけ言語の違いとか分かんない欠陥仕様なのに、どの異世界言語を喋ってるのかも知らずにひたすら喋り続けろとな……?
数分前にすこーし危惧したばかりなのに、早速翻訳チートが欠陥チートな事で困るっていう事態に陥ってしまうなんて、いくらなんでもフラグ回収が早すぎる……!
しかもそんな状態で当てずっぽうするしかないとか、無謀にもほどがあるよ……!
「それもう起動を諦めたほうが早いのでは……?」
「そうなれば手がかりは一切無くなり、仲良く餓死だ」
「うぐ……」
そう言われましても……。いやだって明らかに無謀……。
「それとも、この先にひとりだけで進む気になったか?」
「それはもっと無理ですごめんなさい」
「ならひたすら何か喋り続けろ。あいにくと手伝えることはない」
くそぉ。仲良く道連れだって脅すくせに、手伝う気ないのは何故!?
「……うーん」
「唸るだけ時間の無駄だ。何度言えば分かる。その頭は飾りか?」
うるさーい! いざ喋り続けろと言われても、咄嗟に何にも思い浮かばないしそもそも見守られながら独り言ぶつぶつするのは普通に恥ずかしいのッ!
手伝う気ないんだったら、せめて邪魔しないようになるべく遠くで静かにして口出ししないでほしい。……それとも何? あれなの?
もしかして、いちいちわたしを小馬鹿にしないと気が済まない病気なの……!?
「何でもいいから喋り続けるんだ。そうしないとこのまま餓……」
「あーあー、もうそれは分かったから! ちょっとは考えさせてよ!」
「だから何も考える必要は無い。適当に喋り続ければいいだけの簡単なことだ。……それだけでいいのに、何がそんなに難しいんだお前は」
もう! もう! もう……!
憤慨したわたしは相手が気を遣って離れてくれないならと、自らシャルル美少女から大きく距離を取った。
――結界の向こう側へと。おそらく危険度合いはシャルル美少女が居るほうとは段違いなんだろうけど、今のわたしにとってはシャルル美少女からの唯一の避難所みたいなものと化してるし気にしない。
「おい! 待て! あまり遠くに――」
「待ちませーん!」
そこそこの距離を稼いだわたしは、ひとまず冷静になってこういう展開で役立つ異世界テンプレっぽい話を思い出そうと努力する。
一番テンプレっぽいのは「開け、ゴマ!」ってやつだろうけど、あれは確か砂漠でのやつが多かった筈だし、財宝の隠し場所とかに使うやつだから「起動」とやらには合わない気がする。
それでも一応呟いて試してみた。無反応。よし、次!
そもそも所々に過去に滅びた近未来っぽい高度な雰囲気や技術を垣間持つこの謎の場所なら、SF作品のテンプレが合うはず。
しかし残念ながらわたしはSFをあまり好まず、映画やドラマなんかを有名作以外にそれほど多く観ていなかった。
だからこれぞテンプレ! が分からず自信がない。
あ。そういえば休日の朝に流れてた少女向けアニメの……。
「……も……ぉ……ッ!」
試しに大声っぽい小声で呟いてみた。悲しいほどに無反応。
……やっぱり無理だった。
「――――」
こういうのは思いっきりのよさが重要だと聞くしね……。
――よし! 恥ずかしがらずに大声で! ポーズも決めて……!
「め、めたもるふぉおおおおおおぜッッッ!!」
「――――」
なにしてんだあいつ……な視線がビシバシ背中に刺さって痛い。わたしはバッチリ決めていたポーズを何でもない日常のことのように装ってそっと解除した。
おそらく……きっと! 絶対! 同じ系統で他に知ってるのを試しても無反応に終わるという結果は変わらないはず……。
だから他の恥ずかしい変身ポーズや台詞を試すための無駄な気力を賄うよりも、黒歴史となってしまった記憶を即座に封印して次のテンプレを試す努力をわたしは厭わない……!
よく考えなくとも、わたしが管理者で使用者なら毎回小恥ずかしい動作や言葉でないと起動しないような設定になんか絶対しない、ということにやってから気付いたというのもある。
ま、まあ。念のためってやつ……?
「万策尽きた……」
というよりかは意味の無い恥をかいたかもと気付いて精根尽き果てた。
これはよくない。まだまだ試すべきテンプレが、きっとこの後もたくさんあるんだから……!




