ママと冒険者と許可制と罠Ⅸ
キラーん!
「管理者が居ない場合は――」
――ん? 何これ……あ。指輪?
なんか小難しいことをシャルル美少女が言ってて意味がよく分かんないから、とりあえずシャルル美少女には見えているらしい生き生きなコク焼き結界とやらを探すことに集中してみたのだけど、結界を見つける前に明らかに怪しい指輪を見つけてしまった……。
――そうなのだ。わたしにはどこもただの壁としか見えてないけど、シャルル美少女が言うには一部特殊な結界か何かで覆われているらしい。
どれだけそれっぽいのを探してみても、そういえばそもそも結界の見分けとかさっぱりだったし、知識も無いからたぶん見つけてたとしても認識出来てないんだろうね!
とりあえず見つからない結界の焼き加減は置いといて、見つけてしまった何かのアイテムっぽい怪しげな指輪をシャルル美少女に鑑定してもらうのが先だ。
もしかしたらこのピンチでどん詰まりな状況を進められる、ゲームとかでなら絶対持ち物欄から捨てられない系の重要イベントアイテムなのかもしれないし。
……てか私のゲーマー勘がそうに違いないと囁いてるし絶対そうだ!
「――を期待するしか……」
「ねえ、なんか怪しげな指輪拾ったんだけ、ど……?」
というわけで。何かの手がかりになるかもしれない怪しげな指輪を拾ったし、この危機的状況を進めるためシャルル美少女に報告しようと振り返って吃驚した。
まあ正しくはシャルル美少女の吃驚顔に吃驚した、なんだけども……。
「なん、……だとッ!? 何故管理者遺棄の結界を超えられるんだ!」
「えっ……え? 結界超えたの、わたし?」
わ、わかんない。え? ほんとに超えたの!?
こういう状況下の定番であるあるなふわっもビリッも何も、結界らしきものを超えたと分かる感覚は何も感じなかったんだけど……!
ビリリリリリィィィ……ッ!!
「ぐっ……!」
「おおぉ……」
わたしが結界とやらを超えたから自分も行けると安易に判断したのか、こちらへ近付いてこようとしたシャルル美少女はしかし普通に電気っぽい膜みたいなのに進路を阻まれ、残念ながら結界を超えられなかった。
SFバリアっぽい結界が一瞬浮き出て見えたのに思わず感嘆の声を上げてしまったが、超えられなかったシャルル美少女に物凄く睨まれたのですぐさま口を噤んだ。
「な、なんで超えられたんだろうね……?」
わたしを睨んでいたかと思うと急にガンガン結界を猛烈に叩き始めたシャルル美少女にビビったわたしは、平和的な会話を試みることにした。
え、一旦あちら側に戻らないのかって? いやだってなんか怖いし……。
「……考えられる可能性はいくつか思いついた」
「あ、そ、そうなんだ……」
平和的に会話を試みたもののめちゃくちゃ睨まれてたし、そもそもシャルル美少女もさっき分からない的なこと言ってわたしの疑問を結構無視してたから返答は正直あまり期待してなかった。
それがバリアをガンガンビリビリさせ続けながらとはいえ思い当たることがあったのか、睨みながらも話してくれるらしかった。
「ひとつ。お前がこの結界管理者の血族あるいは子孫か」
「違うかな」
だって異世界召喚されてるし。召喚されてからずっと一緒だったママだってここのこと知らないだろうし。
となると他の親類縁者って話になるけど、わたしの親類縁者が異世界に居てかつここの管理者で更に放棄した後とかどんな天文学的確率? って話になるでしょ。最初の前提部分で躓くよ。
「ひとつ。お前が見つけたその指輪に権限付与がされているか」
「うーん。でもそのバリアよりこっち側に落ちてたから関係ないと思う」
「ばりあ……?」
あれ? 結界はあるのにバリアって言葉は無いんだ。
不思議……でもないか。
そもそもずっと異世界翻訳チートにおまかせにしっぱなしで、全部が同じ言葉に聞こえてるし。
言葉が何も分からないよりは断然良いだろうけど、もしかして後々この世界の言語の違いとかが分からなくて困ったりとかしないのかな?
「まあいい。なら最後の可能性だ。……最も可能性が低いと思ったんだが、稀に存在するという奇跡的に特約結界との相性が一致した適合者なのかもしれない」
「適合者……」
おお、それっぽい。わたしとしては他の二つよりもよほど有り得る。
でもそうなると問題は――。
「……この先をお前ひとりで進んで出口を探すしかない。そうすれば救援を――」
「無理無理無理だからッ!!」
こんな危険なのかどうかすらよく分からない状況で能天気にいられたのは、ひとえにシャルル美少女という存在があってこそなのだ。
それを地面に急に吸い込まれて変な場所に辿り着いたってだけでも怖いっていうのに、ひとりでこの先を探索しろとか普通に怖いし無理だから!
もしここが地球のどこかだったなら、未発見古代遺跡で古代文明の敵や失敗した時の致死率高いギミックを云々とか、地下奥深くに隠されていた秘密研究所でウィルス変異体が暴走して云々とかいう映画の見過ぎな恐怖に駆られつつも望みを賭けて探索を進めたかもしれない。
でもここ、異世界だから!
もし実はここが裏ボスとか出る激レア隠しダンジョンでしたーとかだったらどうするの!? 戦闘力皆無で何も出来ず普通に死ぬから、わたし!
そうでなくともここにある特殊な結界とかですらも見破れなかったんだから、たとえこの先をひとりで探索しても絶対何も見つけられないだろうという無駄な自信まであるよ!
「じゃあお互いここで野垂れ死にするしかないな」
「そんなぁ……!」
……四六時中近くに居て鬱陶しいと思っててごめんね、ミハエルパパ。
護衛という有難みが今になって嫌ってほど身に染みてる……!
この際誰でも良いよ! 誰でも良いからお願いたすけて――!




