ママと冒険者と許可制と罠Ⅲ
「まあ! そうなんですか。レオン凄いわぁ」
「いや、それほどじゃない。この国では――」
いつもよりワントーンは高めな声音で腕を絡ませたまま前を歩くうきうきなママと、一応は調子を取り戻したのか最初より砕けた感じで楽しく会話しつつ街中のおすすめスポットを案内してくれるレオンハルトさん。
それをきょろきょろと周囲を物珍しく観察しつつも後追いするわたしと、あれからすぐに灰になったままずっと虚空を見つめてて、こいつちゃんと護衛してくれてるんだろうか……と不安しかないミハエルパパ。
あれからなんとか無事? に四人でお城から外の街に出ることは出来たんだけど……。
「ねえ、ミハエルパパ。あの建物って何があるの?」
「はい……」
「なんか凄く賑わってるけど、なんかのお店なの?」
「はい……」
「ちょっとだけ、ひとりで見に行ってもいいかな」
「は、……いけません!」
「だめかぁ」
ちぇ、今ならいけると思ったのになぁ。
まあ冗談はさておき。さすがにミハエルパパが可哀想な気がするので、ママに関してのお得情報をお伝えしようと思う。
「あのね。ママってハリウッドスターが好きなんだ」
「……はりうっどすたあ?」
「つまり、ああいう彫刻にしたら映えそうな系統の見た目の人を見てるのが好きってこと。だから男としてどうとかじゃなくて、ただのファンみたいな感じというか……」
「ふぁん? とは……」
「別にあの人と恋愛や結婚がしたいから迫ってるとかじゃなくて、近くで鑑賞していたいだけというか……もはや芸術? を愛でたいみたいな感じだから」
「芸術……」
その点、ミハエルパパは絶妙な境にある容姿だから、レオンハルトさんよりは恋愛的な意味ならよほどママと上手くいけるとは思うけどね。そこまでは教えないけど。
「なんだ。ミア様はあそこに行きたいのか?」
と、こそこそ話していたこちらを気遣ったのか、レオンハルトさんが気を利かせて話を振ってくれた。この人がお父さんなら、ミハエルパパよりよほど融通が利きそうだな、とちょっとぐらっとする。
いやいやいや、いくらなんでもわたしが勝手に決めることじゃない。ミハエルパパの件は仕方なかった部分はあるけど、一番はママの気持ちなんだから。
「行っていいんですか? なんか、ガラ悪そうな人もいるんですけど……」
と言いつつ、行って良いなら行ってみたい。
だってわたしが気になって見ていた場所にはなんと! 女性らしき人がそこそこいるのだ。
――そう! 女性!
召喚されてこの方、お城ではあまりに男しか見ないからもしかしてこの世界の男女比率がヤバくて、だからわたしを聖姫とかいう聖女ポジで召喚して逆ハー築けとかいうとち狂ったお願いしてるのかと予想していたのだ。
だってやたらと男性に世話させようとしてきたり、何かと偶然を装って近くをうろうろされたり、果ては裏で不法侵入されかけてたりとか。
女性が少ない世界だとしたら、逆ハーとかそういう設定は当たり前みたいなところあるし。存亡の危機とまでいかなくとも、聖姫の子孫なら女の子産みやすいとかいう設定があるのかもしれないし、と。
それならまあ召喚理由とか男しか見かけないことにも説明がつくと勝手に推測して納得してたんだけどね。まさかお城を出たすぐ後に結構頻繁に普通に出歩いてる女性をいっぱい見掛けて、別にそういう感じじゃないってなるとは思わなかった。
……あれ? そうなると別に人類滅亡の危機とかでもないのにただただ逆ハー築けとかいうとち狂ったお願いされてることになんの? わたし。
「大丈夫だ」
大丈夫じゃない。普通に大丈夫じゃないんですけど!
「俺はこれでも冒険者としては最高ランクだからな。手を出す奴はいない」
あ、そっちか。びっくりした……。
「ちょっかい出す奴がいても俺が追っ払ってやるから安心してくれ」
「お、お父さんっ……!」
な、なんて頼りになるんだ……!
後光が差してるよ! バックの太陽光がいい感じだよ!
「頼りにしてます! 是非うちの父になってください!」
「お、おう……なんか知らんが、俺に任せとけ!」
にかっ! と男らしい笑みで請け負ってくれたレオンお父さん(未定)の頼もしさによろっとママへ駆け寄った。
「ママ! わたしレオンお父さんみたいなお父さんならいい!」
「分かったわ」
こくり、と何故かすぐ了承しちゃったママに後は託してわたしは満足な顔で振り返ってピシッ! と固まった。
「――ミア? どういうことですか?」
「あ、あはは、ごめん。ミハエルパパ」
お父さん(仮)を口説き始めちゃったママを背後に、びゅるびゅると冷たい風がわたしとミハエルパパの間に吹きすさぶりまくっていた。




