ママと冒険者と許可制と罠
ミハエルパパは予想していた以上に役立った。
あれほど事あるごとに押し寄せて来ていた有象無象の美形が、ミハエルパパがママとの婚約を正式に整えた瞬間にピタリ、とその波動を止めたのだ。
「や~っと落ち着ける……」
「そうねぇ」
たぶん、召喚されてからもう一週間くらい?
色々濃厚過ぎて一か月くらいは経った心地になるけども。
ぱらり。
「テンプレとはいえ、ミハエルパパが準王子だったって知ってびっくりしたよね」
「そうねぇ」
ぱらり。
「水回りの謎文化以外、思ったより文明進んでて不便なく生活出来て良かったよね」
「そうねぇ」
ぱらり。
「……そういえばまだ外出てなかったよね」
「そうねぇ」
ぱたん。
「……外、出られる?」
「それは……」
情報収集の為に読んでた絵本――テンプレご都合主義っぽく言語チートがちゃんと機能してるらしい――を閉じて、ちゃっかり背後に控えていたミハエルパパに尋ねたものの普通に難色をしめされてしまった。
なんとなくそんな気はしていたが、護衛としての判断なのかは怪しいがあまりわたしを外へは連れ出したくないらしい。
ミハエルパパ、ママとの件で暴走していたらしいけど、普段は公私混同しない生真面目タイプらしいのだ。
娘としては母の交際相手として好感は持てるが、ゆるゆる母の娘だからこそこういう真面目タイプは実にやりにくいという矛盾がわたしを襲っていた。
まあ自分から積極的に母との交際を勝手に認めたんだし、将来のパパになるのに大事な収入源であるお仕事を邪魔するのは本意ではない。
仕方ないか、――と諦めかけた時。
「そうね。ミハエル、お願い出来る?」
「はい、もちろんですよミユキ」
「やい」
思わず下手に絡んで来た下っ端ヤンキーみたいなツッコミと共にジト目をミハエルパパに送ってしまった。
目を逸らされた。もう公私混同しないんじゃなかったんかい! もっと真面目にお仕事しろ! パパではなく護衛というお仕事を!
サッと母が優雅に紅茶を飲んでいた片手を上げてミハエルパパに指示を出した。それだけで先程の態度が嘘のように了承されたのだ。解せぬ。
最重要護衛対象らしいわたしではなく、ママとの間に完全なる上下関係のようなものが構築されている節があるのはもう気にするだけ無駄な気がしてるのでスルー。
ミハエルパパ、わたしと! ママの護衛じゃないの? とか。
わたしが! お願いした時は絶対無理ですって顔してたのに、とか。
もうこれ以上ツッコんではいけない。藪蛇になってじゃあやっぱダメですってミハエルパパがお仕事に目覚めてしまって、せっかくのチャンスを無駄にしてしまったらことだ。
ここはぐっと堪えてスルーすべきなのだ。
「ねえママ、ミハエルパパって元王子様の準王子でお坊ちゃん育ちらしいし、外を案内する人は別で頼もうよ」
「いいわねぇ」
「でしょ? それに護衛のお仕事を邪魔しちゃ悪いもんね」
「そうね。ミハエル、頼める?」
「か、かしこまりました……」
もしかしたらあわよくばママとのデート! とか思ってた?
ざああんねんでしたぁ!!
ミハエルパパの愕然とした顔に、ちょっとだけスッキリした。
今回の作者イチオシパワーワード大賞。
「有象無象の美形」
一回だけなら押し寄せられてみたい。




