ゴブリンの住処へ
「え? この辺りに魔物が?」
「はい……」
早朝。
次はどのようなことをしようか考えていると、リーンがぼそりとつぶやいた。
どうやらこの辺りには魔物が多く出現するらしい。
「変だな。……効果が切れたのか?」
「効果、ですか?」
「いや、気にしなくてもいい」
前世、まあざっと千年くらい前は魔物なんて出現しなかったんだけど。
しかし千年もあれば環境は変わる。
当然と言えば当然。
けれど、大事な資材があるから魔物除去のスキルを展開していたはずだけどなぁ。
ともあれ、どんな魔物かは知らないが領民が危険に晒されているのには変わりない。
早急に対応しなければ。
「《地図作成》《魔物把握》」
俺は机に手をついて、二つのスキルを発動する。
前者はここ周辺の地図を生成するもの。
後者は地図に魔物の位置を浮かべる物だ。
限定的なスキルではあるが、意外と役に立つ。
「うわっ。すごいです!」
「関心している暇はないぞ。……こりゃ酷いな」
千年前と地形はさして変わっていないが、魔物の量は圧倒的だ。
いくつもの赤い点がここ周辺に浮かび上がっている。
特に南西。この辺りに無数の赤い点が浮かび上がっていた。
タップすると、魔物の情報が映し出される。
「ゴブリンの群れか。これまた面倒な魔物だな。ちなみにゴブリンの襲撃は覚えている限り何回あった?」
「えっと……少なくとも十回以上は……」
「犠牲者は?」
「男の人たちが武器を持って対応しているので大きな被害は出ていないのですが……怪我人は出ています」
「だろうな。ゴブリン単体は弱いが、彼らは無駄に知能があるから団体戦術に長けている。こんな群れが近くに潜んでいるとなると、夜も眠れないだろう。実際、夜間の襲撃が多かったんじゃないか」
尋ねると、リーンはこくりと頷く。
「そうですね……。でもすごいです。これだけの情報で、よくここまで分かりましたね」
「そりゃな。ある程度は分かる」
そう言って、俺は腰を上げて寝ているルーシャを起こしに行く。
あいつは早寝遅起きが習慣になっているようで、俺が起きても微動だにしない。
というか、未だに俺の隣で寝ている。
リーンは別に用意した部屋で満足してくれたが、ルーシャは俺じゃないと嫌らしい。
強い者の近くにいるのが一番安心するのだとか。
ママの教育が間違っているわけではないが……人間の俺には少し刺激的すぎる。
「ルーシャ。起きろー」
「ぐー……ママ、妾アルンと結婚する……!」
この娘……脳内お花畑にも程があるだろ……。
「アルン様。こういう時はですね、耳元でこう囁くといいですよ!」
「ん? なんだなんだ」
リーンが耳元でごにょごにょと呟く。
……おい、本当に効果があるんだろうな。
少し、というかめちゃくちゃ恥ずかしい言葉の羅列を聞かされた。
「やっぱり俺一人でいいかな。女の子を連れてってなにかあっても困るし……」
「せっかくなので言ってみてくださいよー。ほら、ルーシャさんがいた方が間違いなく捗りますし!」
「む……確かにそうだが」
「ほらほら。ものは試しです!」
無理やり背中を押され、俺はルーシャの耳元に顔を寄せることになる。
むむむ。本当に言うのか?
「……結婚式始まるぞ」
「本当!?」
うわ。本当に飛び起きた。
周囲をキョロキョロ見ながら、嬉々とした表情を浮かべている。
「あ、あれ? アルンとの結婚式は?」
「数千年先に予約しておいた。よし、とりあえずルーシャも起きたし向かうか」
「数千年って……! 乙女を騙したなー!」
「起きないお前が悪い。ほら、さっさと行くぞ」
ルーシャも起きたところで、俺は踵を返す。
後ろの方からブーイングが飛んできているが知らん。
◆
転移スキルを駆使して南西。ゴブリンが住まう森へと移動した。
少し冷静になり、ルーシャはまだしもリーンを連れてきたのは間違いだったのではないかと思う。
すぐに転移スキルで戻してあげようとしたのだが、
「これでも戦えますから!」
と、突っぱねられてしまった。
最初こそ疑ったが、実際戦えるのは嘘ではないらしい。
近くにいたスライムめがけて、スカートの下からナイフを取り出して投擲。
見事に命中して討伐していた。
「あそこで生きていくにはこれくらいできないとですから!」
「ほう……」
病弱だと思っていたが意外にも動けるらしい。
しかし、そこまでバート領が危機に瀕していたとは……。
ともあれ。
「ここがゴブリンの住処だな」
眼の前に洞窟がある。
持っている地図を見る限り、ここがゴブリンの拠点のようだ。
「さて、攻略開始だ」
「終わったら結婚式ー!」
「やりますか!」
ここまで読んで下さりありがとうございます!
読者の皆様にお願いです。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださった方はぜひ☆☆☆☆☆を★★★★★に染めていただけると嬉しいです。
皆様の力を貸していただけると嬉しいです。励みにもなりますので、ぜひお願いします!




