第56話「忠告の意味」
間違えて先に57話を投稿していたため、慌ててこの本文を割り込み投稿いたしました。
本当に申し訳ございませんでした。
「ひっ!? 首! 僕の首!!」
跳ね上がるように起き上がったコーディが悲鳴を上げながら己の首が繋がっているかを手で触る。そのまま何度も触って、何も問題もないことを無事に確認できたコーディが安堵のため息を吐き出した。
「ダンジョンボスにやられちまったのか?」
「……あの魔族め」
毛布を差し出しながらも、先にダンジョン内で死亡したオドラクが驚いた表情を浮かべる。
それはつまりオドラク以外の3人が気づかなかった――その魔族がダンジョンボスであるという――事実に気付いた瞬間でもあるのだが、現在の状況としてはそれは大して重要な話ではない。
「人数分の毛布を用意しておいて正解だったぜ……最初にコーディが戻ってきたってことは――」
「――ああ。おそらくシャノンとマドリンも死に戻りすることになるだろうね」
「……くそっ、次はしっかりとリベンジしてやるぜ」
意気込むオドラクだったが、すぐさまコーディの隣から生まれた光に気付いて、慌てて毛布の準備をするオドラク。
「っ」
ダンジョンでの死に戻りという初めての経験。それに目を何度も瞬かせているマドリンへと毛布を投げつけた。マドリンもまたその毛布で自分の状況を思い出したのだろう。悔し気に肩を震わせて「次は殺す」と小さい声を落とした。
「ああ、やってやろうぜ!」
「……うん」
オドラクとマドリンが顔を見合わせて頷き合う最中に、最後の一人。シャノンが同じく復活を果たす。
「~~~! あの役立たず! 最後まで役に立たないなんて! おかげで私の美しい装備品が! 本当に! あの役立たず!!」
余程怒り心頭だったらしく、全裸のままで地面に足を叩きつける。
普段の様子とはかけ離れているその様子に、オドラクが頬をひきつらせつつ毛布を投げる。
「っ……ありがとう」
それからやっと自分の醜態に気付き、毛布で体を包みながら地面へと腰を下ろした。
「あのアイスウルフが戻ってきたらお仕置きするとして、私の魔物たちが戻ってきたらもう一度行くわ。今度は魔術具や装備品を最高のもので揃えて」
赤い顔をして冷静さを取り繕う彼女の言葉にオドラクとマドリンが同意する。
「そうだぜ、王国認定の冒険者の俺たちが本気を出したらどうなるかをこのダンジョンの奴らに見せてやるぜ」
「当然」
「……」
3人の仲間の言葉に、だがリーダーであるコーディアが首を横に振る。
「いや、撤退しよう」
「……」
「……」
「……」
一瞬の沈黙の後、3人が一斉に反応。
「は!?」
「え!?」
「……意味が分からない」
順番にオドラク、シャノン、マドリン。
それぞれが目を見開いた。
「どういうことかしら!?」
掴みかからんばかりの勢いで詰め寄るシャノンに対して、コーディは冷静な表情を保ったままで答える。
「今の僕たちではあのダンジョンには勝てない……一度立て直して準備をするべきだ」
「っ」
正論だ。
正論ではあるが、それを認めたくはない3人が顔を俯かせる。
彼らの会話は冒険者としては当たり前のそれだろう。
死なないダンジョンでもう一度挑む。しかもまだまだ様々な魔術具などを備えているならばもう一度挑みたいという気持ちは当然。
逆にコーディの言う通りに勝てないと感じで一度諦めるという気持ちもまた当然。
冒険者としての彼らの会話は当然のものだが、彼らは理解していない。
このグリーンダンジョンにいるダンジョンボス。元魔王であるテンマ。その娘としてダンジョンにいるクィーンアントのアンコを使役しようとした代償を、その上でテンマの『消す』という脅しを軽く見た結果を。
つまり――
「撤退するべきだ」
「いいえ、私たちが装備と魔術具を用意すれば簡単に突破できるはずよ」
「俺もそう思うぜ」
「私も」
「あの魔族の魔力を感じたシャノンとマドリンなら理解できるだろう」
「その上で言っているわ」
「このまま負けを認めるなんて嫌」
――テンマがダンジョンに縛られる存在ではないということを。
「まだそこにいたのか」
「っ!?」
「あなた!」
「さっきの魔族」
「……おいおい、ボスなんだろ?」
四者四様の反応中、テンマがそこに現れた。
「我は言ったはずだ。もしもアンコ……いや、クィーンアントを奪おうとするならば――」
いつの間にかそこにいたテンマが表情を一切変えずにコーディとシャノン、マドリンの3人へと視線を滑らせて再度、シャノンへと視線を送る。もはや睥睨といってもいいほどのその視線に「ひ」とシャノンが後退りをする。
「――消す」
ここはダンジョンの中ではない。
死ねば終わる。
そしてそれを本能から理解した3人は一斉にテンマから背を向けて駆け出す。
死から少しでも早く逃れたいというその行為に、だがテンマの殺気を向けられることのなかったオドラクは「変身 クリスタルゴーレム!」と対峙することを選んだ。
が。
「貴様に用はない」
第6位階。
対物理、対魔術。共に耐久力に関しては魔物の中でも最高位を誇るそのゴーレムも、テンマの手にかかれば関係がない。
ただ一突きの貫手でその腹を貫いた。
「う、そ……だ……ろ」
崩れ落ちるオドラクには目もくれず、すぐさま逃げていく3人を追いかける。
「来るな! 来るな!」
「出なさい! ゴルド、シルバ! アバタイトゴーレム!」
「魔力ポーション! 設営地にまで逃げたらある!」
各々が必死になる中、シャノンの魔物たちが壁となってテンマへと襲い掛かる。
第5位階の魔物たちが一斉に殺到するという、一人で相手をするには本来ならば恐怖でしかないその状況にあって、やはりテンマからすれば関係がない。もちろん、少なくとも時間稼ぎにはなるだろうというシャノンの目算も関係がない。
その魔物たちへ、テンマはほんの少しの苛立ちを込めて睨みつける。
「殺されたいなら来るが良い」
ただ、一言。
ただそれだけで心から服従させられている第5位階の魔物たちが本能からの恐怖によって縛られることとなった。
「あなたたち! 動きなさい! なにをやっているの!?」
遠ざかりながらもそれを叱咤するシャノンの言葉を受けても尚動くことのできない魔物たちの横を、テンマはすり抜けて足に力を込めた。一瞬で距離を潰して彼らの前に立ちはだかったテンマがここに来て笑みを浮かべる。
その笑みは残酷で、冷酷で、そして3人からすれば恐怖のそれ。
「安心するが良い。すぐに貴様らは死を懇願する」
テンマの拳が3人の腹を殴りつける。
順番に殴りつけられる彼らだがその動きの早さに全く対応出来ずに地に伏すことになった。
「うう」
「いっ……たぃ」
「……っ」
それぞれの声で呻く彼らに、テンマはその酷薄な笑みを張り付けたままで「さぁ、ここからが本番だ」と彼らの前で大地に拳を突き刺した。
「……は?」
「ひ!」
「なに」
それぞれが頭を残して地に埋もれる。頭以外の一切を動くことを許されなくなった3人が青い顔のままで悲鳴をあげる。
「さて、もう一度。我の忠告を無視した貴様らに伝えよう」
「な、なにを?」
コーディの問いに、テンマは何よりも残酷な言葉を返す。
「貴様らがアンコへとした行為を貴様らにやり返したうえで……この世界から消す」
「私たちは勇者よ! ……そんなことをしてどうなるのかわかっているの!?」
「無知」
狼狽える冒険者たちの発言の一切を聞かず、告げる。
「貴様らの腕をもぎ、足をもぎ、そして毛をむしり、舌を抜き……貴様らが死にたいと願う最後まで貴様らを甚振り続け、そして最後に殺す」
「ひ」
「やめて」
「……来ないで」
死なないダンジョン、世間からは初心者向けと言われているグリーンダンジョンに挑んだ王国認定冒険者である勇者パーティ。
「さて、いつ死にたいと思うか。我と遊ぼうではないか」
その内の3人が姿を消すこととなる。
「ぎゃああああああ!」




