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第4話「ダンジョンを知ろう」



「見事に何もないな」


 周囲を見回して、その殺風景すぎる景色に思わず声に出してしまう。


 冒険者を追い払って一夜が明けた。久しぶりに睡眠という欲求を満たしたせいか妙に清々しい一日を迎えることが出来たため、ふと気になってダンジョンの外に出てみたのだが本当に何もない。


 魔物すらあまりおらず近くでキャンプをしている人族が数人いる程度。


 魔力で眼を強化して周囲を見回してやっと人族の村や都市が見つかるぐらいだ。馬や獣系の魔物に乗ったとしても数日ではたどり着けないであろう距離のため、ついでで通る時ぐらいでしか本当にここに来る意味がない。しかもダンジョンに入って得られる素材が冒険者なら初心でも簡単に揃えられそうな棒切ればかり。


「確かにこれなら収入よりも支出の方が大きそうだ。昨日のような楽しみ方を目的とした冒険者ぐらいしか来ないことも頷けるな」


 後ろを振り返れば何もない草原の中、ポツンとそびえる大きな洞窟の入り口。ダンジョンマスターであるハイゴブリンが作成したダンジョン。


 はっきりと明言してしまえばこのダンジョンには弱者しかいない。それも戦いの研鑽を積んでいないような冒険者ですら武器や防具がそろっていればある程度進めるようなダンジョンだ。

 以前の時代ではダンジョンで最も有名だったのは洞穴から岩や土を削って地下深くに巣を作っていたクィーンアントの洞穴だったのだが、本当に時代は変わったものだと痛感する。


「だがまぁ楽しみだ」


 目が覚めて退屈をするかと思っていたが、昨日のダンジョンシステムなるものの話を聞けば存外にそんなことはなかった。


 まず500年も経過しているということが悪くない。

 単純に500年で世界がどう変わったかも少しだが興味がある。さらにいうなれば、もしかしたら我を封じた3勇者にも劣らない者たちがいるかもしれないという期待が出来る……こちらに関しては流石に期待薄であることは理解しているが。

 それから、もう一点。


「ハイゴブリンが死ねば我も死ぬ、か」


 これが面白い。


 ダンジョンのルールには不殺設定があるらしいがそれはダンジョンボスやダンジョンマスターには適用されないらしく、ダンジョンマスターが死ねばそのダンジョン魔物は例外なく死んでしまう。そうなれば当然だが我も死ぬことになる。ハイゴブリンの敗北が我の死につながり、つまりはハイゴブリンの敗北は我の敗北でもあるわけだ。


「いや、実に愉快」


 自分以外の命に興味を持たねばならぬ日が来るとは。

 それが守る価値もないようなマスターなら好き勝手にしただろうが、昨日のハイゴブリンの精神は好感がもてるものだったためシステム通りに動く気になっている。


 無論、強制的にシステムに取り込まれたこと自体は神に対して思うところもあるが、それは後々に直接会いに行けばいい。どうせ奴らは神域に住んでいるのだからいつでも行ける。

 今はそれよりもこの遊戯を楽しもう……とはいえ楽しむための要素が現状ではまだまだ足りていない。そのためにも――


「――まずはもう少し詳しい現状を聞かねばならんな」


 そもそも、なぜこのダンジョンはこれほどまでに弱いのか。冒険者から人気がないのか。

 ゴブリンという種族は確かに弱く、重宝されるような素材にもならないが、生まれた時からなんらかの武器を持たされ、本能としてそれを大事に生きる。位階が上がり、進化するときには彼らの武器も進化するという少し面白い種族だ。


 つまり位階の高いゴブリンの武器は人族から見ても十分に珍しい素材となりうる。にも拘わらずこの現状であるということはおそらくは大きな問題を抱えているのだろう。


「こればかりはあのハイゴブリンに聞かねばわからんが、折角だ。ダンジョンを見て回るとするか」 


 久しぶりの外は気持ち良いが、何もない大草原で風情を感じられるほどの情緒は持ち合わせていない。


「む」 


 出るときに神域に入る時のような障壁があったため殴り壊して外へと出たのだが入る時はそういった障壁は存在しないらしく、すんなりと入ることが出来た。


「まずは散歩がてらといったところだな」


 神から始まったダンジョンシステムのダンジョン。その第一階層に少しだが足が弾む。 

 ……という上機嫌は1階層に踏み入れてから長くは続かなかった。


「ギャ! ギャッ!」

「ギョギョ?」

「ギャーギョー」

「……何を言っているか全くわからん」


 というかこいつらは何をしている?

 お互いのこん棒や木剣を投げてただひたすらに遊んでいるように見える。

 一応は我がボスだという認識はあるらしく、横を通り過ぎると手を振られる。なんとも友好的で、手を振り返すと、すぐにまた遊びに興じだしている。


「ふむ、もう終わりか」


 1階層は部屋が5つ。1部屋1部屋は広く、魔王城の訓練場を彷彿とさせる。すべて一直線につながっていて、特に迷う心配も全くない。このフロアの魔物の数は全部で数十体。全員がグリーンゴブリンというゴブリン系でも最弱種のみの構成。


 また全員が部屋にいるわけではなく、つながっている廊下にもちらほらとその姿があった。廊下にいたゴブリンは笑顔を浮かべながら足の速さを競っているようなことをしたりと、ゴブリンたちの動きに統一性は全くない。


 これまで冒険者を仕留めることに成功した試しがないとハイゴブリンから聞いていたが、それでもこんなにもこやつらが楽観的に遊んでいるのはおそらくは滅多に冒険者が来ないことも起因しているのだろう。


 一直線でこの5部屋をつないであるこの構造とダンジョンの外観だと明らかに大きさの矛盾が発生しているのだが、そこは神のダンジョンシステムということで空間をいじってあるのだろう。外観から内部構造を察知されないための工夫といったところだろうか。


「……む?」


 この調子で階段を降りていくといつの間にか6階層まで来ていたのだが、5階層までとは生息しているダンジョン魔物が変わった。


 グリーンゴブリンがいなくなり、その上位種である戦士系のレッドゴブリンに魔術系のブルーゴブリン、それと僧侶系のホワイトゴブリン。この3種で構成されるようになった。

 また部屋数も違っており、6階層から10層までは10部屋で構成されている。すべての部屋が一直線でつながっていることと相変わらずゴブリンたちが遊び惚けているという点は相変わらずといえるのだが。


 10層の最後の部屋に至るまでの廊下、一人だけ木剣を振り回しているレッドゴブリンの横を通り抜けてそのまま進み続けると両開きの扉に突き当たることとなった。


「……ここが最後の部屋、ということか」


 開けて中に入るとここには誰もいない。

 最後の部屋……つまりはダンジョンボスである我とダンジョンマスターであるハイゴブリンが冒険者を待ち構える部屋ということだ。


 冒険者がダンジョンを突き進み、最後の命がけの戦いに挑む。

 勇者たちが我が魔王城の玉座にまでたどり着いたときと似たような感覚。


「浪漫というわけだな……悪くない」


 演出としては嫌いではない。いつか現れるかもしれない強者に思いを馳せるが、これまでの実績とダンジョンをざっと見てきたことから、このままで強者が来ることなどありえない。


 我とハイゴブリンのみが知覚できる扉を開ける。

 ボス部屋からさらに奥に進んでいく。向かう先はもちろんハイゴブリンのいるマスタールームだ。



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