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第46話「王国認定冒険者」


「おい、首狩りが突破できなかったって聞いたぞ」

「俺もだ!」

「ああ、俺はあいつらが装備品を失ったまんまでギルドマスターの部屋に入っていったのを見たぞ!」

「ってことは本当にグリーンに異変が起こってるってのか?」

「ゴブリンの位階が上がるとしたら何が手に入るっけ」

「銅や鋼の武器、それに魔術装備ってところか」

「おいおい、こりゃ行ってみる価値あるんじゃねぇの?」

「浅層もゴブリンの位階が上がってるって話だ、その辺でキリを付けて帰れば死ぬこともねぇだろ」

「こりゃマリージョアに拠点を置いておいて正解だったか?」

「しかしグリーンダンジョンがなぁ」


 港都市マリージョアの冒険者ギルドが騒然としていた。

 ゴールド級冒険者のオリヴィエがグリーンで死んだという話が冒険者中に広がっているからだ。

 港都市マリージョアの冒険者のほとんどはブロンズ級以下の冒険者で構成されており、それはつまり今ギルドで酒を飲みながら騒いでいる彼らではグリーンダンジョンを突破することが出来ないことを意味している。


「けどよ、グリーンダンジョンはどうなるんだ?」


 誰かの発した言葉で一斉に静かになった。これまでは見習い冒険者に適しているとして保護対象だったグリーンダンジョンだが、その実情が変わった以上それもまた変わる可能性もある。


「それは首狩りの報告しだいだろ」

「……こうしゃちゃいられねぇ! 俺は今のうちに行ってくるぜ! 丁度鋼の武器が欲しかったところなんだ」

「俺が行くぜ!」

「いや、俺だ!」

「どうせ死なねぇんだ、俺が行く!」


 冒険者たちが続々と立ち上がり、準備の為かギルドから出ていく。


「さて、どうなるんかね」


 急に静かにになったギルドの酒場で、ただ一人取り残されたスキンヘッドの冒険者、ザッカスが小さく息を吐き出して次の注文を取り付けようとしたところで「おいおい、ザッカスじゃねぇか!」とどこか楽しそうな声が上がり、ザッカスの視線がその声へと自然と向かう。


「あ?」


 視線の先の4人の冒険者に、ザッカスは不快さを隠そうともしない声色で反応。


「なんでお前らがこんなとこに?」

「君たち都市に近いダンジョンに異変があったというてことだろう? 雑魚の君たちではどうにもならないからという話で僕たちが来てやってるんだ」

「ほんっと、雑魚しかいないギルドは罪ね。勇者であり王国唯一の認定冒険者である私たちの手を煩わせるなんて」

「……こんな田舎まで最悪」

「海が近いな。女でも引っかけられそうな点は悪くねぇぜ!」


 口々に好き勝手なことを言う4人の冒険者。

 口を開いた者から順番に、コーディ、シャノン、マダリン、オドラク。その4人。

 シャノンが言った通り、彼らは勇者の子孫であり唯一王国からの命令でのみ依頼を受ける冒険者たちでもある。


「ああ。そういやギルドマスターが異変調査に関して本部や国とやり取りしてるって言ってたか。そいつは遠いところからご苦労さん」


 こちらは慇懃無礼といった口調で酒を飲むザッカスだったが「うおっ!?」と、いつの間にか目の前に現れていたコーディによって胸倉をつかまれていた。


「おいおい、ザッカス。君はいつから酒を飲みながら僕たちに話しかけるほど偉くなったんだい?」

「っ、ぐ」


 そのまま体ごと持ち上げられ、息も出来ないザッカスをそのまま床へと落としてコーディが言う。


「雑魚は雑魚らしく僕たちには礼を尽くすべきだ。王都で会った時に何度も教えたはずだろう?」

「……っ」

「ほら、謝りなさいよ。雑魚っかす君?」

「ふふ。シャノンは上手なことを言う」

「はっはっはっは! 今のは面白ぇ!」


 彼らは皆が勇者という選ばれし存在で、そしてゴールド級冒険者。それに比べてザッカスは単なるブロンズ級冒険者。冒険者としての地位も名誉も実力も足元にも及ばない。


「……悪かった」


 謝罪として頭を下げたザッカスだったが、コーディはその答えに満足がいかなかったらしい。スキンヘッドを掴みそのまま顔面を床に叩きつけて顔を寄せる。


「え、なんだって? 悪いね、耳が悪くなったようだ。僕に『悪かった』と……そう言ったのかい? もっと正しく言ってくれるかい?」

「……すいませんでした」

「うん。聞こえたよ。じゃあ行こうか、皆」


 ザッカスの頭から手を離してゾロゾロと奥へと歩いていく彼らだったがその最後尾にいたオドラクが唾を、地につけたままでいるザッカスの頭へと吐きかけた。


「あんまり生意気な口は利かない方がいいぜ?」


 ザッカスの耳元で言葉を落として、また歩き出す。ギルドマスターの部屋の扉を明らかに乱暴に開けた音を合図に顔を上げたザッカスが「チッ」と舌打ちをして酒代を机に置いて立ち上がる。


「これだから人間ってのは」


 明らかに苛立ちを見せて冒険ギルドの外へと飛び出したザッカスだったが突然ぶつかってきた衝撃にその足を止めることとなった。一瞬、何が起こったかわからなかった彼だがすぐさま誰かを弾き飛ばしたことに気が付いた。


「っと、すまねぇ。今はギルドに入らねぇ方がいいぞ?」


 ――クソ野郎どもが来てやがる。


 言外の言葉を飲み込んでから手を差し伸べたザッカスだったが、返ってきた言葉は「あ、やっと見つけた!」という謎の言葉。


 ――俺は珍獣か?


 その言葉をギリギリで飲み込んだザッカスが改めて、相手を見つめるとそこには確かにザッカスが見たことのある顔が。


「お前らは確か冒険者になりたての?」

「はい!」


 少し前にも、同様にザッカスが弾き飛ばしてしまった3人の冒険者。

 まだ若い3人の彼らがそこにいた。





 ギルドマスターの部屋ではギルドマスターのテオドニと副ギルドマスターのヨハンが固い顔のままで顔を突き合わせていた。


「1階層から第3階のゴブリンとビッグアント。見た目の特徴から想像するにオーガバーサク。で、極めつけにはクィーンアントか」

「たかだが一か月程度でまた随分と進化しやがったもんだ」

「とりあえず実際にクィーンアントがいるという情報だけでも収穫ではあるけど」

「そーだな。一刻も争う段階になってきやがった……こりゃついに俺とお前の――」


 ――出番じゃねぇのか?


 そう言おうとした時、同時に部屋の扉が開かれた。


「あん?」

「やぁやぁ、僕たちがここまで来たよ!」


 爽やかと言えば爽やかになるのだろうか。そんな笑顔を浮かべながら入ってきた4人の冒険者。

 部屋を乱暴に開けた時点で爽やかさが完全に損なわれているのだが、そんなことはお構いなしに先頭に立っていたコーディが笑顔のままで真っ先に言う。


「僕たち来たからにはもう安心! サクッと問題を解決しようじゃないですか!」

「……」


 そんなコーディの自己紹介に二人が一瞬固まるのだがヨハンが「あ」と呟いた。


「君たち、王国と本部からの?」

「そう。僕たちが唯一の王国認定のコーディパーティです。僕たちがサクッとダンジョンの問題を解決します」

「雑魚しかいない田舎は大変」

「そうだな、報酬もたんまりあるみてぇだし。さっさと行くか!」


 各々の好き勝手な発言にほんの少しだけ頬をひきつらせたヨハンだが、流石に年の功と言ったところだろうか。すぐさま「ならこの資料持って行ってくれるかい? 最新の情報が載ってるから行きがけに見てもらえるといいかな」


「流石、ギルドマスターと副ギルドマスターは優秀と言われるだけあって話がはやいな」

「ええ、あとは報酬を用意して待っておくと良いわ」


 コーディとシャノンの言葉に「お、おう。そうするわ」とヨハン同様にテオドニも頬をひきつらせならが頷く。

 そんな二人の様子に満足したのか、頷いたコーディが「それでは早速行くとしようか。1週間ほど時間をもらうことにするよ」とだけ告げてまた乱暴に扉を開けて部屋を出ていく。パーティの3人もまた同様に出ていき、まるで嵐のようだった彼らがいなくなってからテオドニが一言。


「なんだあのバカどもは」

「……いかにも勇者スキルで調子に乗ってますって感じだったね」


 頷いたヨハンの、少しばかり不安気な言葉がギルドマスターの部屋に落ちたのだった。


お詫び

明日から一週間ほど急すぎる出張が入ってしまいました。急すぎて準備もあまりできておりません。そのため毎日投稿が出来なくなります。一応ストックを使い切れば2日に1話の予約投稿でなんとかなるかなと。

帰宅したらまた毎日投稿に戻る所存です。本当に申し訳ございません。

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