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第43話「オリヴィエパーティ」


「ふっ!」


 鋭い息を吐き出したオリヴィエの剣が足元から迫っていたソルジャーアントの首を刎ねあげ、その場から体を反転。背後から剣を振り下ろそうとしていたゴブリンソードの首を跳ね飛ばした。

 ゴブリンソードはおそらくその死を知覚できなかったのだろう。ゴブリンソードの体は首から上を失って尚、剣を振り下ろすのだがその振り落とす腕を抑えて、横へと剣の軌道を逸らせて地面へと振り下ろさせた。

 そのまま消失していくゴブリンソードには目もくれずに次の気配へと視線を向けたところで、その標的――ゴブリンロッド――は丁度その体にヘリックスから放たれた矢が何本も突き刺さり、その場から消失した。


「……これが1階層か」


 周囲を見回して、敵の気配がなくなったことを確認したオリヴィエが呟く。


「ええ、聞いていた話とは随分違いますね」

「ゴブリン種の位階が上がっていることだけでなく、まさか第1位階とはいえビッグアントがこれほどまでにいるとはな」

「もしかしたら既にいるのかもしれませんね」

「考えたくはないことだが……おそらくはいるだろうな」


 何が、とは言わない。二人とも既に理解しているからだ。

 シアアントがダンジョンにいたという話。そしてゴブリンしかいないはずのダンジョンに大量のアント種。


 ――クィーンアント。


「やれやれ……ダンジョンとダンジョンボスの調査という話だったはずだが、これは討伐案件になってくるかもしれないな」

「追加報酬を請求しないといけませんね」


 本来、国で保護されているダンジョンを冒険者の独断で討伐することは許されていない。だが、そこに魔物の氾濫(スタンピード)の発生源となるであろうクィーンアントが関わってくるとなれば話は別となる。しかもクィーンアントがいるこのダンジョンは不殺のダンジョンだ。いくら討伐しても蘇ってくるとなれば、それを止める手段はただ一つ。

 ダンジョンそのものの討伐だ。

 クィーンアントがいる以上、魔物の氾濫(スタンピード)が起きてもおかしくはなく、わざわざギルドへと報告に戻る間に取り返しのつかない状況に陥りかねない。つまりは一刻でも早く討伐しなければならないため、クィーンアントの討伐という証拠さえあればそれが許されることになる。

 もちろんギルドから一定の信頼を得ており、さらにゴールド級以上の冒険者のみに許された権限もであるのだが、幸いなことにオリヴィエはその権限をもつ冒険者でもあった。


「クィーンアントか……オリヴィエさんは討伐経験ありますか?」


 2階層へと足を踏み入れながらも会話を継続するヘリックスの問いに、同じく応戦しながらオリヴィエが答える。


「い、や? 私も初めてだが第5位階の魔物ならば何度か討伐したことがある。二人がかりならば問題ないだろう」

「流石です、ね! ギガントアロー!」


 オリヴィエの剣がゴブリンハンマーとゴブリンソードの首を飛ばし、ヘリックスの魔力が付与された巨大な矢が横並びになっていたゴブリンロッドとゴブリンタリスの半身を貫いた。

 体を動かしながらも会話を続ける二人。それほどにまだ彼らには余力があるということだろう。

 素直に目を輝かせたヘリックスに対して、オリヴィエは天井から飛ばされたビッグアントの蟻酸を前方へと転がりながら回避。続いて横っ腹から突進してきたビッグアントを一刀で両断した。


「そうでもないだろう。勇者でゴールド級冒険者というのは何とも情けない話だ」


 自嘲めいた言葉を落とすオリヴィエはそのまま反対から忍び寄っていた別のビッグアントの首を飛ばす。


「そんなことないですよ!」

「さて、この部屋は終わりだな」

「はい」


 ヘリックスが天井で再度蟻酸を放とうとしていたビッグアントへと矢を放ち天井に縫い付けてから数本の矢で再度ソルジャーアントの頭を撃ちぬいた。

 部屋の魔物を全て討伐し終えて次の部屋と二人は向かう。

 勇者とは超常の存在だ。

 現在人族領にいる勇者は13人。その内冒険者ギルドに所属している勇者は10人で、ゴールド級冒険者の勇者が6人、白金プラチナ級冒険者勇者が4人となっている。

 その4人と比べて自分はまだまだ未熟という話をしているオリヴィエだが、それに加えて勇者ではないゴールド級冒険者が人族領だけでも20人近くいることがその考えを助長させているともいえる。


 勇者以外の人間ですらゴールド級冒険者になれるのだから勇者という存在にあってゴールド級であることは恥だというオリヴィエの考えに対し、ヘリックスはそう考えていない。

 そもそも白金プラチナ級の4人や勇者以外のゴールド級冒険者は全て壮年から中年と言っても差し支えのない年齢の、いわゆる経験が豊富な者たちだ。まだ25年しか生きていない程度の彼女がそこに至れていないからと言ってそれを悲観する必要はない……のだがそれを本人に言っても本人が納得するはずがないことは数年間一緒に冒険者生活を過ごしたことで理解している。

 彼女のその向上心はいつも上を見ており、現状に満足しようとしない。まるで修行僧のように日々を過ごすオリヴィエだからこそヘリックスは彼女にほれ込み、彼女の全てをサポートするべくあらゆる技能を身に着けてきた。

 そんな彼の想いはオリヴィエには全く伝わっていないが、それでもヘリックスは現状に一種の満足を覚えている。

 淀みなく足を進めていくオリヴィエ達だが、5階層を踏破して次の6階層へと進む手前でその足を止めた。


「次から6階層ですね」

「ああ、大きく変化している可能性があるな」


 シルバー級冒険者のヴァレンスたちの報告段階では細かいダンジョン魔物の位階や数に関しての報告はなかったが、それ以前のグリーンゴブリンは5階層までが第1位階のグリーンゴブリンのみ。6階層からが第2位階のゴブリン種で構成されているダンジョンだった。

 となると、おそらく6階層からのダンジョン魔物もおそらく大きく変化しているだろうという二人の予想は――


「……これは」

「ゴブリンのみ……ですね」


 ――一部屋目に足を踏み入れて、その予想が下方に的中したことを知った。


 第6階層からはアント種がおらず、ゴブリンだけという従来のグリーンダンジョンのような魔物の種類構成。

 数は4体で、位階は第3位階のゴブリン種のみ。

 5階層までと比べて、単純にアント種がいない分難易度がぐっと下がることになる。


「どういうことだ? ダンジョンといえば深層に潜れば潜るほど魔物の位階が上がるはずだが」

「そうですね、僕もそう思っていました」


 困惑顔のままでゴブリンたちを一掃していく二人だが、一部屋目に魔物の気配が消えたところで「そうか」とヘリックスが声をあげた。


「どうした?」

「これまでの報告からダンジョン魔物の位階にばかり気を取られていましたが、もしかしたらダンジョン魔物だけでなくダンジョンそのものに強化が入っているのかもしれませんね」

「現在は階層が深くなる過程にある段階と?」

「ええ。途中段階のせいで魔物の配置がそれに追いついていないと考えるとしっくりきませんか?」

「……なるほど、たしかに」


 実際のところはゴブノスケとテンマによる将来性を見込んでのあえての配置ではあるのだが、流石にそこまでの推察は不可能。ただ実情としてダンジョンが深くなる過程であることには違いなく、この辺りを察するあたりは流石にギルドから認められている冒険者であると言えるだろう。


「となると10階層では済まない可能性が大きいな」

「僕もそう思います。シアアントがクィーンアントになっている可能性といい、なるほど。あのヨハンさんがオリヴィエさんに依頼をするわけですね」

「……とはいえ私たちのやることは変わらない。まっすぐに進もう」

「はい」


 これらの会話の間にもゴブリンたちを討伐していく。

 その足を一切止めずに視線で頷き合い、歩みを進めていく彼女たちの表情には戸惑いが。だが、彼女たちの足取りに淀みは一切見えない。



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