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第42話「ダンジョン三日会わざれば」

 

 グリーンダンジョンが日々成長を遂げていく中、ダンジョンの異変の噂を聞きつけてやってきた3人の冒険者たちがいた。彼らはまだストーン級の冒険者であり、全員が男で構成されている、自称最もノリにのっているパーティ。


「リーダー、本当に大丈夫だよな」

「ばーか、何を心配してるんだ」

「そうだぞ、ダンジョンの異変ったってどうせ元はグリーンゴブリンにレッドゴブリンだろ?」

「別に深くまで潜る必要もないし、ブルーゴブリンやホワイトゴブリンの魔術装備をゲットしたいって言ってたのはお前だろ?」

「そうなんだけどよぉ」


 ぽっかりと開いた洞窟を前にして今更躊躇している杖を持った男に、先ほどリーダーと呼ばれた――剣や盾、防具で身を固めた――男が「やれやれ」と呟く。


「お前の悪い癖だぞ、俺たちみたいな金のないパーティが魔力が込められている装備を得るにはこれが一番はやいって話はしただろ。別に今このダンジョンに潜ることを禁止されているわけでもなんだから何も問題はないんだ」

「それに、命まで失うわけではない。最悪装備品を全て失うだけだ」

「……」


 なおも渋る気配を見せていた杖を持った男だったが、最後に軽装のでを腰に何本も差している男の言葉で顔を上げる。

 現在、グリーンダンジョンは港都市マリージョアで異変注意という状況が伝えられておりシルバー級冒険者以上の立ち入りを推奨されている。が、あくまでも推奨というだけでスチール級よりも等級が低い冒険者が立ち入ってはいけないというわけではない。入った時にダンジョンがどうなっていたかの報告義務を持つことになるが、それぐらいなもの。


 とはいえ、冒険者は義務などの面倒事が発生することを好まない放蕩者や逆にそれらの調査が終わってから自分がそのダンジョンに潜ることで利益を得られるかどうかを判断するような者が多い。

 そのため、異変が起こっているというグリーンダンジョンは今もなお冒険者は滅多に入らない。

 そんな状況の中でグリーンダンジョンに目を付けた冒険者がこの3人だった。単純にストーン級冒険者では手に入らないであろう魔術装備を手に入れるためという理由でグリーンダンジョンへとやってきていた。


「あ、ああ……そうだな!」

「よし、行くぞ!」


 二人の仲間からの言葉で力を取り戻したらしい。杖を持った後衛の男が目に力を宿らせて頷いたことを受けて、リーダーの男が二人を引き連れてダンジョンへと潜っていく。


「どうだ?」


 意気揚々と足を踏み入れた彼らだったが、その一歩を踏み入れてまずは首を傾げることとなる。


「ダンジョン魔物がいない?」

「……本当だ」

「噂の異変ってやつのせいか?」


 お互いの顔を見合わせて慎重に足を進める3人だったが、次の部屋へと足を踏み入れた段階でその動きを止めた。


「……なんだよこれ」


 リーダーの呟いた言葉が、即ち3人の言葉だった。

 彼らの眼前に広がっていた光景は――


「――ゴブリンハンマーにゴブリンロッドに……は? あれアント種じゃないか?」


 第3位階のゴブリン種が4体と彼らの言葉通りアント種――正確には1位階のアントたち――が部屋を闊歩している。ストーン級冒険者の彼らが最近になってやっと討伐した魔物が第2位階のブラックウルフだ。それもたった一体に対して3人全員で挑んでやっとだった。

 それが第3位階となってくるとただ一体のゴブリンにすらも討伐出来ないであろうことは簡単に理解できる話だ。

 それが4体。

 さらにはアント種が4体と、合計で8体。

 力だけでなく、数ですらも勝てない。


「おいおいおい」

「異変が起きてるってレベルじゃないだろ、これ」

「これはだめだ、逃げよう」


 その自然と漏れ出た何気ない会話はもちろんゴブリン達には聞こえないようにとひっそりと行われたものだったが、それがきっかけとなってしまった。

 アントたちが一斉に目を向け、次いでゴブリンたちもがその視線に冒険者たちを捉える。


「っ逃げるぞ!」


 一目散に逃げだした冒険者たちへとゴブリン達が殺到する。

 1部屋目かと2部屋目をつなぐ廊下を走り切り、一部屋目に入る。彼らはまだ廊下の道半ばといったところ。


 ――間に合う!


 とにかく死ぬことと装備品をなくしてしまうことの恐怖から逃げたい3人が半ば笑顔を浮かべた時だった。


「グギャーギーガ!」

「ギョーギャーギャグ!」


 ゴブリンロッド2体から魔術が放たれた。

 一体から放たれた10本にも及ぶ水の矢が軽装の男と杖を装備していた男に突き刺さり、その場で転倒。

 もう一体から放たれた一条の太い水が線を描いてリーダーの装備を貫き、同じくその場で転倒することとなった。


「くっ」

「まだだ、立って逃げるぞ!」


 声を掛け合う二人と――


「――ひっ」


 悲鳴を上げる一人。

 その悲鳴が、つまりはこの状況の全てを物語っていた。


「うおっ!?」

「いってぇ離れろこの虫野郎!」

「ぎゃあああああ!」


 殺到するアントに体をかじられ、とどめとばかりにゴブリンハンマーの銅の槌が振り下ろされた。


「……」


 それで、終わり。

 3人の冒険者はその場で絶命しダンジョンから侵入者が消え去った。


「ゲギャッ!」


 ゴブリン達がハイタッチを交わしアントたちもまた軽やかな足取りで元の部屋へと戻っていく。

 初心者ダンジョン『グリーン』は既に初心者であるウッド級冒険者はもちろん半人前とされるストーン級冒険者すらもが立ち入ることがかなわないダンジョンへと変貌しつつあった。

 

  



 この世界には神からダンジョンというシステムを使用できる能力を与えられたダンジョンマスターがいるように、この世界には神からスキルという能力を与えられた勇者がいる。

 それは人間の限界を容易く突破するものであったり単純に便利なものであったりと様々なものではあるが、そのスキルは着実に子孫たちへと受け継がれている。

 300年前に神から与えられたスキルを持つ者『勇者』は今も尚、脈々とその直系子孫の第一子へそのスキルを受け継ぎ、人族領魔族領を合わせて27人という数から変化せずに存在し続けている。

 スキルとはそれ一つで容易く人の壁を超える。まさに選ばれしものといえるだろう。


「ここは気持ちが良い地帯だな」


 その数少ない勇者であるゴールド級冒険者であるオリヴィエはついに港都市マリージョアを出発してグリーンダンジョンへと足を進めていた。

 オリヴィエが目を細めて周囲へと首を回す。

 人の手が入っているかのように揃えられた草。一本一本が気を使っているかのような間隔で巨大樹が存分にその背を伸ばし枝葉を茂らせている。魔物の気配もなく、ただでさえ穏やかになりそうな景観の中、時折流れる緩やかな風が吹き抜けて肌をそっと撫でていく。


「そうですね」


 パーティであるシルバー級冒険者のヘリックスが同意する。

 彼らが港都市マリージョアを出発した日は丁度、ストーン級冒険者たちがグリーンダンジョンで装備品の全てを失っていた日。

 オリヴィエパーティがダンジョンにたどり着くまで、残り数日といったところ。




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