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第35話「(ダンジョンの主が)挑戦者 後編」



 ゴブノスケが6階層で戦ったゴブリンたちは3体。

 部屋にいたダンジョン魔物の数としては少な目ということもあり無傷で突破したという側面は確かにあったものの、その数が5体に増えてもゴブノスケの歩みは止まらなかった。むしろ勢いに乗っているというべきか、徐々に早くなる踏破ペースにゴブリンたちは能力差と装備差になすすべなく突破されていく。


「この調子ならもうすぐダンジョンを突破できそうかな」


 呟いたゴブノスケだったが第10階層に入ろうとして完全に動きを止めた。


「は? えっと……うん?」


 何度も目をこすってはその光景を首を傾げる。


「なんで、アントが?」


 その言葉通り。

 10階層には様々なアントがゴブリンと共生していた。


「……テンマ、君一体何をしたの」


 改めて自分のダンジョンボスの常識外れっぷりに舌を巻くのだが、ゴブノスケの感情は徐々に驚愕のそれから興奮のそれへと変わる。

 アントがどうやって戦うのか、どういう特性を持つのか。そういったことを全く知らない。今、10階層はどういったダンジョンなのか。それを考えて笑顔を抑えきることが出来なくなっていた。 


 ゴブノスケの眼前に広がる魔物たちは計8体。第4位階のゴブリンたち4体と同じく4体の第2位階のアントたち。

 内訳はゴブリン種がゴブリンナイト2体とゴブリンマジシャン2体。アント種がソルジャーアントという蟻酸を飛ばすことが出来る黒蟻2体とアルゼンアントという動きの早さや甲殻の硬さが自慢のアント2体。


 ゴブノスケが理解できるダンジョン魔物はゴブリン種だけでアント種に関してはさっぱりわかっていないため、それらのアントの位階なども理解していない。もちろんダンジョンシステムを使用してしまえばそれらを判別できるのだが今この状況でそれの使用をするほどにゴブノスケは無粋ではない。

 これまでの階層のダンジョン魔物とは違い、全員がまるで疲れている体を休めているかの如く寝息を立てている。


「よし、行こう!」


 勢いよく踏み出す。

 部屋に入った異物に気付いた魔物はソルジャーアント。それが体を起こすと同時に連鎖反応を起こしてアルゼンアントが起き上がり、次いでゴブリンたちが一斉に立ち上がる。


 ゴブノスケが寝る前とは違う、まるで訓練されたパーティのような見事な連携。ゴブノスケは「うわ」と驚きの声を漏らすのだが、動きは止めない。

 まずはソルジャーアント2体からの、挨拶のように飛ばされた蟻酸を横へステップを踏んで回避。そこをまるで読んでいたかのように突進してきていたアルゼンアント2体の内一体を金の剣で両断。同時に練り上げていた魔力で左手から魔術として放つ。


「雷撃の一閃」


 魔法防御に対して耐性の低いアルゼンアントがそのまま燃えて消失していくのだが息をつく暇もなくゴブリンナイト2体が同時に押し寄せた。

 動き自体は速くないが、一撃一撃が重い彼らの剣撃を捌きながらも魔術を練り上げて一掃しようとするゴブノスケへと、それを妨害するためか、はたまた単純にダメージを与えるためか。


 放たれるゴブリンマジシャン2体からの水魔術。

 数十本にも及ぶ水の槍を、慌てて左手の魔術で相殺するのだが、直後に背後から飛んできたソルジャーアントたちの蟻酸がゴブノスケの背中へと直撃した。

 ソルジャーアントの蟻酸は溶解性を持ち、ゴブノスケの肌を溶かし、焼いていく……はずだったのだが、彼が身にまとう衣服には魔力が練り込まれており、特にゴブノスケの背中を覆うように身に着けているマントは対魔術用に格段の魔力が練り込まれていた。


 そのため蟻酸を受け付けずに、はじき返す。

 結果として見事に無傷で済んだゴブノスケは背後にいたソルジャーアント2体を次々と切り捨て、その勢いで再度雷の魔術をゴブリンナイトの一体へと放った。

 対物理には強くとも対魔術には弱いゴブリンナイトはそのまま倒れ、残りはゴブリンナイト1体とゴブリンマジシャン2体。こうなってしまっては今までの6階層から9階層までと変わらない。

 ほどなくして彼らは全てゴブノスケに敗北することとなった。


「……危なかったなあ」


 自分以外誰もいなくなった部屋で一人。

 位階による差から生まれる装備の差で、結局は無傷だったゴブノスケが安堵の息を漏らす。


 10階層は第4位階のゴブリンと第1~2位階のアントたちで構成されている。この階層での1部屋目を結局は無傷に終わったゴブノスケにとって、この階層の攻略は大変なことであっても難しいことではなかった。

 そもそも魔物の位階は一つ違うだけでも大人と子供ほどの差がある。第6位階のゴブノスケに対して第4位階のゴブリン種と第2位階以下のアント種しかいないダンジョンではそもそもの能力差がありすぎてゴブノスケを追い詰める、とまではいかない。

 というわけで、徐々に疲労をためながらも無傷で進むゴブノスケは10階層のボス部屋手前。

 最後の部屋へといつしかたどり着いていた。


「はぁっ!?」


 声を抑えることすら忘れたゴブノスケの視界に映ったダンジョン魔物は2体。

 オーガウォーリアーとクィーンアント。共に第5位階に位置する魔物だが、その2体の位階や魔物の名前を知っていてゴブノスケが驚いたわけではない。繰り返しになるが、ゴブリンキングでしかないゴブノスケの知識はゴブリン種までしかもっていないからだ。

 それではなぜ驚いたかといえばもちろん、今までに見たことのないオーガ種と巨大なアント種が共生していたからだ。


「もう、僕のダンジョンじゃないみたいだ……はは」


 呆れたような声を漏らすゴブノスケが、それでもここまで来たからには引くわけにはいかないと考えて足を踏み出す。

 途端に2体からの視線がゴブノスケに注がれた。


 ――来るか!?


 考えて反射的に魔力を練り上げながら迎撃態勢をとるゴブノスケに対して、2体の反応は少し違っていた。


 ――あっ、マスターだ!

 

 と、ゴブノスケの頭に声を響かせたクィーンアント――アンコ――とすぐさまその場で片膝をついて「待っていた。マスター」と傅いたオーガソルジャー。


「ええ?」


 戸惑うゴブノスケに対してアンコがまずは興奮しているのか、それを隠すこともせずに言い募る。


 ――初めまして。ボスのテンマの娘、クィーンアントのアンコです。父にはネームドまでしてもらっています。まだこのダンジョンに私たちアント種がいることには違和感があるでしょうけどこれからはずっと一緒なのでよろしくお願いします。


 え、テンマの娘? というかクィーンアントって言った? あ、え? アンコ? 君もテンマに酷いネームされたの?


 そんな言葉が、ゴブノスケの心の中を過っていくのだが、それを言葉にする前に今度はオーガソルジャーからの声がゴブノスケへと降りかかる。


「ずっと待っていた、マスター。お帰り。俺はずっとあなたと一緒に戦っていたレッドゴブリンだ」


 えっと……つまりは元は僕と一緒に虐げられていたあのレッドゴブリンってこと? え? なんでオーガ種になってるの? んん? オーガ種は君だけだけどなんで?


 アンコからの説明を受けた時と同様に疑問符を浮かべまくり、そのせいで言葉が出てこないゴブノスケに対して、彼らはそんなことを知ったことかと言わんばかりの勢いで言葉を紡ぐ。


 ――と、いうわけで。マスター、私たちと勝負よ!

「マスターが眠っている間に成長した俺たちを見てくれ!」


 アンコとオーガソルジャーが声に喜色を滲ませて叫んだ。

 その、あまりにも真剣な色が混ざった声にゴブノスケの困惑が全て吹き飛ぶ。

 考えることを後回しにした彼は己の頬を手ではたき、そして言う。


「いいよ! やろう!」


 そしてゴブリンの王へ、蟻の女王と戦う技術を持ったオーガが対峙した。

 ……のだが。


「待て」


 3者の邂逅に口を挟んだ無粋な声が彼らの背後から降りかかった。


「……テンマ?」


 少し、いや。

 あからさまに不満げな声をもらしたゴブノスケの視線の先にはテンマがいる。

 テンマもその無粋さには自覚があるのだろう。

 珍しく気まずい表情で己の頬を掻きながら言う。


「いや、客だ。通してやってくれるか」


 通してやれ、と断言するのではなく、確認をとるあたりにテンマの気まずさが現れている。

 全員がテンマの視線の先を追えば、そこに立っていたのはオーガソルジャーとゴブノスケにとっての大敵。

 ザッカスが青い顔をしてその部屋をのぞき込んでいた。



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