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第34話「(ダンジョンの主が)挑戦者 前編」



 グリーンダンジョンその1階層。その最初の部屋に転移してきたゴブノスケは目を見開いた。目の前に広がる光景が彼の知っているものとは全く違っていたからだ。


「うわ、皆も位階が上がったんだねぇ」


 どこか呑気な声だったがそのまま眺めて彼らの姿をじっくりと見た時、その呑気な声が完全に信じられないものを見ているような声色へと変化した。


「いや、あれ? ……進化しすぎじゃない?」


 彼の目の前にいるゴブリンの数は4体。第3位階のゴブリンハンマー、ゴブリンロッド、ゴブリンタリスと第2位階のレッドゴブリン。ゴブノスケが眠る前は1階層から5階層まで第1位階のゴブリンしかいなかったことを考えると、大きすぎる変化にゴブノスケが戸惑ってしまっても無理はない。

 自分も彼らも。

 嬉しくなる気持ちはあるが、今はお互い敵同士と想定している状況。

 容赦なくゴブノスケの金の剣が最前線のゴブリンハンマーの体を横に両断した。


「げ、ぎ!?」


 今度、驚かされた側はゴブリンたち。


 マスターが眠っている間に何度も殺し合いを続け位階が成長し、さらには本日ゴブノスケの目覚めと共に位階が成長した自分たちの姿を見せて驚かせてやるという気持ちで一杯だった彼らだが、ゴブノスケの進化もまた甚だしいという可能性を考慮していなかった。

 目にも止まらなぬ速さで一体が消失していく中、いつの間にやら急襲されることにも慣れていたゴブリンたちは即座にマスターであるゴブノスケへと殺到する。レッドゴブリンの石の剣がゴブノスケの背後から迫り、その隙にとゴブリンロッドとゴブリンタリスが魔術や神術を唱えだす。


 以前の、ハイゴブリンであったゴブノスケならばこれで十分に対処できたであろうが、ゴブリンキングとなったゴブノスケは一味も二味も違う。背後から迫る石の剣を両断し、返す刀で腹を切り裂いた。前衛があまりにも容易く対処されてしまい、後衛の詠唱も間に合わない。

 ゴブリンタリスへとそのまま肉薄してすれ違いざまに首を跳ね飛ばした。そこへ――


「ギョーギャギャゴ」


 ――10本にも及ぶ水の矢がゴブノスケへと殺到した。


 一本一本が鋭く、直撃すれば大きなダメージは免れない。本来ならば避けることのできないタイミングに、ゴブノスケは慌てずにその全てを金の剣で叩き落とした。


「ギッ!?」


 慌てるブルーゴブリンが魔力を練り上げながらさらなる間合いを取ろうと背を向けて走り出したところにゴブノスケが追いつきそのまま切り捨てた。


「ふぅ」


 ゆっくりと消失していくブルーゴブリンが微かに笑顔を浮かべていることに気付いたゴブノスケも小さく「僕が眠っている間、ありがとうね」と笑顔で伝える。その言葉に頷いたか頷いてなかったか、ブルーゴブリンは消失した。


 ――いや、本当に驚いたなあ。


 声に出さず、内心で驚きを噛み締める。一緒に戦っていたころに比べて戦闘の連携もこなれている。ハイゴブリンのままであったならおそらくはこの戦闘で大けがを負うか、なんなら敗北していた可能性もあった。

 ただし、ゴブリンたちが位階を2つ上げたことと同様にゴブノスケもまた位階を2つ上げている。その名の通りゴブリンの王であるゴブリンキングは第6位階の魔物で外の世界で現れた場合は国を脅かすほどの脅威とされる存在。

 ゴブリン最強種となった彼も今や十分に強者であり、そう易々とやられてしまうことはない。


 こうして、ゴブノスケはダンジョンを危なげなく攻略していく。

 1階層から5階層までは、各々部屋によってはゴブリンの数や種類が違ってはいるものの、ほとんど同じ構成であり、順調に踏破していくのだが6階層に入る階段の入り口でゴブノスケの動きが驚きで止まった。


「うわー、第4位階になってる」


 その言葉通り、6階層に入ってまたゴブリンたちの種類が変わった。

 第4位階といえば以前のゴブノスケと同じ位階であり、ダンジョン外では一気に見られる数が減る魔物たち。

 その位階にまで至るとゴブリンの種類もぐっと増える。ゴブリンハンマーから進化するゴブリンウォーリアー。ゴブリンソードから進化するゴブリンナイト。ゴブリンソードやゴブリンロッドの両方から進化する可能性があるゴブリンマジックソード。ゴブリンロッドから進化するゴブリンマジシャン。ゴブリンタリスから進化するゴブリンメイジ。


 彼らの装備は前衛系が鋼の装備を身にまとい、後衛系は魔法樹の杖や魔法石を装備としている。

 第3位階の魔物たちのそれに比べて冒険者たちにとって希少価値が高いことはもちろんのこと、非常に洗練されており冒険者たちも一流なものでなければ揃えることができないような代物が多い。

 ちなみにハイゴブリンはゴブリンソードから進化する種でもあるのが、このダンジョンにはいない。ゴブリンたちがマスターであるハイゴブリンと同じ種になってはいけないという意識の結果かもしれない。


「……まだ1部屋目だけど、第4位階と第3位階の割合は半々ぐらいなのかな?」


 部屋に一歩でも踏み入れば襲い掛かろうと目をぎらつかせているゴブリンたちの姿に目を奪われつつも、ゴブノスケは気合を入れた。

 第4位階の魔物たちは戦力重視の種へと進化しており、少なくとも知能重視で進化するハイゴブリンよりも強いことや、進化後の種類も豊富であり様々な連携の可能性もあることから、ゴブリン達による多種多様な仕掛けがあることも予想されるからだ。


 ――えっと、この部屋には3体か。大体部屋に4~5体のはずなんだけど、他の部屋に固まってたりするのかな?


 ゴブリンンナイトに、ゴブリンマジックソード、それとゴブリンメイジの3体を眺めながらも「よし!」と気合を入れて一歩踏み入れる。


 途端


「ギギググ!」


 ゴブリンメイジからの雷撃が走った。


「『雷撃の一閃』!」


 同じく魔力を練り上げていたゴブノスケもまた同様に雷の魔術でそれをはじき返す。雷の一本の線がそれぞれの中心でぶつかり、そして威力で勝っていたゴブノスケの魔術がそのままゴブリンメイジへと着弾した。


 それが、開始の合図


『雷撃の一閃』は威力としてもある程度優れている魔術だがゴブリンメイジを仕留めるには至っていない。ゴブリンメイジの衣服には魔力が流れており、魔術や神術に強いものでもある。一定のダメージにはなっているが、それだけだ。今は痺れて動けないがそれでもすぐに動き出すだろう。

 そのままとどめへと移行したいゴブノスケだが、当然そうはさせまいとゴブリンナイトとゴブリンマジックソードが動き出す。ゴブリンナイトは全身を鋼の甲冑で固めており、見るからに物理に強い。ゴブリンマジックソードはそれに比べてバランスが良い。鋼の剣と鋼の盾と、それにプラスして身に着けている衣類には魔力が流れており物理と魔術の両方の耐性を上げている。


 まずは軽装でゴブリンナイトに比べて動きが早いゴブリンマジックソードが鋼の剣を振るってゴブノスケへと襲い掛かる。頭から振り下ろされたそれを、ゴブノスケは冷静に横へと避けてからその剣をめがけて金の剣を振り払った。


「ゲゲッ!?」


 武器狙いは想定していなかったのだろう。驚きの声と共に鋼の剣が宙に舞って地面の壁へと突き刺さった。慌てて距離をとろうとするゴブリンマジックソードには目もくれず、背後から切りつけられた鋼の剣へと金の剣を切り結んだ。飛び散る火花がその一撃の重さを物語っているのだが、鋼の剣はその一撃でひびが入る。また、切り結んだ衝撃で体が一瞬だが痺れてしまったゴブリンナイトとは違い、ゴブノスケの次の動きは速かった。間合いを取りながら開いている左手から魔術を発動。


「光よ 燃やせ 切り裂け 潰し尽くせ」


 その詠唱に、3体のゴブリンたちはもう間に合わなかった。


「『雷槌』」


 ゴブリンナイトの頭上からその体を覆うほどに巨大な雷が降り注いだ。

 あまりの光量に目を開けることすら出来ずに動きを止めたゴブリンマジックソードへと、その隙にゴブノスケが迫っていた。


「グ」


 それに気づくも時すでに遅し。

 一刀のもとで首を両断されて消失。

 最後にやっと痺れから復活したゴブリンメイジだったが、今からでは詠唱が間に合わないと踏んだのだろう。別の部屋へと逃げ込もうとしたところへゴブノスケの剣がその胸へと突き刺さり、同じく消失。


「ふぅ」


 息を吐いて、気を緩める。


「流石に5階層までとは違っていたけど、うん。今の僕ってやっぱりけっこう強いんだなあ」


 誰もいなくなった部屋でゴブノスケは独り呟くのだった。

 


 

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[気になる点] ゴブリンロッドから進化するゴブリンロッド。 ( ͡° ͜ʖ ͡°)?
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