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第32話「ゴブリンの王」



 ゴブリンたちに聞きたいことがあったため、それを聞きに行こうと部屋を出ようとした時のことだった。

 ゴブノスケが目を覚ました。

 突如光が部屋を覆い、それから久しぶりの声を聞いた。


「んん……うわーよく寝た!」

「寝坊助のお目覚め……ということだな」


 声に引かれるままに後ろを見ると、そこには随分と姿の変わったゴブノスケがそこにいて、その姿に声を漏らしてしまう。


「ほぅ」


 思わず息を吐いてしまうほどの大きな変化。

 背丈は我と変わらない程度のままなのだが、それ以外の姿が大きく変化していた。薄い緑だった肌はさらに薄くなり白い肌という方が近い。白い肌に緑がかっているといった表現のほうが適切だろう。どちらかといえば魔族の見た目に近い。


 ゴブノスケ自身の見た目の変化としてはその肌の色の一点程度ではあるのだが、一見して目を引く違いはそこではなくその恰好ともいえる。

 ハイゴブリンの時は鉄製の剣と盾、それに布製の服という地味な恰好をしていたのだが、今のゴブノスケは違う。

 手に装備するは金の剣。身に着ける衣装は布製の服とゴブノスケの肌に似合う薄い緑のマント。服もマントも武器同様に金の意匠が施されており、要するにドがつくほどに派手……いや、派手というよりも趣味が悪いようにすら見える。服装だけならばゴブノスケに似合っているともいえなくもないところがなんともいえない憎たらしさすら感じさせる。


 だが、武器があまりにも、という印象。


 金の剣が派手に輝いている見た目は成金主義が見れば素晴らしいのだろうが実用性があるのかが甚だ疑問でもある。さすがに魔物が実用性皆無の装備を身に着けるような進化を果たすとは思えないため、。それに関しては追々、聞いてみることとして姿の変わったゴブノスケを再度見やる。

 ふむ、あまり懐かしいという感覚ではないな。

 久しぶりと言われれば久しぶりではあるのだが、そもそも我とゴブノスケなど数日会話した程度の関係でもあるため、そんなものだろう。


「いやー、ほんとよく寝た。ゴブノスケが初めてダンジョンに来てくれた時ぐらいよく寝たよ!」


 再度大きな声を張り上げながら、以前のゴブノスケらしい人懐っこい笑顔を浮かべて伸びをする姿は相変わらずともいえる。自然と浮かぶ笑顔を取り払い「それで、今の貴様は?」と尋ねる


「へ?」


 間の抜けた声を漏らす姿も変わっていないと思えるが、今はそれよりもゴブノスケ自身の変化が気になる。ゴブリン種に詳しくない我では今のゴブノスケがどの位階の魔物かがわからん。

 ゴブノスケが眠ってから目覚めるまでが1カ月と2~3週間ほどといったところ。

 我の予想よりも魔力の定着に時間がかかったゴブノスケの位階は今どこにあるのか。そういう意味でゴブノスケに尋ねたのだが我の言葉が足りずに伝わらなかったらしい。答えがなかなか返ってこないため、改めて具体的に問いかける。


「ハイゴブリンだった貴様は、どういったゴブリンに進化したのだ?」

「……あぁ、そういうことね!」


 言葉がたりないなー、とでも言いたげな表情になかなかに肩の力が抜けそうになるが、こういった奴だったことを思い出して遠い目になっていると突如としてゴブノスケが肩を震わせ始めた。


「ふふふ、テンマ……聞いて驚くがいいさ! 今の僕は君よりも強いかもしれないよ!?」


 ほぅ? なかなかに期待をさせてくれることを言うではないか。 そんなことを言われてしまえば我の方こそ血がうずいてしまうぞ。

 随分と自信を漲らせているるゴブノスケの表情はやはり、得意げであり、つまりは位階が一つどころか二つ以上あがったのかもしれない。


「ふむ」


 ハイゴブリンから位階が二つ上がったとするならば、まさか王種に一歩踏み込んだか? いや、だが流石にそう易々と王種へと至れるとは思えんが……とはいえこれだけ自信に溢れているのだから、というゴブノスケの自信と我の願望を込めて、予想を伝える。


「……ゴブリンキングに進化したとでもいうつもりか?」

「……」


 我の言葉に、ハイゴブリンが動きを停止。

 それから沈黙ののちにまたもや肩を震わせて、そして大声をあげて笑い出した。


「ふふふ……ふっふふふ……はーっはっはっはっはっは!」


 なんだこの先ほどからひたすらに浮かれているダメゴブリンは? とは口に出さす、さっさと答えろと視線で促す。ゴブノスケもそれに気づいたらしく、上機嫌なままで「そう!」と頷いた。


「僕はゴブリンキングへと進化を果たしたのさ!」 

「そうか!」


 まさか、本当にゴブリンキングへと進化を果たしていたとは。これには我も驚かざるを得ない。

 ハイゴブリンから一気にゴブリンキングへと進化を果たしたということはやはり位階が2以上はあがっているのだろう。

 これだけゴブノスケが調子に乗っていることにも頷かざるを得ない。


「はっはっはっはっは! ゴブリン最強はこの僕さ! いや、ダンジョン最強だね!」


 とはいえ、少々調子に乗りすぎなようにも見えるが。


「……ならば、試してみるか?」

「え?」

「我と貴様がどちらが強いかを」


 その言葉に、以前のゴブノスケならばなんと答えていただろうか。あまり好戦的とは言えなかったゴブノスケだが、それは今も変わっていないようで、あれほどに自信を漲らせていたゴブノスケが少しばかり目を泳がせる。

 だが、やはり今のゴブノスケは以前とは違う。

 目が自由自在に旅をしたのもつかの間。すぐさまその目に決意が宿る。


「やろう」


 端的なゴブノスケの言葉に、我の頬が自然と緩むのだった。





 ダンジョンマスターであるゴブノスケが目を覚ました。

 ダンジョンにゴブリンたちの全てがその事実を感覚で、そして彼ら自身に起きたその変化で知った。


「なんだ、これは」


 10階層にてオーガが突如発生した体の熱に戸惑いの声を上げる。


 ――どうしたの?


 何も起きていないアンコにはそれが何なのかもわからずに、ただ首を傾げることしかできない。

 オーガが自身の熱に戸惑いを覚えるとほぼ同時、ダンジョンのゴブリンも全員が似たような感覚に襲われるのだが、アンコを始めとしてアント種たちには何の変化もない。

 首を傾げることしかできないアンコたちアント種を尻目に、オーガが気づいた。


「これは……つよくなる、ときの?」


 そう、これをオーガやゴブリンたちは知っていた。

 位階が上がる時、突如として発生する熱。


 ――まぶしっ!


 アンコの念話がオーガの脳内に響くと同時。

 そして自身の体に生まれる熱に伴い、発生する光。

 オーガの光が伝播でもしているのか、ゴブリンたちもが同様に光を発していく。

 突如として発生したゴブリン種の進化。


 ――一体、何が起こっているの?


 今、自分たちに何が起こっているのか。

 それをいち早く感じ取った者は、もはや当然ともいえるのかもしれない。


「おれたち、しんか、する」 


 ――えっ!?

「ますたーが……おきた」

 ――そんなことが。


 ありうるの?

 という念話を、アンコは発することを止める。

 普通に考えるとありえない話だが、アンコはそれをすぐに信じたからだ。

 アンコも聞いただけだが彼らゴブリンと、このダンジョンのマスターは、なにせ100年以上を共にした最早家族ともいうべき絆を結んでいる仲間たち。まだこのダンジョンに来て1カ月程度のアンコや、さらに短いアント種たちでは絶対にたどり着くことの出来ない関係性をもつ彼らならばありうるのかもしれない。

 アンコはそう考えた。


 ――でも、確かにそれぐらいしかありえない可能性よね。


 ハイゴブリンであったゴブノスケがダンジョンをレベルをあげるため、自身の位階を上げるために眠りについていることはダンジョン内の魔物ならば誰もが知っていることだ。

 そのマスターの位階が上がり、目を覚ました。

 ダンジョン魔物のゴブリン種のみが、何の前触れもない進化を果たす。そのありえない現象をアンコが唯一解するとしたら確かにそれしかなかった。


 ――マスターに私、初めて会うわ


 眩しい光に覆われながらも、少し楽し気なアンコとは違い。


「そう、か」

 

 と、まるで万感の意を込めるかのようにオーガは呟く。

 その事実だけでオーガの胸には喜びが広がる。それはアンコやアントたち、もちろんテンマにもわからない。それこそ長い年月をゴブノスケと共に過ごした彼らだからこそ芽生える気持ち。

 戦闘中にあれだけ怒り狂うオーガとは全くの別魔物であるかのように。


「……ますたーに、いまの、おれたち、をみてもらいたい、な」


 オーガが穏やかに言うのであった。



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