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第2話「弱者の争い」


 

 ハイゴブリンがいなくなり、誰もいなくなったこの部屋で一人。

 ダンジョンメニューという文字に首をかしげる。

 視界の右端に映ったそれは存在しているモノではない。視界にのみ存在している。


「ダンジョンメニュー?」


 理解できないままに右端に映った文字を読み上げると文字が変化した。

 現れた文字は『ステータスメニュー』『ダンジョンボスメニュー』の二つ。


「さっきから全く意味がわからんが……うむ、興味が尽きぬな」


 この視界の端の文字が変化する原因は先ほどど照らし合わせると声にだすことか?


「ステータスメニュー」


 声に出すと、想定通りにまた文字が変化した。



 名前:テンマ

 種族:魔族……ということにしておいてやる

 職業:ダンジョンボス

 位階:神



 ……ふむ。


 なるほど、先ほどハイゴブリンが言っていたシステムとはこういうことか。

 まるで謎の力だが、これはおそらく神が関わっている。種族のところの『ということにしておいてやる』という文言からも魔神が関わっていることが感じられるため間違いないだろう……まだ、推論の域は出ないが。


 位階が神という文言もなんとなく意味を理解できるためこの際どうでもいい。


「職業:ダンジョンボス……が意味が分からんな」


 ただこれは先ほどのハイゴブリンに、また話を聞けば解決しそうでもあるため後回しにする。

 さて、次の文言だ。


「ダンジョンボスメニュー」 


 出てきた文言は一つ。



 特技:戦闘観察



「戦闘観察」


 文言を読み上げると今度は視界の半分を覆うような形で人族4人と5体のゴブリンたちの戦いが目に浮かぶようになった。先ほどまでいたハイゴブリンもそこにはいる。


「ほぅ、音も聞こえるのか」


 これはこれで面白い、と思えたのは束の間だった。 


「戦闘……ではないな、これは」


 戦いというにはあまりにも一方的。人族による暴虐・蹂躙と言った方が近い。


「弱者と弱者……児戯にも等しい」


 暇つぶしですら見たいとも思わない光景から、画面を閉じようとしたときに気付いた。


「先ほどのハイゴブリンが死んだら話が聞けんではないか」


 ゆっくりと立ち上がる。

 あれがお互いのプライドを賭けた決闘というわけでもあるまいし、邪魔をしても問題なかろう。


「これも何かの縁ということか」

 





「ギョーギャー!」

「ロックボール!」


 ブルーゴブリンが放った水の塊が放物線を描いてスキンヘッドの冒険者に襲い掛かるのだが、それに返すように後ろに控えていたローブに身を包んだ冒険者が岩の塊を直線的な軌道で放つ。水の塊と岩の塊がぶつかった瞬間には水がはじけ飛び、岩の塊がそのままの勢いでゴブリンたちの集団へと襲い掛かった。


「ギギャッ!?」

「みんなっ!」


 なすすべもなく弾き飛ばされた仲間のゴブリンたちに、ハイゴブリンが鋭い息を吐いて目の前のスキンヘッドの冒険者へと襲い掛かる。


「へっ、相変わらず弱っちい仲間だなぁ! ハイゴブリンよ!」

「っ!」


 ハイゴブリンの鉄の剣と冒険者の鉄の剣がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。


「いいのかっ、俺に気を取られてよぉ!?」


 スキンヘッドの冒険者の言葉通り、周囲では次々と仲間のゴブリンたちが倒れていく。


 ――くそ。


 ハイゴブリンが内心で悪態をつく。

 ゴブリンである彼らが負けるときはいつもこのパターン。ハイゴブリンが目の前の冒険者を相手取っている間に他の仲間たちがやられてしまう。


「うるさい、人族!」

「へっ、相変わらず一人だけやる気満々じゃねぇかっ!」


 ハイゴブリンの上段からの振りおろしは冒険者のアッパーのように振り上げられた盾で防がれる。その反動で、お互いの手が痛みを覚えたのか若干のしかめっ面になるがそれで動きを止めるほどに素人の一人と一体ではない。今度は冒険者の剣がハイゴブリンの心臓めがけて、まっすぐに突き出されるもハイゴブリンの盾がそれを横から弾き飛ばした。


「うっぜぇんだよ、てめぇは! さっさといつも通りに許しを請いやがれ!」

「断るっ!」

「ぐぉ」


 剣を弾かれて体勢が崩れた冒険者の腹にハイゴブリンの蹴りが突き刺さり、体がくの字に曲がる。完全に姿勢が崩れた。それは一人と一体の戦いにおいては絶対の隙で「もらった!」


「ひっ」


 冒険者の顔が恐怖に染まる。


 ――勝てる! 初めて! こいつだけはここで!


 未だにしびれの取れない剣を握った腕を強引に振り下ろそうと構えて「待て!」

 横からの言葉で腕を止めた。


「っ」


 何が起きたか、それをわからないというにはハイゴブリンにとってはもうお馴染みすぎた。ため息を吐きながら横を振り向いた彼の視界に映った光景は、まさに彼が想像していた通りの光景。体を縛られて動けないレッドゴブリン2体が短剣を構えた冒険者によって転がされていた。


「……ブルーゴブリンとホワイトゴブリンはやられたんだね」 

「ギ」

「ギィゲン!」

「いや……仕方ないさ」

「それ以上動けばこいつがどうなるか……わかるだろう?」


 諦観の会話を繰り広げる3体へと、軽装に身を包んだ短剣の冒険者が下卑た笑みを浮かべる。


「……」


 いつも通りの言葉に、ハイゴブリンはもう声すらも出さない。これから起こることを理解しているからだ。


「ゴブリンごときがああああああ!」


 いつの間にか立ち上がっていたらしいスキンヘッドの冒険者が盾でハイゴブリンを殴りつける。なんの抵抗もせずに弾き飛ばされるハイゴブリンに「ギャッ!?」という言葉が漏れる。


「口を開くな、クソゴブリンが」


 短剣の冒険者がレッドゴブリンの肩に短剣を突き刺し、横に立っていた魔術師の冒険者が手のひらに灯したファイヤーで口を焼く。


「ッ゛ッ゛?」


 声にならない悲鳴を口から漏らすレッドゴブリンの姿に「やめてやってくれ」とハイゴブリンが立ち上がりながらも弱々しい声を漏らす。


 ダンジョンモンスターをすぐに殺した場合ではこのようにハイゴブリンはいうことを聞かない。あえて殺さずに痛めつけて虐げることでこそこのハイゴブリンが言うことを聞くと気付いた冒険者たちは定期的に訪れるようになった。

 それが数年間繰り返されてきており、人族の顔など見分けもつかなかったはずのハイゴブリンも彼らの顔だけは覚えてしまっていた。


「今日も遊ばせてもらうぜぇ?」

「いやー、ストレスがたまった時はここに来るに限るぜ」

「雑魚しかいない分、殺し放題だからな」


 冒険者たちの好き勝手な言葉はいつも通りで、ハイゴブリンにとっても聞きなれた言葉でもある。普段ならばどうにもならない悔しさとこれから受けるであろう痛みへの恐怖という二つの感情以外にも、心の底ではいつか見返してやるという強い希望があったため、彼は心が折れずにいられた。


 その希望こそがダンジョンメニューにある『????』。


 ハイゴブリンがダンジョンマスターとなって150年。最初の50年でダンジョンを成長させることが出来なくなり、それからは100年以上の毎日をその『????』にダンジョンポイントを注いできた。彼のダンジョンには冒険者が来なくなり、たまに来る冒険者や仲間であるはずのダンジョンマスターからの馬鹿にされ、こうして甚振られそれでも成す術がなく、ただひたすらに奇跡を信じ愚直に日々のダンジョンポイントを注いできたのだ。


 何かが変わると信じて、毎日毎日。

 それを100年。


 ダンジョンマスターであるハイゴブリンにとってだけではなくダンジョン魔物たち全員にとっての希望だった結果が今日、出た。そうして現れた白髪と赤い瞳の一般的な魔族。魔力に優れるとされる翼や角があるタイプでもなく、そんな普通の魔族だった。


 つまり。


「……くそぉ」


 彼の心の支えが折れた日だ。


「お? こいつまさか泣いてんのか!?」

「こいつぁ傑作だ!」

「ぎゃははは、ゴブリンごときが生意気に泣いてやがる!」


 こぼれそうになる涙を必死にこらえているハイゴブリンを見た冒険者たちが囃し立てる。

 それがまたハイゴブリンの心をえぐる。


「泣いて許されると思ってんじゃねぇぞ、クソゴブリン! さっき俺を殺そうとした分が終わってねぇんだぞ!」


 スキンヘッドのの冒険者がハイゴブリンの腕へと剣を振り下ろす。もうハイゴブリンには抵抗する気力も残っていない。これから来るであろう痛みに目を閉じて「な、なんだてめぇ!?」


「……?」


 斬撃による痛みではなく、冒険者の狼狽した声が耳に入り恐る恐る目を開けたハイゴブリンの前には翼もなければ武器もない普通の魔族。


「き、君は……さっきの」


 剣を体で受け止めて、けれど全く意にも介さず。


「ふむ、まぁこんなものだろうな」


 何も気にしていない彼の言葉がなぜか一帯に響いた。 



設定に重大なミスがあったため

2022/04/02

に編集いたしました。


一応現在の本編(第49話まで)には全く影響ありません。万が一ですが、しっかりとここの設定を覚えていた方がいたら申し訳ございませんでした。


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