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第20話「既にイエロー」




 港都市マリージョア。その冒険者ギルドのギルドマスターの部屋において。

 ギルドマスターのテオドニと副ギルドマスターのヨハン。それとヴァレンスパーティ。計7人が顔を突き合わせていた。


「『グリーン』に強力なダンジョンボスが生まれ、オーガが生息し、シアアントの姿も見つかった、その上ハイゴブリンの位階が上がる予兆がある、か」

「ザッカスがやられた時に怪しいと思ったが……これはまた随分とてんこ盛りなこった」


 ヨハンの呟きに合わせてテオドニが机の上へと足を放り投げて天井を見上げる。


「こらこら、単純に行儀が悪いことをするんじゃないよ。全く」

「いーじゃねーか。別に行儀をよくしなきゃいけねー奴らでもねーしよ」


 そう言ってチラリとヴァレンスへと視線を送るテオドニ、ヴァレンスが「はは」と困ったような笑顔を浮かべる。その様子にため息を零したヨハンが話を戻す。


「ボスが生まれ、それに伴いダンジョンが強化されてオーガが生まれるようになってしかもダンジョンマスターが進化する……ということに関してはダンジョンの強化という点では違和感なく、むしろ将来的にはあのダンジョンでも集客が見込めるかもしれないという良いニュースではあるね。ザッカスが倒してたダンジョン魔物たちの位階も上がっていたって?」


「はい、1~5階層では第1位階のグリーンゴブリンしかいないはずですが、第2位階のレッド、ブルー、ホワイトが散見されました。6~9階層も元々は第2位階のゴブリンしかいないはずなのに第3位階のゴブリンハンマーやソードがいました」


 位階とはギルドが設定した大まかな魔物たちの強さの指標だ。冒険者ランクがウッド級、ストーン級、ブロンズ級、スチール級、シルバー級、ゴールド級、白金プラチナ級、伝説級、神話級までの9ランクあるように魔物の強さの位階は第1位階~第7位階、天災級、神災級までの9ランク存在している。


「これらはダンジョンの強化に付随するものということは推測できるね。だけど――」


 言い淀むヨハンを次いでテオドニが「シアアントってのは……穏やかじゃねーな」


「そうなるね」


 頷きあうギルドマスターと副ギルドマスターに、だがヴァレンスが「たった一体のシアアントならば気にする必要はないんじゃないんですか?」と首を傾げるのだが、二人は首を横に振る。


「シアアントはクィーンアントへとなる可能性をもつ唯一のアント種。進化する可能性がある以上、気にしておく必要はあるんだよ」

「まぁたった一体のシアアントだ。その一体がクィーンまで進化する確率の方が少ねーのは確かだ。が、一体のシアアントが出た以上、あのダンジョンには他のシアアントも生まれる可能性もあるってこったろ?」


 ハッとした顔をするヴァレンス達。


 ――しまった。最後にボスの名前じゃなくてその可能性を聞いておくべきだった……失敗した。


 完全にあの場所、あの時には自分のことしか考えていなかった自身へと頭を抱えてしまうヴァレンス。そもそもあの時に一体のシアアントに危機感を持っていなかったのだからそれはどうしようもない話ではある。そのためか、その様子に気付いたテオドニがヴァレンスを笑い飛ばした。


「はっ。気にすんな。異変が起きてることを知れただけで十分な収穫だ」

「うん。定期的に冒険者を送って経過観察すれば問題なさそうだね。良い傾向か悪い傾向かはこれから先のあのダンジョン次第かな」 


 依頼の達成とダンジョンの異変がまだそこまで大きな問題ではないという言葉に、安堵するヴァレンス。


 ギルドマスターの部屋の空気が弛緩し、そろそろ解散かという流れになったところで「あのシアアントは進化すると思うよー」

 と、イブラが再びその空気を張り詰めさせた。


「……根拠はあんのか?」


 テオドニとヨハンの表情が一変する。もちろんだがこれはイブラへ怒っている、というわけではない。イブラの発言内容が事実だったとした時に、それはあまりにも危険なことだから自ずと表情が険しいものとなっているだけだ。


「あのシアアントをずっと見てたんだよねー。それで気づいだんだよー。あのダンジョンボスの魔力の影響をもろに受けてるって。既にあのダンジョンボスの魔力が染み入ってるような感じっていえばいいのかなー? あれは間違いなく進化すると思うな―。クィーンまではわからないけどプリンセスまでは確実だと思うよ、僕はー」


 この言葉に、今度はヴァレンスたち3人が一気にその言葉の意味を理解し、表情を険しくさせた。


「っ!」

「そういう、ことなのね」

「なるほど、だからあの時あんたは会話に集中してなかったのね」


 順にヴァレンス、マリー、スザンナ。

 ダンジョンボスであるテンマと相対し、その重圧を受けたことがある彼らだからこそ、その意味を完璧に理解していた。

 そんな彼らとは対照的に、テンマと対峙したことのない二人が首を傾げる。


「?」

「どういうことだ?」


 一般的に考えて魔族のダンジョンボスの魔力がアント種の魔物へと溶け込むということはあり得ない。だから理解のできない二人へと、テンマの常識外れの恐怖を経験した彼らを代表してヴァレンスがただ一言。


「見ればわかります」

「……」

「……」


 つまり、見てもいない二人にはわからないと、それ以外にはないと言外に伝えるヴァレンス達。彼らがまた本気の目をしていることで二人が絶句すること数秒。まずはヨハンが頷いた。


「そう、か……わかった。ご苦労だったね。対応はこちらで考えておくとするよ」

「おー、ご苦労さん。報酬は受付から受け取れよ」


 つまり、出て行って良いという言葉に、ヴァレンス達がホッと息を吐いて立ち上がる。


「じゃあ対応が決まったらまた教えてください。やっぱり気になるんで」

「もちろんだ」


 そのまま4人がぞろぞろと外を出て、扉を閉める。


「……」

「……」


 お互いの数秒の沈黙の後、両者が同時に顔に手を当て、俯いた。


「これはまた面倒なことになりそうだね」

「間違いなく、なるだろうな……めんどくせぇ」

「……」

「……」


 また、沈黙。

 だが二人はこの沈黙の間に思考をまとめていたらしい。当てていた手を外し、向き合った二人の顔は真剣なそれへと変化していた。

 まずはヨハンが口火を切る。


「シアアント、ね」

「そもそもダンジョンで虫型魔物が発見されたって話は久しぶりに聞いたな。本当にクィーンにでもなっちまったら笑えねぇぞ?


 テオドニの言葉でヨハンが大きく頷いた。

 シアアント、ひいては虫型魔物が非常に危険な存在であるという認識はギルドや国に携わる人間にとってはあまりにも常識な話だ。


 ダンジョンが発生するようになって300年。ダンジョンから大量の魔物が野に放たれる魔物の氾濫(スタンピード)が発生し、大災害となったケースは何件がある。そのほとんどが虫型魔物の王種が生息していたダンジョンで起きた、ということは300年の歴史が物語っている。


 故に虫型魔物がいるダンジョンは即座に討伐対象となる。

 現在で確認されている中で虫型魔物がいるダンジョンは人族領と魔族領に一つずつ。それだけだ。それ以外の全ては討伐対象とされて、国が誇る勇者たちによって討伐されてきた。残っている一つずつも厳重に管理されている。


 ではなぜ虫型魔物のダンジョンから魔物の氾濫(スタンピード)が起きるのか。

 その理由として挙げられる最大の理由は虫型魔物の繁殖力にある。その膨大な繁殖力の結果、あまりにも繁殖しすぎて増えたダンジョン魔物がダンジョンの許容量を超えてしまうからだ。

 超えた結果、その全てが野に放たれてしまう現象が魔物の氾濫(スタンピード)なのだ。


 一度、魔物の氾濫(スタンピード)が起きてしまえばその被害は国中に及ぶと言われており、非常に危険視されている。だからこそ、テオドニとヨハンの二人に、今回のことを放置するという選択肢はなかった。


「彼ら4人が同意見というのならばその信憑性は高い。ならそのつもりで動くべきだろうね」

「だな……まずは王都にある本部に届け出を送るところからだ。そっから調査団が来て、そいつらがどう判断するかってのに任せるか。クィーンに進化するって根拠は出せねーが、なにせ虫型魔物だ。王都のやつらも無視はできねーだろう。動きの遅ーあいつらのことだから3か月ぐらいかかるかもしれねーが」


「3カ月も放置はできないね。100年間変化がなかったダンジョンに、ボスが現れたというザッカスの報告からはまだ1カ月も経っていない。にもかかわらずオーガがいるということは急激な変化があのダンジョンに起きていると思うべきだ」


「同感だな、だからまた別のパーティに調査依頼を出すしかねぇと思ってる。金はかかるが、こればっかりは仕方ねぇ」

「……」


 そこでふと思案にふけったヨハンが数秒の沈黙を経て「あ」と声を出した。

 銀級冒険者であるヴァレンスたちがボスに勝てなかったというのならば、それよりも強い冒険者を送り、ボスの強さをある程度把握しておきたいというのがギルドとしての考え方だ。さらにもしかしたら次の調査時にはダンジョンがより深くなっている可能性もある。

 ならば余程の冒険者でなければならず、さらにギルドから見ても信頼に足る人物でなければならない。


「ということは勇者『首狩り』か?」

「あー。あいつのパーティはまだこの都市に拠点を置いてんだろ? 確かダンジョンに出てたはずだからもう少しで帰ってくるだろうし、調査間隔としても丁度良いだろ」

「そうだな。調査は早すぎれば意味がないし、遅すぎても後の祭りとなる。だから時期的にも人物的にも彼女たちが適任だと俺も思うよ」

「討伐して良いってんなら俺たちが行けばいいだけなんだがなー」

「そうは言っても国とギルドで管理する決まりがある。仕方ないだろう……あと俺はもうお前と違って現役ではない。無茶を言うな」

「へーへー」


 ヨハンの言葉に、テオドニがおざなりな返事をするのだった。 


冒険者のランクのブロンズ級→スチール級→シルバー級に関して

鉄→銅→銀の方がわかりやすいのかなぁ。

鉄級という字面がなんとなく嫌で無理に本文の形にしました。


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