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第16話「告知」



「貴様らがこの弱小ダンジョンへと来た理由を知りたい」


 マリーの問いを遮り、放たれた質問だった。話の流れからテンマの視線はマリーへと向かっており、必然的にマリーが答える。


「私たちはギルドの依頼でダンジョンの異変を調査しに来たの」


 ――ギルド? 組合か? なんの組合だ?


 先ほどまでの質問の意図を理解すると同時に聞きなれない言葉に首を傾げたテンマだが、そこに彼の関心がないためその疑問はそのまま流れて別の質問へと生まれ変わる。


「異変にどうやって気づいた?」

「気づいた……というよりもその可能性があるかもしれないから、異変があるかどうかの確認のための調査よ」

「なるほど。気づいたわけではなかったのか……ではその可能性があることに至った理由は?」

「それはザッカスさんがあんたに殺されたことが発端だったかな」


 答えたのはマリーではなくヴァレンス。


「……ザッカス?」

「スキンヘッドの、今日も一人で来てたん……オーガに殺されてしまった冒険者なんだけど」


 というヴァレンスの言葉にテンマが頷いた。


 ――あの男が……ザッカスか。


 なにせゴブリンハンマーがオーガへと進化したその瞬間を見ていたのだ。その時に敗北した男の顔もいくら興味がないとはいえ忘れるはずがなかった。


「ふむ……なるほど。つまりまとめると、あのザッカスという男がこのダンジョンで死んでしまったことからこのダンジョンの異変の可能性に気付いた人物がいて、貴様らはそれに指示をされて調査に来たというわけだな」

「ああ」

 ――見事な感性だな、その指示を出した人物は。


 まずテンマに浮かんだ感想が、それだった。

 ザッカスがグリーンダンジョンで死んだという一つの事実だけで異変の可能性を探り当てることは、当たり前のようで当たり前ではない。ザッカスという人物とグリーンダンジョンの他者評価をテンマは知らないが、彼の中である程度の予想はついている。


 大半の人間ならばまず見逃すであろう些細な一点を見逃さなかった人物へと、心の中で素直な称賛を送るテンマだったが、顔も知らぬ人物へと想いを馳せる時間はそこまでだった。


「やはり」


 と笑みを浮かべて言葉を続ける。


「我にとっては好都合だ」

 ――好都合?


 話をあまり聞かず、じっとテンマの足元にいるシアアントを見つめて動かないイブラ以外の3人が首を傾げる。3人がその問いを口に出さなかった理由はもちろん一人につき一問までという話のせいだが、テンマはそれを気にせずに口を開く。


「つまり貴様らはこのダンジョンの異変を知りたかった。そして我は貴様らにこのダンジョンの異変を知らせたかった。そういうことだ」

「……は?」

「知らせたかった?」

「え?」


 予想をしていなかったその答えに一同が声を漏らす。ダンジョンの異変を知らせたい……という意味が彼らには理解できないからだ。


 彼らとてダンジョンマスターやダンジョンボスと会話したことなどない。そういった話も聞いたことがない。それ故にダンジョンマスター側の意見を聞いたことがない。だが、ダンジョンマスター側は襲撃される側だ。それをダンジョン側が求めているという今の情報が、襲撃をする側の冒険者には想像がつかない。


 ――なぜ?


 という疑問が当然ヴァレンス達に浮かび、それを聞くかどうかを最後の質問枠を残しているヴァレンスが悩んでいる間に、テンマがまた言う。


「我はこのダンジョンを多数の冒険者が来るようなダンジョンにして強者と戦いたいという願望がある。それ以上でもそれ以下でもない」


 強く言い切ったその言葉は、ヴァレンスの胸にしっくりと落ちていく。

 ヴァレンスは銀級の冒険者。銀級冒険者は超がつくほどに優秀と言われており、小さな都市であればその冒険者がいればどうにかなるともいわれるほどの冒険者だ。その彼でも恐怖に身がすくみ、動けなるなるほどに力量差があるテンマ。


 最早想像がつかないほどのその強さを持つ人物をもう一人、ヴァレンスは知っているが、その人物もまた本気で戦う機会がないと愚痴をこぼしていたことを思い出し、ヴァレンスは質問を取り下げる。

 確かにあれほどの強さならば、それを発揮したいという願望も理解できる。


「つまり……あなたは私たちにダンジョンの情報を持って帰らせることが目的だったから質問に答えてくれていたということ?」 

「うむ、そういうことだ」


 今度はマリーが問い、テンマが頷いた。


「そういうことだったのね。理解はできないけれど、納得はしたわ」


 受け答えをしていたマリーからテンマは目を離し、納得をしたと頷いたスザンナへと言う。


「先ほどの魔術具はまだ持っているのだろう」

「あ……あるわ」


 スザンナの後退りしながらの答えをテンマは聞いているのかいないのか。既に興味をなくしたかのように、足元のシアアントをなでながら部屋の扉を指を差した。


「さっさと帰れ。そしてこのダンジョンがもうすぐじきに最強のダンジョンに変化するということを伝えるが良い」

「……みんな、準備するからこっちへ来て」

「もういるよー」

「ええ」

「……」


 スザンナの呼びかけにイブラとマリーは応じるのだが、肝心のリーダーであるヴァレンスが動かずにテンマを眺めている。

「ヴァレンス? どうしたの?」


 不思議に思ったマリーが声をかけ、ヴァレンスが首を横へと振った。


「悪い、みんな。先に外に出ておいてくれ。俺は死に戻りを選択する」

「は!?」

「えー?」

「ヴァ……ヴァレンス?」

「……ほぅ?」


 声を上げた順番にスザンナ、イブラ、マリー、そしてテンマ。

 冒険者たちの反応はいたって当たり前だ。

 仲間が急に死に戻ると、しかも突拍子もなく言い出したら誰でも驚くだろう。 


「どうせこの装備は既製品のみで作られてるし、死んでも素っ裸になるだけだ。幸い拠点に戻れば貯金もある……なら、俺は戦いたい」

「で、でも――」


 どうにか言い聞かせようするマリーの言葉を、ヴァレンスが割る。


「――このボスは強い。それこそうちのギルマスのスキル使用時くらい強いかもしれない……だから、俺は戦いたい。今の壁を突破して金級冒険者になるためにはもう一つきっかけが欲しいと思ってたんだ……だから頼む。戦わせてくれ」


 ヴァレンスはまだ21歳と、若い。

 その年齢で銀級冒険者になっている者は特別な力を持った者――ダンジョンシステム導入時に神から選ばれた52の勇者。その直系子孫――以外では非常に少なく、凡人の中の天才とも称されている彼だが、全く満足していなかった。


 天才だろうが何だろうが現時点では単なる銀級でしかなく、現時点での彼よりも強い人間は山ほど存在しているからだ。 

 そのヒントをもしかしたらこの場で得られるかもしれない。


「ど、どうするマリー?」


 狼狽えたスザンナがマリーへと助けを求める。ヴァレンスのその想いを知っているマリーは「はぁ」とため息を一つ。

「わかったわ、なら私も戦う」

「なっ!?」


 今度はヴァレンスが驚く番だった。固まってしまったヴァレンスをマリーは放置してスザンナへと声をかける。


「……そういうわけだからイブラと外で待っていてくれる?」

「で、でも……じゃあ私たちも」

「ダメよ。私たち全裸になるだろうだから服を用意しておいてほしいの……だから先に戻っていてくれる? イブラも」

「わかったー。いっこかー。スザンナ」


 イブラの反応は早い。スザンナの手を握り、その手に握られていた魔術紙を地面へと置き、未だに躊躇しているスザンナの代わりに発動した。


「ちょ、ちょっとイブラ!?」

「別に死ぬわけじゃないしー、確かに外で待つ人も必要だしー」

「……わかったわよ、全く、仕方がないか」

「ええ、準備宜しくね」

「おっけー」


 魔術紙を魔術陣が現れたとこで、永遠に固まっていたヴァレンスがやっとここで復活した。


「マ、マリー!? 俺に付き合う必要なんて――」

「――あなたに置いて行かれたくないだけよ?」


 そう言って決意を固めたマリーの微笑みは同性であるスザンナですら美しく感じるものであり、ヴァレンスに至っては完敗してしまった。赤面して「ならいい」とそっぽを向く。


「じゃあ後でね!」

「お先にー」


 スザンナとイブラが魔術陣の光と共にボス部屋からいなくなった。


「……」


 束の間の静寂。後にヴァレンスとマリーが頷きあい、再度テンマへと相対する。


「待っていてくれて、ありがとうな」

「心からお礼を言うわ」

「なに、構わん。恐怖におびえ、勝てぬと知りながら、それでもそれを成長の糧と割り切るような人物は嫌いではない」


 テンマの足元にいたはずのシアアントはヴァレンス達が会話をしている間にまた離れており、テンマの準備も出来ている。その準備の早さからテンマもまたこの戦闘に楽しみを見出しているということが見て取れる。


 ――この戦闘狂め。


 ヴァレンスが小さく笑い、魔力を高めながら武器を構える。同じくマリーもその斜め後ろで魔力を高めながらモーニングスターを構える。


「さぁ、始めよう」 


 テンマの重圧がまた広がる。

 先ほどは生きることすらを諦めさせたその重圧に、ヴァレンスとマリーはただひたすらに声を振り絞った。


「いくぞ、マリー!」

「いつでも、ヴァレンス!」


 己を鼓舞するかのように叫ぶ二人へとテンマが笑う。


「いつでもかかってくるが良い」



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