プロローグ
彼らの戦闘が始まって既に丸三日が経っていた。
石で作られた巨大な魔王城は跡形もなく、それどころか地面にはいくつものクレーターがあり、森林一帯も吹き飛び、地割れもそこかしこで起きており、そこで対峙する彼ら以外の生命体は一切ない。戦闘跡どころではない、災害そのものの被害だ。
これらの被害がたったの4人で行われていることからも尋常ならざる者たちの戦いであることが見て取れるのだが、たとえ彼らが尋常ならざるものだとしても体力が無限にあるわけではない。
つまり――
「くっはは、ははははははは!! 楽しい! いや、楽しかったぞ! 勇者たちよ!」
――決着が着いた。
銀髪の男が背中の翼を大きく広げ、血を吐き出しながらも高笑いをあげて背中から倒れた。
体中から血を流し、地に倒れ、だがそれでも息切れ一つ起こしていない銀髪の男とは対照的といえるだろうか。3人の勇者も同様に体中から血を流しているが、両の足で地に立ち、今にも倒れそうなほどに息を吐いている。
「っ随分と余裕だな……魔王テンマ」
「くくく、余裕などあるはずもない! 全く体が動かぬ! 力すら入らぬ! 今の我とまともに打ち合えた存在は勇者である貴様が初めてだったぞ!」
「そりゃどうも」
剣を半ば杖代わりにして立っている勇者へと視線だけを向けて笑う魔王は次いで、その横で未だに油断一つもせずに魔王をにらみつけながら杖を構えているローブの男へと視線を。
「今の我にまともなダメージを与えた魔法使いは貴様が初めてだった!」
「魔王に褒められても素直によろこべませんねぇ」
「くくっ、配下たちにとっては至上だったのだがな」
魔法使いの言葉にもまた笑い、最後に最後尾で未だに魔術を発動している女性へと目を向ける。
「聖女よ、今の我の攻撃を防ぐ補助魔術も見事だったが何よりも見事だったのは貴様の封印魔術よ。まさか我の体が一歩も動かぬとは」
「……あなたを倒すことが出来れば最善だったんだけどね、力不足で悔しい限りよ」
「ははははは! いや愉快。実に愉快だ! これほどの戦士たちに出会えたことだけでも愉快だったが、まさか我の隙をついてこれほどに強力な封印の術式をくみ上げたとは見事! 我の敗北だ! 満足! 惜しむらくは敗北してなお死ねぬことだが……我は敗者だ。それもまた仕方なし」
倒れたままで大きく笑う魔王へと未だに肩で息をしながらも少し回復したのか、ゆるぎない足取りで魔王へと勇者が近寄る。
「さぁ、魔王テンマ」
剣を魔王へと突き付けて勇者が笑う。
「お前とは戦うことになっちまったが、お前のことは嫌いじゃなかったぞ」
「ふむ、勇者の言葉とは思えんが素直な意味で受け取っておこう。さて……最後に一つだけ良いか?」
「……なんだ?」
この言葉一つですぐさま目に警戒の色が浮かぶ勇者に、魔王はまたどこか楽しくなったらしく「くく」と小さく笑った。
「我を封印してみせた貴様らの名を知りたい。それだけだ」
勇者たちが顔を見合わせて、小さく頷いた。
「俺の名前はガンド」
「僕の名前はイチローです」
「私の名前はヒマワリよ」
この日、史上最強と謡われた魔王テンマは3人の勇者たちにより封印された。
こうして全種族、果ては神たちにとってすらも平和が訪れた……はずだった。